『週刊ポスト31号 韓国なんか要らない!』/批判すればするほど自らの愚かさを語ることになる
まんが原作者・大塚英志による雑誌評。「炎上」した週刊ポストの特集「韓国なんて要らない!」は、読みようによっては極めて啓蒙的な特集だといいます。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
大塚英志【まんが原作者】
週刊ポスト31号 韓国なんか要らない!
小学館
417円+税
我々の内省できない国民性を教えてくれる
同号の特集「韓国なんて要らない!」は、実は二部構成で、前半は軍事、経済、スポーツなどの5つの領域でいかに韓国が日本経済なしに成立しないかを捲し立てる内容だ。目を通すと、オリンピックのメダル数で日本が「漁夫の利を得る」という表現などは、自分に対して使うといささかさもしいものになっていると感じる。男女関係に例えると、三行半を叩きつけておいてオマエはオレなしでやっていけるのかと恫喝している印象で、何か日韓関係が国家間のDVに見えてくるのは筆者だけか。
「炎上」したのは「大韓神経精神医学会」によるレポートを根拠とする、韓国成人の「10人に1人」が「治療が必要」なほどの「間欠性爆発性障害」にあるという後半の部分である。記事はそもそも根拠となった報告を直接参照しておらず孫引きで、商業メディアが記事の信頼性を担保する点でまず、失格である。そもそも「国民性」「民族性」の類を「科学的」に立証し得ると考えるのは、優生学の祖F・ゴルトンがユダヤ人差別の正当化で試みて以降、レイシズムの基本であることは最低限知っておく必要がある。その点で記事は不勉強である。しかも「運転を巡ってドライバー同士が罵声」「些細なことに腹を立てた50代の男が4ℓのガソリンを店内に撒き放火」といった記事中の具体例は、この夏、日本国内を騒がせた日本の事件をむしろ彷彿させる。従って、その要因を「学歴社会」「パワハラ」などの日常に加え「失政」への「国民の不満」が本来、政府に向かうべき怒りの「置き換え」が起きているという精神科医の説明は、同号も記事にした年金問題を始めとする失政を、成る程、私たちは安倍内閣でなく韓国への「怒り」に転嫁させているのかと、説得してくれる。このように韓国を批判すればするほど自らの愚かさを語ることになる。それに気づけないほど私たちは内省のできない国民性となったことを教えてくれる、読みようによっては極めて啓蒙的な特集であった。
(週刊ポスト 2019年10.18/25号より)

この記事が気に入ったら
「いいね」をしよう!
P+D MAGAZINEの最新記事をお知らせします。
あわせて読みたい記事
-
今日の一冊
近代日本画の全体像がわかる!『日本画とは何だったのか 近代日本画史論』
江戸以来の伝統をもった保守的な作品群から、西洋の感化を受け新しさをめざした作品まで。日本画の近代をおいかけた、圧巻の通史です。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】大山顕『立体交差 ジャンクション』/「ヤバ景」愛好家厳選写真から知る土・・・
団地や工場鑑賞の先駆者、「ヤバ景」愛好家が選んだジャンクションの写真114点と、その考察から成る奥深い写真集を紹介します。
-
今日の一冊
カトリーヌ・ムリス 著・大西愛子 訳『わたしが「軽さ」を取り戻すまで 〝シャルリ・エブド〟・・・
2015年1月、イスラム過激派による「シャルリ・エブド襲撃」の難を偶然逃れた著者が、経験した精神の崩壊と記憶の喪失。そこからの回復過程を、静かに描いたバンド・デシネ(漫画)です。
-
今日の一冊
筋金入りの蔵書家によるエッセイ/津野海太郎『最後の読書』
無類の本好きで、少年時代は歩きながらでも本を読んでいたという著者が綴る、読書に関するエッセイ。年を重ね、何千冊もの書物を処分しても、まだまだ読書欲は尽きません。
-
今日の一冊
『日本経済復活の条件 金融大動乱時代を勝ち抜く極意』
-
今日の一冊
人とテクノロジーのこれからの関係を探る『教養としてのテクノロジー AI、仮想通貨、ブロック・・・
いまや私たちの生活を取り囲み、なくてはならない存在となったテクノロジー。「そもそも人間は何か?」という根源的な問題から考え、人とテクノロジーのこれからの関係性をわかりやすく解説しています。
-
今日の一冊
平岡陽明著『ライオンズ、1958。』が描く男達の人情物語。著者にインタビュー!
