【著者インタビュー】森 絵都『カザアナ』/日本の閉塞感に風穴を開ける、近未来エンタメ小説!
理不尽で行き過ぎた管理と自国愛が人々を追いつめる20年後の日本で、タフに生きる入江一家。不思議な力をもつ〈カザアナ〉に出会い、閉塞感が漂う社会に文字通り風穴を開ける?――リアルな近未来を描く、痛快エンタメ小説!
【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】
閉塞感が蔓延する社会に不思議な能力を持つ者たちとタフな一家が風穴を開ける! 痛快な展開に心躍るエンタメ小説
『カザアナ』
1700円+税
朝日新聞出版
装丁/田中久子 装画/大山美鈴
森 絵都
●もり・えと 1968年東京生まれ。早大卒。90年の講談社児童文学新人賞受賞作「リズム」以来、『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞、『アーモンド入りチョコレートのワルツ』で路傍の石文学賞、『DIVE‼』で小学館児童出版文化賞等、児童文学で活躍。06年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、17年『みかづき』で中央公論文芸賞を受賞し、幅広い読者を獲得。他に『永遠の出口』『漁師の愛人』等。ちなみに醤油は苦手で「納豆は断然マヨ派です!」。153.3㌢、O型。
閉鎖的で差別的な空気 が法律 にすらなる世界は全くの絵空事とも言えないと思う
〈ええ、ええ、
はて。何の話かと思いきや、森絵都著『カザアナ』は、行き過ぎた管理社会や自国愛が人々を逆に追いつめる日本の20年後を描いた、「ちょっぴり近未来のエンタメ小説」なのだった。
平安末期、八条院
それぞれ〈
*
一家が住む東京都久留瀬市藤寺町や風穴の存在自体、むろん想像の産物。一昨年の本屋大賞第2位に輝き、永作博美主演でドラマ化もされた前作『みかづき』が学習塾経営者夫婦を描いた小説だっただけに、作品の飛び幅にまず舌を巻く。
「私としては風穴の存在が架空になり過ぎても、根のない植物を育てるような不安感があって、歴史を遡ってこれはと思う人物を探したんです。そして鷹揚でいろんな人を匿ったとされる八条院との接点を各章の冒頭で語らせてみたのですが、結局は自分でもうまく説明できないくらい、風変わりな未来小説になっちゃって(笑い)。
でも本書で起きることは、五輪後の経済を誰もが心配し、外国人が日本を褒める番組が妙に多かったりする
街の景観が
一方、外ツーの観光ガイドでボランティア実習の単位をギリギリ取得し、留守がちな母に庭の管理まで任される里宇は、その言動をGPS搭載の追跡端末〈
「ただしテルの能力は10日先の天気が読める程度、鈴虫は虫だけ、香瑠は石だけの声が分かる。かつて為政者に重用された〈
見せたくない現実に蓋をしてきた
この時代、国による自然破壊や格差助長を糾弾する地下組織〈ヌートリア〉が、鳥を操る鳥読こと〈
が、油断大敵だ。例えば早久の級友〈次郎〉が住む通称・別区では〈観光革命の落伍者〉が細々と暮らし、景勝特区で働く外国人労働者〈
「内実は相当酷いとも聞く外国人技能実習制度にしても、実際、日本では見せたくない現実に蓋をしてきた。人々が監視し合い、断層を探し合う閉鎖的で差別的な
本書にはUDの内側から改革を叫ぶ〈
人間を信じ、人ならぬものとも通じ合う風穴の自由な在り方は、近代的な自然支配とも今風の共生の美学とも明らかに違う。そしてこっちの方が断然面白くて豊かで幸せな、
●構成/橋本紀子
●撮影/三島 正
(週刊ポスト 2019年8.9号より)

この記事が気に入ったら
「いいね」をしよう!
P+D MAGAZINEの最新記事をお知らせします。