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【著者インタビュー】三島邦弘『パルプ・ノンフィクション 出版社つぶれるかもしれない日記』/古い枠組みからの脱却をめざす、ほがらかでクレイジーなビジネス書

タイトルしか決まっておらず、編集者を頼むのも憚られ、自ら「脳内編集者」を兼務しながら、本や出版の今を描いた一冊。「この本自体、起承転結や近代の約束事をあえて逸脱した実験みたいなもの」と著者は語ります。

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「好き」だけでは仕事にならず斜陽産業の荒波に揉まれる――愛と勇気と迷走の崖っぷち社長奮闘記!

『パルプ・ノンフィクション 出版社つぶれるかもしれない日記』

河出書房新社 1800円+税
装丁/寄藤文平+古屋郁美(文平銀座)

三島邦弘

●みしま・くにひろ 1975年京都府生まれ。京都大学文学部卒。出版社勤務を経て、2006年11月に(株)ミシマ社を単身で設立。少数精鋭にして一冊入魂の本作りや書店との直取引など、新たなビジネスモデルを次々と確立。また内田樹著『街場の教育論』や益田ミリ著『今日の人生』、クリープハイプ著『バンド』など、結果も出し続ける業界屈指の風雲児。著書は他に『失われた感覚を求めて』。現在は京都在住。170㌢、62㌔、O型。

物事には効率化せずに手間暇かけないと生まれない熱量が絶対にあると思う

「一冊入魂」「原点回帰」の野生派出版社・ミシマ社が折しも創業9年目を迎えた14年末のこと。このどこか聞き覚えのある書名は、何の中身の構想も伴わないまま三島邦弘代表(44)の体内に〈降臨〉したのだという。
「もちろんタランティーノ監督の傑作『パルプ・フィクション』ありきの響きですが、気づくと『なんとかこれを書かねば』っていう、思いだけがあったというか。
 そうやって何もないところから本が生まれる過程を脱線も交えて追った本書は、まさに『パルプ・ノンフィクション』の名に相応しい感じも、今はします(笑い)」
 パルプ、つまり本や出版の今を書こうと思ったものの、編集者を頼むのもはばかられ、自ら〈脳内編集者〉を兼務する迷走ぶりもそのまま綴られる。だが本書は〈古い枠組み〉から脱却し、より有機的で生き生きとしたシステムの構築をめざす、〈ほがらかでクレイジー〉なビジネス書でもあった。

 自由が丘と京都を拠点に出版界の常識にしなやかに風穴を開け、11年には初著書『計画と無計画のあいだ』も刊行した三島氏。だが、本書の彼は当然ながら前著から9年分歳も重ね、ままならない資金繰りや新人教育など、大人の事情にまみれてもいた。
「よく経営を心配されるんですが、資金ショートはよくある話ですし、大丈夫なんです。むしろ僕の気がかりは、この10年で増えた1人出版社や小規模出版にあります。〈小舟〉同士が連携し、大手版元も巻き込んで補完し合う関係を、未だ作れていないのです。
 そこを繋いで毛細血管、、、、として機能させないと、結局は動脈頼みになって梗塞を起こしかねない。つまりは共倒れです。いくら小舟が多様な良書を作っても、本の世界そのものが続かなければ意味がないし、動脈だけで何とかなった時代はとっくに終わっているので」
 実はこの春、三島氏らは書店―版元間の受注作業を効率化する画期的プラットフォーム「一冊!取引所」を運用開始予定で、HPにこんな言葉がある。〈思いを込めた「一冊」がちゃんと届くために、書店と出版社の取引をもっと便利にしたい。やりとりをもっともっと楽しくなるようにしたい。この「取引所」は、これからの書店と出版社が自産業を未来へつなげていくために、一緒に育てていく「自分たちの」システムです〉
「読者に本を届けるまでが一冊入魂だといいつつ、手書きの注文票を各書店とFAXでやり取りする昔ながらのやり方に頼って疲弊しているのが現状です。その労力を、本作りや選書という互いの本来の仕事に注ぐためにもこの取引所は必要でした。今は効率化しちゃいけない部分ほど効率化されがちです。でも僕は手間暇かけないと生まれない熱量って絶対あると思います。本書はその熱量をどう確保するか、6年がかりで考えた記録でもあるんです」
 序章〈出版不狂説〉の中で〈好きだけでは仕事はできない〉のは本当かと再三問う彼は、それでも好きや面白いが先にある〈マグマ発の本〉こそが閉塞を打破すると直観。鳥取県智頭ちづ町でパン屋とビール工房を営む渡邉格氏や、秋田県五城目ごじようめ町に300年続く蔵元、福禄寿の渡邉康衛社長など、一見出版とは無関係な旅や出会いにヒントを得ていく。
「酒造りをもう一度手作りに戻し、上質なお酒を適切な量だけ作る一方、効率化できることは効率化する福禄寿の渡邉さんと出会うべき時に出会えたのも、本当にたまたまなんですけどね。
 他にも新たな農業の形を移住者と模索し、島の魅力に繋げつつある周防大島でのうねりのようなものとか、まだ形にならない〈種〉から学んで伝える僕らの方も自ら変わる必要があった。しかし日本酒には守るべき伝統やご先祖様がいるのに対し、現在の出版は洋紙産業。古来からの和紙とは断絶がありご先祖様がいなかった……。でも一見絶望的なこの発見が、〈キンダイの超克〉という章に繋がるんです」

