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【著者インタビュー】大山顕『立体交差 ジャンクション』/「ヤバ景」愛好家厳選写真から知る土木インフラの世界!

団地や工場鑑賞の先駆者、「ヤバ景」愛好家が選んだジャンクションの写真114点と、その考察から成る奥深い写真集を紹介します。

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

都市に、野山に、水辺にと列島にはりめぐらされた高速道路網を観る目が更新される、前代未聞の写真集

『立体交差 ジャンクション』
立体交差 ジャンクション 書影
2500円+税
本の雑誌社
装丁/松本孝一(イニュニック)

大山顕
13号 大山顕
●おおやま・けん 1972年所沢生まれ、船橋育ち。千葉大学工学部卒業後、松下電器産業に入社。その傍ら写真家、ライターとして活動し、07年に独立。著書・共著に『工場萌え』『ジャンクション』『団地さん』『ショッピングモールから考える』『真上から見た狭くて素敵な部屋カタログ』等。現在は川崎大師近くの「パン工場をリノベした物件」に住み、「僕の興味の対象は増える一方で、ときめくものが多すぎて断捨離なんて全然できない(笑い)」。165㌢、55㌔。

互いに役割を託すことで運営されている都市において景観問題は「信頼の問題」

 ゾワッ、とするかどうか。
 何事もマニアになれるかどうかは、おそらくそれを見る人の「体質」で決まる。
 本書『立体交差』にしても、その文字面だけで「!」とくる人もいれば、「?」と思う人もいて当然。著者・大山顕氏はむろん前者だ。団地や工場鑑賞の先駆者でもある「ヤバ景」愛好家が厳選した名ジャンクションの写真114点と、その歴史的、社会学的考察「立体交差論」から成るこの写真集は、たかが立体交差、されど立体交差と言いたくなるほど奥の深い土木インフラの世界へと読者を誘う。
 本論でのキーワードは〈緩衝地帯〉〈最適化〉など多々あるが、それらがより安全で平穏な社会を期して人間が造った産物であることを、ヤバい景色たちは再確認させてくれる。

「まずはヤバ景の定義から説明すると、例えば英語のbadにはクールという意味もあるように、僕は『ヤバい』に両方の意味を込めています。工場や団地はもちろん、田畑や雑木林も相当ヤバいと思うんです。
 でもみんな田畑は褒めても工場風景は褒めず、しかも実際は人が手を相当かけている田園風景を自然だと本気で思ってる。それこそ〈景観問題〉を議論しようにも、ベースとなる教育も知識もないまま感覚論や感情論に終始していて、日本人はまだ景観を語れる段階にないと思うんです。だから僕はこの〈立体交差論〉を書き、感覚も理論も両方網羅した、よりフラットな見地から、この国の景色を見直したかったんです」
 その立体交差論は〈生麦事件〉の再定義から始まる。これは薩摩を目指す長距離移動、、、、、の島津久光一行と、川崎大師見物に訪れた近距離移動、、、、、の英国人による交通事故、、、、なのである。より身近な例では、猫がヒトとの交差を避けて〈塀の上を行く〉のも立派な立体交差。〈立体交差とは、このような異なるモードの交通が衝突しないようにする構造物である。それはつまり、高さの違いによって分離しようとする発想だ〉
 またモードや速度の違いは自ずと形状にも表れる。高速化する乗り物は急カーブを曲がれず、高速道路や新幹線の線路は地図では太い直線となる。そして曲がる、上るなどの変化をならすことをめざす高架は、いよいよ巨大化する。その姿が歩行者レベルでは異常に見え、〈景観問題とは、射程の違いによるスケールの衝突〉であると、大山氏の説明はいたって明確だ。

日本橋は「土木のミルフィーユ」

「僕らは3・11を機に、東京の電力源は福島にあるなど、都市機能が〈アウトソーシング先の遠さ〉に担保されていることを改めて思い知りました。しかも常に〈変わらないこと〉を宿命とする都市には、物資を滞りなく流すために造られたインフラに緩衝地帯、、、、を設ける時間的、空間的余裕がないんですよね。川が何千年もかけて削られて川原が作られるのに対し、高速道路や垂直護岸は〈緩衝ゼロ〉。確かに前者は周囲の景色となじんでは見えるけれど、どちらも〈地形の破壊〉であることに変わりはなく、要は緩衝地帯があるかどうかの違いだけなんです。
 それをヤバいと思うか面白いと思うかは僕個人の感情で、社会的合意は含まれない。もちろん20年前に比べれば同好の士もだいぶ顕在化していますが、単に景観的な理由で電柱の地中化を進める都知事たちは、そういう価値観があること自体知らないらしく、まずは電柱や立体交差が好きな人間もいるってことを表明して仲間を増やし、そこから議論に繋げたいんです」
〈ざらざらの地表の上につるつるを実現する〉〈高架化とは裏側の出現である〉等、適宜、的確な補助線を引き、門外漢の理解を助けてくれる著者の移動手段は、専ら電車と徒歩だ。すると目に映るのは高架の裏側であり、町の景色と一体化したそれは、もはや表ですらあった。例えば電柱と民家の向こうに八王子ジャンクションを望む1枚は、何が欠けてもそこではなくなるのである。
「つまりその景色を面白いと言って肯定している僕は、それを造った人を信頼、、しているんですよね。最近はプロの仕事に素人がケチをつけ、技術者や教師や政治家を誰も信用しないけど、都市というのは互いを信頼し、役割を託すことで運営されてもいて、景観問題は信頼の問題なのかもしれない。
 本書には日本橋の断面図、、、を載せましたが、上から順に首都高、日本橋、日本橋川、地下には銀座線と、各時代のインフラが見事なレイヤーを成す〈土木のミルフィーユ〉となっています。これを、景観を口実に否定し、政治利用するのは、そこに連なる歴史に対する冒涜だと僕は思います」
 自身、船橋市の準工業地帯で育ち、工場と商業地と住宅とが隣接する景色を、原風景としてきたという。
「雑多で何でもありの日本的風景ですね。よく里山礼讃派に誤解されて、、、、、引用される国木田独歩『武蔵野』も、あれは独歩が友達と遠出した先で見た、都市と自然が緩衝ゼロで衝突する風景を描いているんです。あらまほしき東京の原風景でも何でもない。それがいかにクールかを友達と語りあい、『今後は亀井戸も武蔵野と呼ぼう』と盛り上がった独歩はつまり、僕の先輩なんです(笑い)」
 07年の『工場萌え』以降、ヤバ景という言葉を発明し、インフラの世界が文化的に語られるための土壌を作ってきた。その次の段階に進むために、感性と理性の両方に訴える本作は編まれたのだ。

●構成/橋本紀子
●撮影/三島正

(週刊ポスト 2019年4.12号より)

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