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【著者インタビュー】朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』/ナンバーワンよりオンリーワンの美学を強いられた、平成の若者たちは……

総勢8組の人気作家による競作連載企画の第1弾として刊行された本作は、俗にゆとり世代と呼ばれる平成の若者たちの苦悩を描いた自滅と祈りの物語。著者の朝井リョウ氏に、作品に込めた想いを訊きました。

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

平成とは、「対立」することを奪われた時代だった――自己実現のために苦悩する若者たちの自滅と祈りの物語

『死にがいを求めて生きているの』
死にがいを求めて生きているの 書影
1600円+税 中央公論新社
装丁/bookwall

朝井リョウ
著者_朝井リョウ
●あさい・りょう 1989年岐阜県生まれ。早稲田大学文化構想学部在学中の09年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年『何者』で直木賞、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞。他に『武道館』『何様』等話題作多数。ハロプロファンとしても知られ、「新元号に違和感を持った後に慣れる、という過程を楽しみにしていたのですが、〝BEYOOOOONDS〟や〝雨ノ森 川海〟などのハロプロのユニット名で耐性がついたのか、〝令和〟じゃ違和感すらない(笑い)」。172㌢、70㌔、A型。

目的なく生きたり自分が幸せになることへの罪悪感やが今は凄く強まっている

 遡ること6年前。中央公論新社の創業130周年を前に、総勢8組の人気作家による競作連載企画「螺旋プロジェクト」が始動した。
 舞台は原始〜未来の日本列島、テーマは〈対立〉といった伊坂幸太郎氏発案のお題の下、平成元年生まれの直木賞作家・朝井リョウ氏は、平成を担当した。
「だって文壇高校の、あの伊坂センパイの呼び出しですよ。行くしかないじゃないですか(笑い)。ただ、私は平成しか書けないと思いましたし、カレー屋に入ったらカレーが食べたいのと同様に読者からも私は〝平成”を書くことを求められていると思い、平成係を担当することを条件に参加させていただきました」
 その第1弾として刊行された本書『死にがいを求めて生きているの』は、札幌の病院に入院中の〈南水智也〉と、今なお植物状態にある友を見舞う〈堀北雄介〉を軸に、俗にゆとり世代と呼ばれる彼らの少年期から青年期までを全10章に描く。
〈誰とも比べなくていい。そう囁かれたはずの世界はこんなにも苦しい〉と帯にあるが、対立軸を奪われ、ナンバーワンよりオンリーワンの美学を強いられた彼らは、やがて生きる意味を求めて彷徨い、自滅へと向かう?

「私は作品の平成っぽさを評価していただくことはあっても、時代性を特に意識したことはないんです。
 ただ、平成の事件で秋葉原殺傷事件や『黒子のバスケ』脅迫事件は印象的で、あの犯人が自分でも全然おかしくなかったと思うんです。自分の社会的価値を求める気持ちが彼らの場合は犯罪に繋がり、私の場合は世間でたまたま良き物とされている小説に向かった。私の世代は競争から遠ざけられて育った実感があります。相対評価ではなく絶対評価の世界の中では、自分の価値を自分で把握しなければならない。その試みって、自己否定や自滅への道筋でもあると思うんです。
 私自身、戦い方を外から示される受験や就活は特に苦じゃなかった。宿題も自由研究が一番困るように、ただ生きる、、、、、のって一番難しい気がする。でもこれは文学でこれまで散々書かれてきたことで、私も大好きな中島敦の『山月記』を平成のツールを使って書き直している感覚がありました」
 1章は病院の担当看護師〈白井友里子〉、2章は小学校時代の転校生〈前田一洋〉など、複数の視点から順次語られてゆく智也と雄介は、〈なんでこの二人が仲良いんだろ〉と周囲が思うほどタイプが違った。実は本作では競作上の共通モチーフ〈海族と山族〉の対立や、かつて彼らもハマった少年漫画〈『帝国のルール』〉の謎が縦糸を成し、語り手も含めた各登場人物のドラマを絡めつつ、物語は進む。
「平成を舞台に対立を描くといっても、最初はその対立がわからなかった。でも『対立を奪われたのが平成らしさ』と発想を逆転したことで話が動き始めました。共通モチーフである海族山族は、読者が身近な対立構造に翻訳して読めるよう意識しました。そこにない対立を創り出して勝手にみなぎる感覚って、多少なりとも身に覚えがありませんか」
 その原型は札幌の小学生時代に遡る。勉強も運動も共にできた6年生の彼らはクラスこそ別だが家が近く、よく一洋とも3人で遊んだ。特に負けん気の強い雄介は『帝国のルール』に登場する〈ウィンクラー大佐〉の決め台詞、〈未来の己を守るのではなく、今このときの民のために動け〉に心酔し、1組の男子に棒倒しの必勝作戦を熱く説くのだった。
 だが次の運動会ではその棒倒しもなくなり、目標を見失った彼は2組とのサッカーの試合で発奮。智也にわざと足をかけられたと言って、猛然と掴みかかるのである。
「彼らが1組と2組に分かれ、背景、、が変わった途端、一番の親友が敵に見える。そういう、1つ1つは小さなことを積み重ねた先に香る大崩壊の予感を、一緒に味わってもらいたい」

