荒木博行『世界「倒産」図鑑』/一世を風靡した企業が倒産に至った経緯を読む!
リーマン・ブラザーズやそごう、山一證券など、かつて大成功をおさめながらも破綻してしまった企業25社の倒産の経緯をまとめた図鑑。経済アナリストの森永卓郎が解説します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
森永卓郎【経済アナリスト】
世界「倒産」図鑑
荒木博行 著
日経BP
1800円+税
成功物語よりも失敗物語のほうが得られるものは多い
本書は、一世を風靡した日米欧25社の倒産の経緯を記した「図鑑」だ。本書は図鑑だから、それぞれの会社を一定のパターンに収めて記述している。まず、会社の興亡を倒産に至る経緯に重点を置いて、4〜7ページにコンパクトにまとめる。そして、倒産劇から得られる教訓を「私たちへのメッセージ」として1ページで書く。その次のページで企業の幸福度の推移のグラフと教訓をさらに3点に要約したものを載せ、最後のページに企業の創業年や倒産時の従業員数などの企業データを記載する。これを25社分繰り返しているのだ。
本書の一番素晴らしいところは、冒頭の倒産の経緯を記した本体の部分だ。有名企業が多いので、倒産の経緯については、私自身もある程度の知識はあったのだが、実に要領よく、バランスを失わずに書いている。一方、倒産から得られる教訓の部分は、その通りだと思うところは多いのだが、違和感を覚えるところもあった。もちろん、ここは著者の主観の部分だから、色々な意見があってよい。
全体を読んで感じたのは、倒産の原因が実に様々だということだ。本書自体も、「過去の亡霊」型、「脆弱シナリオ」型、「焦りからの逸脱」型、「大雑把」型、「機能不全」型の5つに分けて編集されている。だが、実際の事例を読むとバブル崩壊やデジタル化、震災といった外部環境の急変が原因だったり、カリスマ経営者の独裁から逃れられなかったりと、倒産の原因は様々だ。
「幸福な家庭はみな一様に似通っているが不幸な家庭はいずれもとりどりに不幸である」というのはトルストイの名言だが、その原則は企業にも成り立つのだろう。だからこそ、企業の成功物語よりも、失敗の物語を読むほうが、得られるものは多いと思う。企業経営には、様々な落とし穴が待ち受けているから、それを避けるための備えが必要になるからだ。ただ、本書が示す究極の教訓は、企業は時代の変化に柔軟に対応し、誠実なビジネスを積み重ねるべきだという当たり前のことなのだと思う。
(週刊ポスト 2020年2.28/3.6号より)

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