『日本人はどこから来たのか?』
【書闘倶楽部 この本はココが面白い②】
評者/鈴木洋史(ノンフィクションライター)
世界で一番最初に往復航海を
達成したのは日本人だった!
『日本人はどこから来たのか?』
海部陽介著
文藝春秋
本体1300円+税
海部陽介(かいふ・ようすけ)
1969年東京都生まれ。国立科学博物館人類史研究グループ長、人類進化学者。東京大学大学院理学系研究科博士課程中退。理学博士。第9回日本学術振興会賞。著書に『人類がたどってきた道 "文化の多様化"の起源を探る』(NHKブックス)。
世界の遺跡証拠の厳密な解釈などをもとに、書名のテーマについて著者が立てた新しい仮説を一般向けに紹介した書籍である。
結論から言えば、アフリカで誕生した現生人類は7万年前にアフリカを出て、アジアへはヒマラヤの北と南に分かれて広まった。後にその2つの集団が東アジアで合流し、そこから日本列島へは3つのルートで渡った。最も早い3万8000年前に入った集団が辿ったのは朝鮮半島から対馬を経由するルート、2番目は3万年前に台湾から琉球列島を北上したルート、3番目は2万5000年前にシベリアから北海道に南下したルート。
興味深いのは1番目と2番目のルートだ。氷期であり、今より海面が80mほど低かった3万8000年前でも対馬は島で、朝鮮半島とも日本列島とも40㎞離れていた。対岸が見える距離とはいえ、〈日本列島の土を最初に踏んだ祖先たちは航海者だった〉のだ。しかも、その頃の伊豆七島の神津島で産出された黒曜石が関東で出土していることから、本州と伊豆七島の間で往復航海が行われていたことがわかる。実はそれは〈世界最古の往復航海の証拠〉なのである(ちなみに、人類最古の渡海の記録は4万7000年前のインドネシアからオーストラリア・ニューギニアへのもの)。さらに、3万年前、台湾から琉球列島を北上したとき、島と島の間は100㎞も200㎞も離れていた。つまり〈目的地が見えない航海〉だった。
目的地である陸地が見えない危険な航海に、一定数以上の男女が臨んだ理由は何だったのか? 移住を余儀なくされた事情があったのか? 「東に極楽の地がある」といった神話や伝説があったのか? 想像が尽きない。
(SAPIO 2016年4月号より)

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