他者貢献に走る際に臭う〝何か〟

 やがて智也は北大工学部、雄介は文学部に進み、出色は北大伝統の〈ジンパ〉=ジンギスカンパーティ復活を訴えて運動する雄介が、地元テレビ局の討論番組で出会う若者たちの顔ぶれだ。
 社会問題を軽快な音楽に乗せて訴える学内のレイブ団体代表〈安藤与志樹〉や、ホームレスを寒さから救うNPO代表〈波多野めぐみ〉。国と国より個人の関係をと説く韓国人留学生〈李民俊〉等、彼らですら問題意識の切実さや貢献度を比べ合い、兵役に赴く李を見て〈負けた〉と思ってしまうのだ。
「最近、例えば流通格差やフードロスをなくす等、いわゆる社会貢献といわれる活動をする20代との対談の依頼が増えました。自己実現よりも他者貢献が先にある同世代を素直にすごいと思う一方で、自己実現のみを追い続けている自分を責めてしまったりもする。死にがい、という言葉は、自分のような人間が、社会的価値を求めるあまり他者貢献に走る際、臭う何かに当てはめた言葉です」
 対立や比較の構図の中に自分の立ち位置や目標を見いださずにはいられない雄介は、大学卒業を前に自衛隊に入ると言ったかと思うと、今度は〈海山伝説〉に心酔し、伝説発祥の地〈鬼仙島〉の探索員となるべく、姿を消してしまうのだ。
「『黒子のバスケ』事件の犯人が語った無敵の人、、、、という言葉が忘れられない。失うものが何もない無敵の人による凶行を抑止する方法について考えながら、わけあって病床にある智也の最終章を書いていました。もう出ない歯磨き粉のチューブをあと1回分絞り出すように、何度も書き直し、その結果〈降りられない〉という言葉が出てきました。
〈摩擦〉がないと体温が感じられないのは雄介に限らないし、目的なく生きたり、自分が幸せになることへの罪悪感やが、今は凄く強まってる気がします。〈もっと人を救わないと〉と言いながら自分は疲弊していく人物が出てきますが、社会的価値が足りないと感じる自分を滅しようとする感覚を、他者や社会への恨みに転じさせないためにはどんな言葉が有効なのか。未だに答えを探し続けている感覚がありますが、平成を舞台に書いた小説がこの温度に落ち着いたことには、不思議と納得感があります」
 人生は降りられないから生きる。理由はそれで十分だと、智也の思いが読者の中にもいる雄介に届くよう、奇しくも新元号発表の月に、朝井氏は静かに祈るのだった。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2019年5.3/10号より)

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