【2020年の潮流を予感させる本(11)】五木寛之『新 青春の門 第九部 漂流篇』/貧しい時代に光明がさす活劇青春小説
新時代を捉える【2020年の潮流を予感させる本】、第11作目は、時代の語り部・五木寛之氏による、泣けて目がはなせない活劇青春小説。作家の嵐山光三郎が解説します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
嵐山光三郎【作家】
新 青春の門 第九部 漂流篇
五木寛之 著
講談社
1800円+税
装丁/吉永和哉
時代の語り部による活劇青春小説最新作
ボディーをキックしてくる活劇青春小説。貧しい時代に光明がさし、ココロザシがある。泣けますよ。主人公のイブーキ(伊吹信介)はパスポートを持たずソ連へ入国し、謎の日本人医師に助けられて身を隠す。シベリア、イルクーツク、そしてバイカル湖の底に沈むロマノフ家の金塊。自動小銃カラシニコフ、四輪駆動車のワズ(UAZ)、ドクトルの愛人タチアナの豊満な肉体。と、道具だてが揃っている。
伊吹の昔なじみの歌手オリエは「筑豊の
興行師の
渋谷のバーでは、トリスのハイボールが一杯50円。山口瞳のコピー「トリスを飲んでハワイへ行こう!」。町にはドドンパが流れ、デモでは「インターナショナル」、町では「王将」と「スーダラ節」。うたごえ酒場で「ともしび」。
五木氏が『青春の門』(筑豊篇)を刊行してから五十年。ぼくらは「青年は荒野をめざす」と肩で風を切り、つまずき、転がり、青ざめつつ、七十代老人になった。半世紀がすぎ、『青春の門』第九部が刊行されて、九杯目のウォッカを飲むように読んだ。夢と冒険とはてしない地平をめざしていく。
時代の語り部・五木寛之は、すでに第十部の執筆にとりかかっている。流浪するイブーキと、筑豊の歌手オリエの運命やいかに。目をはなせない「義」と「連帯」の行く末に注目。
(週刊ポスト 2020年1.3/10号より)

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