自分たち仕様でシステムを作る

〈活路は、先祖にあり〉と越前・和紙の里を訪ねたものの、先祖の不在に打ちのめされた氏は、受け継ぐべき知恵をやがて前近代に見出し、生産性やイノベーションといった言葉や近代的枠組みそのものを疑う、壮大な実験に打って出る。
「この本自体、起承転結や近代の約束事をあえて逸脱した実験みたいなものです(笑い)。でも能の舞台のように始まりと終わりが今一つハッキリしないものが、日本では文化として元来受容されていた。そもそもなぜ始点と終点が物語に必要かも、問われてこなかった気もします。
 それくらい、僕らが信じて疑わない常識やシステムも、今では人口が減って大量生産大量消費では立ち行かずに不具合を起こしています。こうなると次世代にも手渡せるようなシステムを自分たち仕様で手作りする以外、やるべきことなんてないと思うんです。現に周防大島で断水が1か月以上続いた時だって国は何もしなかったし、今回のコロナ対応でもいかに自分たちの足元が脆弱か、ハッキリしたと思う。
 ただ、批判で終わっては意味がなくて、自分たちの現実や足場をきちんと作っておくことが大事。そうでないとトップがすげかわり何も変わらない状態が延々繰り返されるだけです」
〈私たちをとりまく環境は、実態としてすでに『無政府状態』に近い〉との認識に立ち、かといって絶望するでもない三島氏は、近代が斬り捨ててしまったものと令和の最新技術とをしなやかに切り結び、融合を待つ。
「そもそも今のものを壊さなきゃ次に行けないという発想自体、近代の宿痾しゆくあですし、そんな時間があったらいいと思ったものを実践に移す方がよほど賢明です。
 それこそミシマ社の組織作りは非常時ベースで組んでいます。そうしないと生きていけないからです。この規模だと組織の硬直化は死活問題で、特に危機の時は先手、先手で実効策を講じないと命取りになる。日本ではこの20年、何もかもが後手前提でしたけど、そろそろ次代にパスを繋ぐべく動き始めないと、産業もろとも、社会もろともダメになってしまう」
 自社の組織改革のあいまに〈人間視点から地球視点へ〉の転換を語り、出版と教育と日本酒の未来を同じ土俵で語れるのも、おそらく彼と彼を取り巻く人々が魅力的な運動体であり続けるから。その過程の一端を切り取った本書に、結論など必要あろうはずもない。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2020年5.1号より)

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