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【著者インタビュー】中原一歩『マグロの最高峰』/マグロには日本人をのめり込ませる物語性がある

大物がくれば1匹で100万円を超えるが、釣れなければ収入がゼロとなるマグロ漁師。自分の腕一本で勝負するその生き様に惹かれた著者が、海の上から鮨屋まで密着取材してマグロの魅力を余すことなく伝える一冊!

【大切な本に出会う場所 SEVEN’S LIBRARY 話題の著者にインタビュー】

高級マグロに魅せられた鮨職人や漁師、魚市場の人々に惹かれ、通い詰めて見えてきた「皿の向こう側」

『マグロの最高峰』

NHK出版新書 900円

漁師が一本釣りする海の上から、競りが行われる豊洲市場、どんなマグロがあるかで店の格が決まるともいわれる鮨屋まで、人生をマグロに捧げてきたプロたちを取材した。「マグロに向き合っている人たちはひと癖もふた癖もあるので書きごたえがある」と中原さん。値段の決まり方、おすすめの店など、写真やイラストを交えてマグロの魅力を紹介。

中原一歩

●NAKAHARA IPPO 1977年佐賀県生まれ。ノンフィクションライター。雑誌、新聞、ウェブメディアなどで取材、執筆。著書に『私が死んでもレシピは残る――小林カツ代伝』、『最後の職人―池波正太郎が愛した近藤文夫』など。大間の漁師、銀座の鮨屋、築地や豊洲市場の競り人や仲買人など、マグロを追って10年以上取材を続けている。人生観が変わるようなおいしいマグロにも出会った。ライフワークは地方の鮨屋をまわる「旅鮨」。

一匹狼で自分の腕で勝負するマグロ漁師とノンフィクションライターを志した自分が重なった

 日本人はなぜこんなにマグロが好きなのか?
「単にうまいだけじゃなくて、人をのめり込ませる物語性があるんですよ。大間おおまに通ってそれがよくわかりました」
 高級マグロの代名詞となった「大間」。中原さんは青森県下北半島の大間で何回となくマグロ船に乗っている。津軽海峡の荒波はすさまじく、まさに命がけだ。
「極度の船酔いで嘔吐を繰り返し、バタッと甲板に倒れたとき、船底の板の下を何百、何千匹のマグロがゴウゴウと泳いでいく情景が目に浮かんだのです。その営みが太古の昔からいままで続いているのかと思うと身体が震えました」
 揺れる船に乗り、明日どうなるかもわからない。大物がくれば1匹で100万円を超えるが、釣れなければ収入ゼロ。船の燃料代の赤字が積もるという勝負の世界だ。ストレスで円形脱毛症になる漁師もめずらしくないという。
「一匹狼で自分の腕で勝負する。スケールこそ違えど、漁師とノンフィクションライターを志した自分が重なった。ものすごい風の中、水平線に蜃気楼しんきろうのように揺れる船を見ていると心打たれるんですよ。自分もがんばろうって。生き様に惹かれちゃったんですね」
 中原さんは中学卒業後、福岡のとあるラーメン屋台で働いていた。
「下っ端なんで、スープの寸胴鍋を強い洗剤で洗うんです。体中にとんこつ臭がついちゃってモテなくてね。荒くれた人たちがケンカだなんだやってる世界でした」
 常連客の新聞記者から原稿用紙2枚を渡され、初めて書いた原稿が夕刊にでかでかと掲載された。19才で東京に出て、雑誌の編集者のもとで鮨屋を取材する。「グルメライターになるな、ジャーナリストになれ」と言われた。
 取材を続けていると鮨屋が厨房を見せてくれたり、目さえ合わせてくれなかった魚市場の人が口をきいてくれるようになったりする。
「ぼくは立ち入り禁止の向こう側が好き。普通は見えないところを取材したい。皿の上だけじゃなくて皿の向こう側も書きたいんです」
 昨年の初競りでは「すしざんまい」の喜代村が一本に3億円をつけた。
「高すぎると批判もされるけど、マグロをよく知る人は気持ちがわかると言う。やっぱり一番をとりたいんです。最高峰のマグロをとってやるんだと。そう思わせる魚って他にないじゃないですか」

素顔を知りたくて SEVEN’S Question

Q1 最近読んで面白かった本は?
『ほんのちょっと当事者』(青山ゆみこ著)。

Q2 新刊が出たら必ず読む作家は?
ノンフィクションは一通り読みます。とくに同世代の書いたもの。最近は海外のノンフィクションの新しい手法に興味を持っています。

Q3 好きなテレビ、ラジオ番組は?
『出没! アド街ック天国』(テレビ東京系)。落語などの演芸が好きで、『問わず語りの神田伯山』(TBSラジオ)も聴いています。

Q4 最近気になるニュースは?
あの「ダイヤモンド・プリンセス」の船長にインタビューしたいですね。

Q5 最近ハマっていることは?
ずっとハマっているんですけど、猫。デビュー以来、ずっと猫と暮らしています。愛猫の名前は「ウラン」。

Q6 運動はしていますか?
スポーツは興味ないんですよ。ぼくは食べるのも仕事なんで困っちゃうんですけど。

Q7 興味を持っているテーマは?
北朝鮮の漂流船と一緒に流れ着いた遺骨が、赤十字を通して返還されているという話。Yahoo!にルポを書きました。

●取材・構成/仲宇佐ゆり
●撮影/横田紋子

(女性セブン 2020年4.9号より)

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