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【著者インタビュー】寺井広樹『AV女優の家族』/実直なインタビューで業界最大のタブーに迫る!

白石茉莉奈、板垣あずさといった人気AV女優たちに、業界で最大のタブーとされる「家族の話」を訊くインタビュー集! ウソや綺麗事は一切書かず、それでいて前向きな本にしたかったと著者は語ります。

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

近年はアイドル化してきた人気AV女優たちの「最大のタブー」に迫る実直なインタビュー集

『AV女優の家族』

光文社新書
800円+税
装丁/GOOD FLOW

寺井広樹

●てらい・ひろき 1980年兵庫県生まれ。同志社大学経済学部卒。大学時代の先輩の「離婚式」をプロデュースして以来、多くの式に携わり、13年には心のデトックス「涙活」を発案。「まずい棒」を始めとする銚子電鉄との商品開発や映画『電車を止めるな!』(8月末公開)の原作脚本、日野日出志作品の管理運営など、幅広く活動。著書に『離婚式へようこそ』『泣く技術』『あの世の歩き方』等。また昭和オカルトや都道府県別『怖い話』シリーズも。172㌢、66㌔、B型。

取材を通じ、女優の道を選んだ自身を形に残して肯定したかったのだと思う

「離婚式」のプロデュースに、泣くことでデトックスを図る「涙活」の提唱。はたまた経営難を逆手に取った銚子電鉄では「まずい棒」の商品開発まで――。一見脈絡のない自身の興味の対象に関し、「崖っぷちの状態にいる人など、建前ではない人間のに、興味があるのでしょうね」と寺井広樹氏(40)は分析する。
 本書『AV女優の家族』は、白石茉莉奈、板垣あずさといった人気女優たちに、業界最大のタブーとされる「家族の話」を訊くインタビュー集。確かにテーマは「素」以外の何物でもない。
 だが女優は虚構に生きてこそ女優でもあり、各々の成育歴や素顔を知れば知るほど、「リスペクトし過ぎて欲情できない自分」という思わぬ収穫まで得てしまう、胸中複雑な寺井氏であった。

「女優さんは仕事に対してプロ意識が凄く高い。そして彼女たちを人間として尊敬すればするほど、興奮できなくなっちゃうんですよね……。借金を抱えているとか男に騙されて仕方なくやっているなど、後ろ暗い事情がある方が興奮するのはなぜだろうと思うほどです。特に最近の女優さんは自らの意志でこの道に入っていて、高い美意識で仕事に臨む姿勢は、アーティストと同じです。見る人に喜びを与えるべく演技や計算をし、ファンタジーの戦略的な作り手なのです。それをいたずらに現実に引き寄せたりすれば、興奮がしぼんでしまうのも道理なのかなあと思いました(苦笑)」
 本書には5人の女優と、男優一人が登場する。まずは小学生の頃からモデルとして活躍し、「牛乳に相談だ」のCMでブレイク後に休業、若くして家庭に入った白石茉莉奈氏。その後〈人妻でママのAV女優〉としてAVデビューを果たし、回転の早いこの業界で既に7年のキャリアを持つ。だが、海外赴任中の夫は今もって彼女のAV出演を知らないというから驚きだ。
「もしかしたらプロフィール設定、、かもしれませんけどね。ただ家族に〈バレる前に辞めよう〉と思って活動を始めた方は実際多いです。でも白石さんは親兄弟には即刻バレ、ご主人と息子さんにバレるのも時間の問題だろうとのことでした。そのバレた時の対応がまた人それぞれなのですが、基本的には出演理由をきちんと自分で説明し、周囲の理解を得ようとする意志の強い方がほとんどでした。
 一方家族の反応も色々で、強い拒絶反応を示すのは母親に多く、父親の方がまだ理解があったりする。たぶんAVがどんなものか知ってるからかもしれません」
 一方、新人女優の優月心菜氏の場合は出演経緯といい複雑な家庭環境といい、壮絶を極める。元々は世田谷の裕福な家に育ったが、小4の時に両親が離婚。ガスや水道が頻繁に止まる家に鬱状態の母や祖父母と住み、経済難から高校も5年がかりで卒業。その後も自称プロデューサーに騙され暴力をふるわれたり、ホストにハマり風俗で働いた稼ぎを全て貢いだりと、苦労の絶えぬ日々が続く。そして疲れ果てた中でAV女優の面接を受け、転身する。今では〈人に頼らず生きていけるようになった〉とその決断を喜び、家族とも関係を修復しつつあるという。

祖父の命日に思い出す女優

「確かに優月さんの半生は波瀾万丈ですし、劇的で悲惨な話のほうが読者の需要があるのかもしれません。ただ私が今回最も心がけたのが、ウソや綺麗事は一切書かないこと、それでいてできれば前向きな本にしたいということでした。
 たぶん本書最大の特徴はAV監督でも専門ライターでもない部外者の私が訊き手を務めたことで、その分、詰めの甘さもあるとは思う。私は人の嫌がることを訊けない、イイ人なので……(笑い)。ただ優月さんの自立にかけた思いとか、AVと風俗の2本柱で娘を育て上げ、今では娘さんも同じ道に進もうとしている当真ゆきさん・つむぎさん母娘の強さと明るさとか、訊いてみると暗い話ばかりじゃないんですよ。
 今回取材に応じてくれた方々は皆さん自己肯定感が強くて聡明で、カリスマ性にも富んでいました。自分は後悔してないし、したくないと、取材に答えることで形に残したかったんだと思います」
 AV女優に対し「お世話になった」という言い方がある。寺井氏にも中学、高校、大学と、その時々に女神がおり、決して肉欲だけではない関係性が行間に滲むのも面白い。
「女優さんにはもう感謝しかないです。中3の時に飯島愛さんの裏ビデオが友達から回ってきたり、地上波の『おとなのえほん』という番組でAVをフツウに流していた時代に、私は思春期を過ごしました。
 その時々で見た作品と、その時に自分が何をしていたかは、今でもセットで思い出せます。例えば25年前の祖父が亡くなった日に夕樹舞子さんに慰めてもらったこともハッキリ憶えています。毎年、祖父の命日がくると、夕樹さんのことを思い出しますもん。それくらい自分の心身の成長とリンクしていて、神格化した存在なんです。だから彼女たちを普通の女優と比べて格下のように言う『AV堕ち』という言葉には、今でも納得がいかないんです」
 素肌を晒す女優たちの、さらに素の姿に、家族という切り口から迫った本作は、それがアイドル的な職業にすらなりつつある現代のフラットな空気をも映し出す。読後に見返したカバー写真で当真さん母娘越しの空は晴でも雨でもなく、ぼんやりした曇り空なのが印象的だ。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2020年8.14/21号より)

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