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『定本風俗営業取締り 風営法と性・ダンス・カジノを 規制するこの国のありかた』

【書闘倶楽部 「時代」の肖像】

評者/鈴木洋史(ノンフィクションライター)

なぜダンスホールは長らく風営法の規制対象だったのか

『定本風俗営業取締り

風営法と性・ダンス・カジノを

規制するこの国のありかた』

定本風俗営業取締り

永井良和著

河出ブックス

本体1850円+税

永井良和(ながい・よしかず)

1960年兵庫県生まれ。関西大学社会学部教授(都市社会学・大衆文化論)。著書に『南沙織がいたころ』(朝日新書)、『スパイ・爆撃・監視カメラ』(河出ブックス)、『南海ホークスがあったころ』(共著、河出文庫)など。

今年6月、風営法が大幅に改正された。ポイントの一つが、風営法が最初に制定された1948年以来初めてダンスホールが規制対象から外れたことだ。戦前から男女が体を密着させて踊るダンスホールは「売買春などの犯罪の温床」と見なされてきた名残で、今日まで規制され続けてきたのだ。それが象徴するように、国家がいかに性や風俗を社会秩序を揺るがす危険要素と見なしているかがわかる。

本書は、前史である江戸時代の風紀政策にまで遡り、風営法の歴史とそこに反映された社会の変化を考察した作品。社会学者による論考だが、テーマが柔らかく、興味深い事実も数多く紹介されており、一般の読者にも読みやすい。

本書を読むと、江戸時代の風紀政策の思想が戦後の風営法にまで引き継がれたことがよくわかる。幕府は都市郊外の一定区画に売買春に関わる店や女性を集め、塀や堀を設けて外部から隔離した。その廓に住む女性は「玄人」だけで、出入りできるのは大人の男だけ。そのやり方にはメリットがいくつもある。権力にとっては取り締まりが容易で、「素人」の女性や子供を「悪所」から遠ざけ、業者は営業利権を公認されたに等しい……。著者はそのやり方を〈「集娼」方式〉と呼ぶ。戦後で言えば、塀こそないものの、赤線地区、青線地区という囲い込みがそれである。

最初の風営法が規制対象としたのは、女性が接待する飲食業、ダンスホール、ギャンブル業などだけだったが、時代とともに新しい業種が次々に登場し、深夜営業という未踏の領域も開発されていった。風営法はそれに応じて規制の枠組みを細分化し、規制対象を増やしていったが、従来通りの〈「集娼」方式〉の維持は次第に困難になっていった。そこで導入されていったのが、学校、老人ホーム、病院など子供や女性や高齢者などが利用する施設から一定の距離内を営業禁止区域とするやり方だ。裏返せば、禁止区域といういくつもの〈見えない壁〉に囲まれた限られた区域でしか営業できないようにした。ちなみに、歌舞伎町では住人の減少によって学校がなくなり、風俗店の新規開店が可能なエリアが増大していた。そこで区が打ったのが、区役所の建物内に区立図書館の分室を設けるという奇策だ。それによって〈見えない壁〉を再建したのである。

だが、無店舗型の性風俗店や、アダルト物の通信販売、ネット販売が普及すると、従来の〈囲い込み〉方式は破綻を迎え、今、大きな転換期に立っているという。

著者が提示するそうした見取り図は説得力があり、かつ面白い。

さて、風俗営業取り締まりは今後どうなっていくのか。まだ明確な見通しはないようだが、著者は監視カメラの増設に象徴される昨今のあり方を念頭に置き、次のように述べる。〈現在の、悪や不審者をことごとく排除し、みずからの居場所を「浄化」しようと躍起になる動向のほうが、はるからにすぐれたものだとはいいきれない〉

江戸時代以来の〈囲い込み〉が、性風俗を悪としつつも社会の片隅に存在を認める、ある種寛容な〈包摂型社会〉の象徴だったことは確かだ。これからの日本が向かうのが、無菌状態でクリーンだが非寛容な社会なのか、それとも多少は汚れているが必要悪の存在を認める寛容な社会なのか。風営法の行方にもそれは読み取れるようだ。

(SAPIO 2015年10月号より)

 

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