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【2020年の潮流を予感させる本(7)】木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』/哲学の世界はその後どうなったのか

新時代を捉える【2020年の潮流を予感させる本】、第7作目は、現在の哲学・思想の流れを現実社会のできごとと結びつけてわかりやすくまとめた一冊。精神科医の香山リカが解説します。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
香山リカ【精神科医】

ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想

木澤佐登志 著
星海社新書
960円+税
装丁/吉岡秀典、山田知子、
紺野慎一

近代のきれいごとに踵を返す潮流の行方は

 昭和世代の私は、理系学生だったが哲学の本もかじっていた。当時はみなそうだった。ヘーゲルやニーチェ、サルトル、フーコーなどの名前を知ってるのがカッコよかったのだ。
 あれから40年。いまも哲学好きの若者はいる。しかし、彼らは恐ろしい状況に置かれている。弱肉強食のグローバル経済と技術革新の中で格差は拡大し、理性、啓蒙、平等、民主主義といった近代の柱であった概念は形骸化している(トランプ大統領の誕生がそれを象徴している)。そこから生まれたのが、近代の“きれいごと”に踵を返す新反動主義や資本主義の流れを究極まで推し進める加速主義という潮流だという。
 若き鬼才の著者は、ここに至る思想の流れを現実の社会のできごとと結びつけながら、実に手際よくわかりやすくまとめる。真っ黒な装丁も奇抜で若者向けの本に見えるが、上の世代も無理なく読めるはずだ。「なるほど、私が知っていたあの哲学の世界はその後こうなっていったのか」と視界がひらけていく。
 しかし、決定的な問題がある。その先にあるのは「あきらめ」と「絶望」なのだ。ミレニアル世代(注・平成初期生まれ)にあるのは「失われた未来」だけ、と木澤氏は言う。18年の話題の書『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』でノア・ハラリが説いてみせたように、ごく一部の富裕層がカネと技術をほしいままにし、それ以外のわれわれは文化に力や希望があった時代のノスタルジーに浸りながら、AIにこき使われる奴隷として生きていかなければならないのだろうか。
 それでも、と木澤氏は英国の言論人の言葉を借りる形で、こんなメッセージをつぶやく。「私たちは未来を発明しなければなりません」。富の一極集中やAIによる支配は仕方ないとため息をつくのではなく、未来の創造を。それは私たち昭和世代に課せられた最後の仕事だろう。

(週刊ポスト 2020年1.3/10号より)

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