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佐々涼子『エンド・オブ・ライフ』/生死への問い掛けをちりばめた在宅医療ルポ

もしも余命わずかと宣告されたら、あなたは何を望みますか――自宅での終末医療を選んだ患者を訪問する看護師に出会った著者が、在宅医療の在り方を問うルポルタージュです。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
水谷竹秀【ノンフィクションライター】

エンド・オブ・ライフ

佐々涼子 著
集英社インターナショナル
1700円+税
装丁/有山達也・岩渕恵子(アリヤマデザインストア)
写真/長野陽一

在宅での「命の閉じ方」に惑いながらも答えを探求

 余命幾ばくもないと宣告され、もし何でもいいから希望を叶えてあげると言われたら、何を望むだろうか。美味しい物を食べたい、思い出の地に行きたい、生演奏を聴きたい、桜を見たい……。
 そうした思いを、患者に寄り添いながら実現させてくれるのが、京都で訪問医療を行う渡辺西賀茂診療所である。自宅で終末医療を望む人のために、医師や看護師が彼らの家を訪問するのだ。本書は、そこで働く訪問看護師、森山文則に出会った著者が、彼を通して見えた在宅医療の在り方を、丹念なルポで浮かび上がらせている。
 2人に1人が癌になる今の時代において、本書に登場する患者たちの最期は実に様々だ。遠方まで潮干狩りに出掛ける女性、自宅でハープの演奏会を開いてもらう男性、家族でディズニーランドに行く女性……。いずれも末期症状なのだが、最期まで生ききる姿は、自由で強く、そして美しかった。
 といっても現場は、光の部分ばかりではない。自宅で激痛に苦しむ男性は自殺に追い込まれ、父親の下の世話をする息子は仕事と介護の両立に疲れ果て、決して他人事には思えない。そんな老後を想像しただけで、身の毛もよだつ。
「愛情だけでは介護はできない」
「頑張らせてこの世に引き留めることが、その人のためだろうか」
 本書の至る所にちりばめられた生き死にに対する問い掛けは、説得力を持って響く。それは死という重いテーマに挑み続けた著者ゆえだ。実家では難病の母を介護する父の背中を見守り、7年間の取材を支える原点になっていた。
 死に対する恐怖は多かれ少なかれ誰にでもある。できれば苦しまずに、好きな人に囲まれて安らかに、というのが理想の形ではないだろうか。
 病院ではできない生活の場が、在宅にはある。臨終を迎えた森山が伝えた「命の閉じ方」に、著者は惑いながらも答えを探し求めていく。治療を捨て、何にも縛られず、好きに生きる。その散り際は、死との向き合い方に新たな気づきをもたらしてくれるのである。

(週刊ポスト 2020年4.17号より)

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