終戦間もない博多の街を舞台に、男達の友情・人情にあふれた物語が展開されます。野球が戦後最大の娯楽だった時代の躍動感をそのままに、実在の選手を絡めながら、人々の思いを繋ぐ温かいストーリーに引き込まれる一作。創作の背景を、著者にインタビュー!
-
今日の一冊
山口敬之著『総理』著者インタビュー
綿密な取材で再現される、政治家それぞれの決断。迫真のリアリティで政権中枢の人間ドラマを描く、話題のノンフィクションの執筆の背景を、著者にインタビューします。
-
今日の一冊
国際性豊かな国境地帯の魅力『大学的長崎ガイド――こだわりの歩き方』
かつて遣唐使やオランダ貿易船も通った、日本屈指の国際性豊かな県“長崎”。対馬や壱岐を含めて面的な広がりをもった国境地帯でもあるこの地の魅力を、学術的な見地からもわかりやすく紹介したガイドブックです。
-
今日の一冊
『たんぽぽ団地』
-
今日の一冊
三羽省吾著『ヘダップ』が描く鮮やかな青春群像!著者にインタビュー!
考え、悩みながら前に進む18歳の桐山勇。汗と涙にまみれ成長する勇の姿には思わず目頭が熱くなります。慣れない新天地での生活に揺れる勇には、誰にも言えない過去が...。みずみずしい青春を描いた一作の、創作の背景を、著者にインタビュー。
-
今日の一冊
ファブリツィオ・グラッセッリ著『イタリア人が見た日本の「家と街」の不思議』に見る日本への違・・・
イタリア人建築家による「日本の家と街」の不思議を読み解いた一冊の見所を、国際日本文化研究センター教授の井上章一が解説します。
-
今日の一冊
福田ますみ著『モンスターマザー 長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い』が詳細に取・・・
不登校の男子生徒が自殺した事件。本当の加害者はいったい誰だったのか。事件の経緯、顛末を詳細に取材にしたルポルタージュを、ノンフィクションライター鈴木洋史が読み解きます。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】塩田武士『朱色の化身』/全く新しいリアリズム小説ないし報道小説が可能な・・・
作家デビューから10年の節目を迎える著者・塩田武士氏が、自ら取材した事実と証言を連ねて紡いだ実験的小説。「実を虚に織込み、虚が実を映し出すという相互関係に今という時代を解くカギがある」と著者は語ります。
-
今日の一冊
安野光雅著『本を読む』が説く、「道草」の楽しみ。関川夏央が解説!
高名な画家であり、大の本好きである著者が書いた、本をめぐるエッセイ。「本は一本の道だ」という著者による、読書の楽しみ方を説いた一冊を、作家の関川夏央が解説します。
-
今日の一冊
岩井秀一郎著『多田駿伝「日中和平」を模索し続けた陸軍大将の無念』が明らかにする歴史上の新事・・・
歴史を知る醍醐味が味わえる、本格評伝。良識派の軍人であった「多田駿」の知られざる軌跡が明らかに。平山周吉が解説します。
-
今日の一冊
忘れてはいけない「平成」の記憶(4)/多和田葉子『献灯使』
平成日本に生きた者として、忘れてはならない出来事を振り返る特別企画。
地下鉄サリン事件や阪神淡路大震災などの辛い事件が起こり、右傾化、排他主義も進んで「ディストピア化」した平成。そんな時代にふさわしいと鴻巣友季子が選ぶのは、全米図書賞も受賞したこの一冊です。 -
今日の一冊
アンドレ・ヴィオリス 著、大橋尚泰 訳『1932年の大日本帝国 あるフランス人記者の記録』・・・
61歳のフランス人女性記者兼作家のヴィオリスが、昭和7年の日本で、軍人や政治家などたくさんの人々に出会った記録。読めば、まるでタイムマシンで「異国日本」を訪れたような気分を味わえる一冊を紹介します。
-
今日の一冊
松浦光修著『龍馬の「八策」維新の核心を解き明かす』が明らかにする、本当の維新像。平山周吉が・・・
一般的な龍馬像を根本から覆すような内容に驚く一冊。坂本龍馬のものの考え方からその実像を浮き彫りにします。平山周吉が解説。
-
今日の一冊
夏川草介『本を守ろうとする猫の話』は感動のファンタジー長編!著者にインタビュー!
ベストセラー『神様のカルテ』の著者初のファンタジー長編。夏木林太郎は、祖父を突然亡くす。祖父が営んでいた古書店『夏木書店』を閉めて叔母に引き取られることになった林太郎の前に、人間の言葉を話すトラネコが現れ……。夏川版『銀河鉄道の夜』ともいえる社会派ファンタジーの、創作背景を著者にインタビュー!