李栄薫『反日種族主義 日韓危機の根源』/韓国人が語る歴史は、信じたい「物語」にすぎない
来日観光客の激減、日本ビールの輸入のゼロ化など、近年、ますます深まる日韓の溝。この「日韓危機」の原因は、どこにあるのか? 韓国で出版され、大きな話題を呼んだ一冊。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
関川夏央【作家】
反日種族主義 日韓危機の根源
李栄薫 編著
文藝春秋
1600円+税
装丁/石崎健太郎
実証を怠った「物語」に熱狂する隣国を内側から描く話題書
韓国人と韓国政府は、歴史にのっとって「反日」しているのではない。彼らが語るのは歴史ではなく、信じたい「物語」にすぎない。
そうして、まったく「実証」を怠った「物語」に集団的に熱狂するのは、二〇世紀前半の遺物で、現在は強力な戦争要因とみなされる「民族主義」、あるいはそのコリア独特のあらわれ「種族主義(トライバリズム)」に不用意にすがっているためだ。「日韓危機」は韓国側のこの態度から発する︱
こういう内容の本の日本語版だが、よく韓国で出版できた。著者たちの勇気はなまなかのものではない。
朝鮮の「気脈」を断つために日本が打ち込んだ鉄杭(実は地図測量用三角点)を、国策として近年抜いたという記述があるが、「笑い話」ではない。
韓国では永らく「慰安婦」と「挺身隊」を混同していた。挺身隊は高等女学校以上の女性の工場勤労奉仕隊のことで、私の母親もそうだった。また戦時中の朝鮮人労働者雇用には、時期とともに「募集」「官斡旋」「徴用」と段階があるが、韓国ではこれを一緒くたに「強制連行」ということにした。
「強制連行」も「従軍慰安婦」も一九六〇年代に日本でつくられた言葉で、歴史用語ではない。韓国人の多くがいまだ信じている軍と民間業者による「慰安婦狩り」は、吉田清治という人の「作話」であった。
当初から彼の「告白」を怪しんだ日本の研究者が現地調査を行い、それが「物語」にすぎないと実証したが、こちらは韓国人が無視した。もっとも、日本に「土下座好き」の「謝罪業者」がいるとは想像しにくかっただろう。
昨年来、日韓の溝はますます深い。それにしても来日観光客の激減、日本ビールの輸入のゼロ化、先進国の顔立ちに似合わぬ韓国の「集団主義」あるいは「反日種族主義」のありさまに日本人は驚き、またうんざりした。それでもコリアに情緒的に加担したい人は、この本は読まない方がよいかも知れない。
(週刊ポスト 2020年2.7号より)

この記事が気に入ったら
「いいね」をしよう!
P+D MAGAZINEの最新記事をお知らせします。
あわせて読みたい記事
-
今日の一冊
『カラー版地図と愉しむ東京歴史散歩お屋敷のすべて篇』
-
今日の一冊
斬新な大どんでん返し!『ちょっと一杯のはずだったのに』
ニッポン放送での実務経験をもつ著者がラジオ局を舞台にして描く、密室殺人ミステリー。映画化も決定した前作『スマホを落としただけなのに』をも上回るスリルとスピード感です!
-
今日の一冊
小池昌代著『恋愛詩集』が教えてくれる過ぎ去りし恋の記憶
43篇の詩が呼び覚ます恋の記憶―『通勤電車でよむ詩集』 待望の続編。普段詩に接している人にも、そうでない人にも胸に沁みるアンソロジー。著者・小池昌代が語る創作の背景をインタビューしました。
-
今日の一冊
【2020年の潮流を予感させる本(8)】胎中千鶴『叱られ、愛され、大相撲!「国技」と「興行・・・
新時代を捉える【2020年の潮流を予感させる本】、第8作目は、日本の国技・相撲の歴史を掘り起こす一冊。武蔵野大学特任教授の山内昌之が解説します。
-
今日の一冊
荒木一郎著『まわり舞台の上で 荒木一郎』が記す活動の軌跡。平山周吉が解説!
