石川九楊『河東碧梧桐 表現の永続革命』/伝説の俳人に肉迫する評伝
書家・石川九楊が、俳句と書のいずれでも近代の最高峰となった伝説の俳人・河東碧梧桐を描き出した評伝を紹介します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
平山周吉【雑文家】
河東碧梧桐 表現の永続革命
石川九楊 著
文藝春秋
2500円+税
装丁/関口聖司
「俳句―書―俳句」で近代最高峰となった伝説の俳人に肉迫
「五七五のリズムの生れるべき適当な雰囲気が、芭蕉の身辺に醸生してゐたのではないでせうか」「芭蕉の時代に近い、それと相似た雰囲気のもとに立たねば、再び五七五のリズムの物をいふ時は復帰しないのではないでせうか」
本書に引用されている
書家・石川九楊による評伝『河東碧梧桐』は、俳句と書のいずれでも近代の最高峰となった碧梧桐を描き出す。「近代史上、書という表現の秘密に肉迫した人物は、河東碧梧桐と高村光太郎の二人しかいない」という判断があるからだ。俳句は五七五と指折り数えてヒネるのではない。俳句の母胎である「書くこと」=書字へと降りて行くことによって新たな俳句へ至るという「俳句―書―俳句」なる回路の作句戦術に向かった」のが碧梧桐だ。
明治末、碧梧桐は
著者は「かく」ことなくして文はない、という強力なワープロ・パソコン否定論者である。本書の中では芥川賞を二種に分け、手書きの「芥川賞」と別に「e芥川賞」をと提言している。その箇所を読んでいる時に思い出したのは長らく芥川賞銓衡委員を務めた瀧井孝作のごつごつとした選評の文章だった。瀧井こそが碧梧桐に激しく傾倒した大正文学青年だった。
(週刊ポスト 2019年11.8/15号より)

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