『岩崎航エッセイ集 日付の大きいカレンダー』
【今日を楽しむSEVEN’S LIBRARY 】
ブックコンシェルジュが選ぶこの一冊
イラストレーター
佐藤ジュンコ
『岩崎航エッセイ集 日付の大きいカレンダー』
岩崎航
ナナロク社
1620円
1976年生まれ、現在40歳の岩崎さんは各界から高い評価を得ている注目の詩人。25歳から詩を書き始め、2004年の秋から五行歌を詠んでいる。初めてのエッセイ集となる今作には、病気のことや家族のこと、震災のことや大切にしている本のことなどが綴られている。
私にできることは、なんだろう。
まだ答えはみつかっていませんが、
一日一日が前よりずっと大切になる
お守りのような一冊です
岩崎航さんは仙台在住の詩人です。3年前に刊行した詩集『点滴ポール 生き抜くという旗印』に続き2冊目となるこの本には、病、家族、学校生活、詩と仕事についてのエッセイと、五行歌と呼ばれる形式の詩が収録されています。
岩崎さんは3歳で筋ジストロフィーを発症し、現在は生活の全てに介助が必要です。「自分のいのち、そして自分の人生を生ききることを妨げようとする何もの かと闘い続けることが、僕にとっての“闘病”です」と岩崎さんは書いています。「病を持っていることを含めての自分」と思えないことは辛い、とも。
日付の大きい
カレンダーにする
一日、一日が
よく見えるように
大切にできるように
易しい言葉だけで紡がれたシンプルな詩が、どうしてこうも力強く心に響くのでしょう。
震災についての章では、震災後に詠んだ「衝撃」という題の五行歌を紹介し、「僕にできるのは、自分の持てる寿命が尽きるまで、病を含めてのそのままの姿で、一日一日を生きていくことです。そのなかで、詩や言葉を書き続けることです」とあります。
私にできることは、なんだろう。私のいのちと人生をどう生きるか、そのためにどう力を尽くすか。本を閉じてからもずっと考え続けています。まだ答えはみつかっていませんが、一日一日が前よりずっと大切です。なんでもない日も特別な日も。すぐには変われないかもしないけれど、思い続けるため、生き抜くための、お守りのような一冊です。
(女性セブン2016年3月17日号より)

この記事が気に入ったら
「いいね」をしよう!
P+D MAGAZINEの最新記事をお知らせします。
あわせて読みたい記事
-
今日の一冊
【著者インタビュー】酒井順子『ガラスの50代』/心身ともに繊細で壊れやすい50代女性のむず・・・
50代になった酒井順子氏が、自身と同じ世代の女性の迷いや悩みをテーマに綴るエッセイ集。白髪を隠すか問題や、母と娘のむずかしい関係など、笑いながらも考えさせられる一冊となっています。
-
今日の一冊
橋本 努『消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神』/資本主義の弊害が深刻化しているいま、・・・
コロナ禍で収入が減るなどして、すでに実践している人も多い“ミニマリズム”。このミニマリズムを徹底分析し、無理をして働き続ける暮らしを見直すための、さまざまな情報をまとめた本を紹介します。
-
今日の一冊
岡野弘彦『最後の弟子が語る折口信夫』/民俗学の巨星の真実
終生妻を持たず、愛弟子に囲まれて生涯を終えた民俗学の巨星・折口信夫。その最後の弟子であった岡野弘彦氏が、師と共に過ごした時間は、とても濃密でひそやかなものでした。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】片野ゆか『着物の国のはてな』/着物は「非日常」を手っ取り早く楽しめるア・・・
着物に、どことなく堅苦しく、窮屈なイメージがあるのはなぜ? そんな着物の謎を解き明かす、「着物の国」の解体新書!
-
今日の一冊
【著者インタビュー】朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』/ナンバーワンよりオンリーワ・・・
総勢8組の人気作家による競作連載企画の第1弾として刊行された本作は、俗にゆとり世代と呼ばれる平成の若者たちの苦悩を描いた自滅と祈りの物語。著者の朝井リョウ氏に、作品に込めた想いを訊きました。
-
今日の一冊
アンドレ・ヴィオリス 著、大橋尚泰 訳『1932年の大日本帝国 あるフランス人記者の記録』・・・
61歳のフランス人女性記者兼作家のヴィオリスが、昭和7年の日本で、軍人や政治家などたくさんの人々に出会った記録。読めば、まるでタイムマシンで「異国日本」を訪れたような気分を味わえる一冊を紹介します。
-
今日の一冊
町田康『しらふで生きる 大酒飲みの決断』/ある日突然、断酒をはじめた作家の格闘記
毎日、30年間もずっと酒を飲みつづけてきた作家・町田康氏。ある日「飲酒とは人生の負債である」と気づき、断酒をはじめると……。町田流ギャグもふんだんに交えて語られる、断酒格闘記!