多才な顔を持つ、荒木一郎。歌手、俳優、作曲家、小説家、プロデューサーなど、その活動は幅広く、破天荒なもの。活動の軌跡と、人生の明暗を語る一冊を、平山周吉が解説します。
-
今日の一冊
北村匡平『美と破壊の女優 京マチ子』/分裂の危機をのりこえ、世界に名をとどろかせた大女優の・・・
戦後の1940年代に、均整のとれた肢体、とりわけ脚の魅力で頭角をあらわした女優、京マチ子。『羅生門』や『地獄門』などの名作は、彼女を国民的なスターに押し上げるも、一方で演技に分裂をもたらして……。京マチ子を丸ごと語りつくす女優論。
-
今日の一冊
高崎俊夫・朝倉史明 編『芦川いづみ 愁いを含んで、ほのかに甘く』/伝説の女優、デビュー65・・・
藤竜也との結婚を機に表舞台から消えたあとも、いまなお根強い人気を誇る女優・芦川いづみ。そのデビュー65周年を記念して出版された本には、当時のスチール、ポスター、記事などだけでなく、現在のロング・インタビューも収録されています。
-
今日の一冊
吉野孝雄著『外骨戦中日記』が明らかにする、空白の戦中の様子。
宮武外骨といえば、明治から昭和にかけて活躍した、反骨のジャーナリストとして有名です。戦時中は完全に沈黙を守っていましたが、知られざる戦中日記から見えてくる真実に満ちた時代背景とは?
-
今日の一冊
【著者インタビュー】山崎ナオコーラ『偽姉妹』
叶姉妹と阿佐ヶ谷姉妹に着想を得て書かれた、明るく型破りなストーリー。まったく新しい、現代の家族の作り方を標榜する著者にインタビュー!
-
今日の一冊
石井妙子著『原節子の真実』に見る「時代の正しさ」を鈴木洋史が解説!
存在感に溢れた名女優についてまわった「謎」の数々。国民的女優が背負った葛藤やその素顔について、詳細に描かれた評伝を、ノンフィクションライターの鈴木洋史が解説します!
-
今日の一冊
多和田葉子『百年の散歩』が彩り豊かに描く幻想的な町の景色
ドイツでも評価を受けるベルリン在住の作家、多和田葉子による、多彩で幻想的な連作長編。創作の背景をインタビュー。
-
今日の一冊
村上春樹『猫を棄てる 父親について語るとき』/「比喩」や「寓話」で歴史を語ることはもうやめ・・・
村上春樹が、父親の中国兵捕虜の斬首について語ったエッセイについて、まんが原作者の大塚英志が解説します。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】唯川恵『淳子のてっぺん』
女性として、世界初のエベレスト登頂に成功した登山家・田部井淳子さんをモデルに書かれた長編小説。読者の心を打つ物語の裏側にある、著者の想いを訊きました。
-
今日の一冊
『大人のためのメディア論講義』
-
今日の一冊
世界的戦略家が日本へ提言!『日本4.0 国家戦略の新しいリアル』
この四百年間、日本人はつねに「完全な戦略システム」を作り上げてきた――。世界的な戦略家であるルトワックが、次に対処すべき、新たな局面に入った日本へ提言!
-
今日の一冊
フラウィウス・ヨセフス 著、秦 剛平 訳『自伝/アピオーンへの反論』/豪快勇壮な宗教学者が・・・
ユダヤ歴史家ヨセフスの著作は、旧約・新訳聖書の欠けをおぎなう基礎文献として読まれてきました。今回はオックスフォード大学客員教授として、ヨセフスの研究に生涯をささげてきた秦剛平によって精密に訳された一作を紹介します。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】橘 玲『朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論 』
なぜ、朝日新聞はいわゆる「ネトウヨ」の人たちから「反日」の代表として叩かれ、嫌われるのか? 朝日新聞社内の書店で長らくランキング1位を占めていたという、リベラル進化論!
-
今日の一冊
倉田善弘編『近代はやり唄集』にみる巧みな言葉のセンス。池内紀が解説!
明治・大正期の民衆の喜び、哀しみ、怒りの思いを表現して広く愛唱された「はやり唄」。街角の唄、寄席の唄、座敷の唄、壮士の唄、書生の唄、ヴァイオリン演歌、劇場の唄、映画の唄の8テーマに分類、127曲を精選して、注解を加えた1冊を、池内紀が解説します。
-
今日の一冊
星野保著の『菌世界紀行―誰も知らないきのこを追って』。珍しいきのこを求めて極地を旅する道中・・・
極地や寒冷地で、苛酷な環境に耐えながら、珍しいきのこを求めて調査採集に臨む菌学者たち。
菌との念願の対面は叶うのか……?冒険談を楽しみながら学べる入門書を紹介します。 -
今日の一冊
改憲より前にすべきこと『自衛隊失格 私が「特殊部隊」を去った理由』
イージス艦「みょうこう」の航海長だった著者が語る、自衛隊の真実。改憲によって「自衛のための戦力保持」を正当化させる前にすべきことを、静かな熱意で綴っています。