藤森照信『藤森照信 建築が人にはたらきかけること』/屋根に草をはやす設計家・怪人フジモリの発想と理念
五十歳のとき、屋根にニラを生やすニラハウスで日本芸術大賞を受賞。その後もつぎつぎとユニークな建築を造りつづけるフジモリ氏の、並外れた発想力と理念がわかる一冊です。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
嵐山光三郎【作家】
藤森照信 建築が人にはたらきかけること
藤森照信 著
平凡社
1600円+税
装丁/重実生哉
73歳になった建築界の「怪人」が語る発想と理念
怪人フジモリが設計する建築は、屋根に草を生やしたり、木を植えたり、普通の建築とは違った風体をしている。五十歳のとき、屋根にニラを生やすニラハウス(赤瀬川原平邸)で第29回日本芸術大賞を受賞して世間をアッといわせた。白いニラの花咲く縄文風家屋。
20世紀のいわゆるモダニズム建築になじめず、植物をどう取り入れるかが課題になった。ル・コルビジェは一度だけ屋上を緑化することに取り組んだが、失敗してやめてしまった。フジモリはカカンに挑戦して、ユニークな建築をつぎつぎに造ってきた。
五十七歳で長野県実家の畑に
「世界のフジモリ」はもとは建築史家で、建築探偵をするうち、設計家となった。設計だけでなく工事に参加する。建築史家が建築を造り、「ガタガタするのは何ものぞ」といって、
「部屋は一人の 住宅は家族の 建築は社会の記憶の器」という発想である。まず、山へ入って木を伐るところから始める。木を伐る行為は狩猟に近い。さらに製材するときの木の肌のニオイ。それらすべてがフジモリ建築の基本となっていく。
人気の最新作は、
73歳になったフジモリは、長年放置していた自宅「タンポポハウス」の屋根に、土を入れなおして再生にとりかかっている。フジモリの発想と理念が、わかりやすい言葉で語られている。
(週刊ポスト 2020年4.10号より)

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