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小山俊樹『五・一五事件 海軍青年将校たちの「昭和維新」』/昭和史の謎をリアルな息遣いで記述する名著

犬養毅首相が暗殺され、政党政治に終止符が打たれた「五・一五事件」を多角的かつ冷静に分析。コンパクトな概説書でありながら、第一級の歴史書であり、また文学作品の味わいもある名著を紹介します。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
平山周吉【雑文家】

五・一五事件 海軍青年将校たちの「昭和維新」

小山俊樹 著
中公新書
900円+税

昭和史の謎を徹底的に追いつめていく第一級の歴史書

 尖鋭な問題意識と繊細な知性が、昭和史の謎を徹底的に追いつめていく名著である。
 犬養毅首相が官邸で海軍の将校たちに暗殺され、政党政治に終止符が打たれた「五・一五事件」を多角的に、冷静に、リアルな息遣いで記述し、分析していく。実行者たちも、犬養家の遺族も、揺れ動く元老や重臣や政治家たちも、誰もが生きて苦悩する姿が臨場感を持って描かれている。コンパクトな概説書でありながら、第一級の歴史書であり、人間観察の柔軟さには第一級の文学作品の味わいもある。
「文学」として面白いといっても、中途半端な想像力は一切排されている。確実な史実に基づいて記述し、史料の「余白」部分は慎重な推理を提示しながら埋められていく。襲撃当日をドキュメンタリータッチで描く導入部はそのまま映像化できるほどだが、そこにもいくつもの疑問が埋め込まれている。「話せばわかる」とは一体なんのことか。「問答無用」なのか、「問答無益」なのか。
 事件前に上海で戦死した首謀者・藤井斉、戦後まで影響力を残す三上卓(あの「昭和維新の歌」の作者でもある)といった海軍将校たちの内面に入り込む前半部はそれだけでも収穫だが、本書の本領はむしろ後半部にある。
 極刑に処されて当然な被告たちが、国民の圧倒的な同情と支持で、死刑を免れ、恩赦もあって早々と復権する。その過程には、メディア・キャンペーンによる、あっという間の世論の変化があった。
「五・一五」を機に政党内閣は終わり、普通選挙の投票結果は政治を動かせなくなった。次期首相を決める「元老」西園寺公望は「憲政常道」の原則を持し、政友会総裁の鈴木喜三郎を推挙することに決めていた。それが「天皇の希望」によって、西園寺は「変心」を余儀なくされ、斎藤実「挙国一致」内閣が登場する。昭和天皇と側近たちが政党政治に引導を渡した。この刺激的な指摘には十分に説得力があり、「希望」の表明は結果的に昭和史の悲劇を生んでいく。

(週刊ポスト 2020年7.10/17号より)

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