-
今日の一冊
命の尊さをテーマにした7作を収録『手塚マンガで憲法九条を読む』
命の尊さをテーマにした手塚治虫のマンガ7編を収めた本。まんが原作者として活躍する大塚英志が、本書に関して持論を語ります。
-
今日の一冊
【2020年の潮流を予感させる本(11)】五木寛之『新 青春の門 第九部 漂流篇』/貧しい・・・
新時代を捉える【2020年の潮流を予感させる本】、第11作目は、時代の語り部・五木寛之氏による、泣けて目がはなせない活劇青春小説。作家の嵐山光三郎が解説します。
-
今日の一冊
忘れてはいけない「平成」の記億(1)/宮内庁編修『昭和天皇実録 全十八巻』
平成日本に生きた者として、忘れてはならない出来事を振り返る特別企画。
武蔵野大学特任教授の山内昌之が「いちばん平成の時代らしい書物」として挙げるのは、『昭和天皇実録』です。宮内庁により、平成2年から平成26年まで24年間をかけて編修された実録には、日本の政治や社会、文化までもが記述されています。 -
今日の一冊
人間とAIが共存する愉しい近未来『人工知能革命の真実 シンギュラリティの世界』
AI(人工知能)によって、未来はどう変わるのか? 情報技術に関する、さまざまな疑問にわかりやすく答える一冊です。
-
今日の一冊
坂井希久子著『ハーレーじじいの背中』。著者に訊く青春家族小説の魅力!
豪快な「晴じい」との旅の模様が涙を誘う!?『ヒーローインタビュー』著者が涙と笑いに満ちた名作家族小説の傑作!を贈ります!
-
今日の一冊
設楽博己編著の『十二支になった動物たちの考古学』に見る、日本人の思想や宗教観、慣習。
古くから、深く関わっている「人」と「動物」。多方面からその歴史を解説した一冊を紹介します。
-
今日の一冊
【2022年「中国」を知るための1冊】グルバハール・ハイティワジ、ロゼン・モルガ 著 岩澤・・・
ウイグル人の精神をぼろぼろにしてしまう、恐ろしい再教育収容所の厚いベールを剥ぐ! 北京オリンピックの開催を控え、その動向がますます注目される隣国、中国を多角的に知るためのスペシャル書評! ノンフィクション作家・岩瀬達哉が解説します。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』/全人類が死を迎える場面に、筆1本で・・・
1か月後に小惑星が地球に衝突する世界で、「特に生きたいと思っていない」登場人物たちは、どう生きるのか――本年度の本屋大賞受賞後第一作!
-
今日の一冊
東山彰良著・直木賞受賞第一作『罪の終わり』が描く、神と呼ばれた男の人生。著者にインタビュー・・・
崩壊した世界。すべてが壊れた場所で、価値観をめぐる闘争が始まる。『流』から一年、さらなる注目を集める作家・東山彰良が描く、神と呼ばれた男の人生。その創作の背景を、著者にインタビューしました。
-
今日の一冊
日本歴史学会 編『人とことば』/勇気をもらえる、先人たちの珠玉の名言
板垣退助の「板垣死すとも自由は死せず」や、平塚らいてうの「女性は実に太陽であった」など、日本に残る数々の名言を集めた一冊。武蔵野大学特任教授の山内昌之が解説します。
-
今日の一冊
篠原昌人『非凡なる凡人将軍下村定 最後の陸軍大臣の葛藤』/敗戦後に就任した陸軍大臣の伝記
「生涯に三度自決を覚悟した」という下村定は、生きて「謝す」役割を担った――。敗戦後に就任した最後の陸軍大臣の、知られざる半生を描いた評伝。
-
今日の一冊
村松友視著『北の富士流』が描く、北の富士との粋な交流。坪内祐三が解説!
北の富士の、人間力満開の痛快な人生は、まさに類い希なるもの。その人生のこなし方とダンディー振りに、作家の村松友視が迫ります。貴重なエピソードが満載で読み応え十分。評論家の坪内祐三が解説!
-
今日の一冊
内田洋子著『ボローニャの吐息』はイタリアの美を語る珠玉のエッセイ。川本三郎が解説!
イタリアの日常を彩る「美を」巡る15の物語。在イタリア30年あまりの著者が描く最新のエッセイ集を、川本三郎が解説します。