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【著者インタビュー】志駕晃『彼女のスマホがつながらない』/現実とほぼ同時進行で事件を描いたリアルタイム連載小説!

映画化もされた『スマホを落としただけなのに』の著者・志駕晃氏が週刊誌女性セブンで仕掛けた、前代未聞のパパ活ミステリー! 

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

パパ活×週刊誌連載 映像化で話題の作家が仕掛けた前代未聞の〝現在進行形〟ミステリー 2020年の締めくくりはこの1冊で!

『彼女のスマホがつながらない』

小学館
1400円+税
装丁/関静香(woody) 装画/げみ

志駕晃

●しが・あきら 1963年生まれ。明治大学商学部卒業後、ニッポン放送入社。制作部、編成部勤務の傍ら小説を書き始める。17年に『スマホを落としただけなのに』が第15回『このミステリーがすごい!』大賞〈隠し玉〉に選ばれ、デビュー。同作はシリーズ第2作『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』共々映画化され話題に。著書は他に『ちょっと一杯のはずだったのに』『オレオレの巣窟』『私が結婚をしない本当の理由』等。171㌢、68㌔、O型。

書かれた時代が明確なら作中の事物がいずれは歴史的価値を持つこともある

 2つの時、3つの現場。
 デビュー作にして北川景子主演で映画化もされた『スマホを落としただけなのに』(17年)の著者、志駕晃氏の新作『彼女のスマホがつながらない』では、鎌倉の由比ガ浜に若い女の死体が流れ着き、鎌倉署に帳場が立った令和2年2〜9月を、仙台出身の女子大生〈相沢咲希〉やその友達が訳あって〈パパ活〉に走るまでを描いた平成30年6月以降が刻々と追走。1つは鎌倉署、1つは白金の聖百合女子大、今1つは一ツ橋出版の〈女性エイト〉編集部にカメラを置き、事件の解決までを現実とほぼ同時進行で描いてみせた、〈リアルタイム連載小説〉だった。
 連載期間は今年2〜10月。つまり東京五輪の延期など想像しなかった時点で本作は書き始められ、その間の出来事を入社5年目の編集部員〈新垣友映〉らの日常を通じて並走させた、前代未聞の趣向といえよう。
「僕は根が放送屋だからか、読者が途中で飽きやしないか、いつも不安で不安で。できれば新しいことを一生やり続けたいくらい、要は心配性なんです(笑い)」

 まず驚くのがその執筆スケジュールだ。
「確か昨年の秋です。『女性セブン』から小説の連載を依頼されて、取材を始めたのが。その時は東京五輪にピークを置く予定で、今とは全然違う話だったんですが、女性読者が興味を持ってくれそうな週刊誌の舞台裏とパパ活を核にはしようと思っていました。
 連載中は毎週月曜日にゲラを戻し、その週の木曜に雑誌が出る強行日程を組んだんですが、意外にもそれができちゃった(笑い)。例えば要所要所にある何月何日という日付は実際の雑誌の刊行日で、その週の話題やゴシップも盛り込みながら、虚構の、しかも2つの時間が、追いつけ追い越せで進んでいく。過去パートの時計は1か月、現在パートは1週間刻みで進めると大体8か月で追いつく計算で、大変は大変でしたけど、捜査本部にコロナを流行らせてみたり、思った以上に面白いものが書けました」
 また、さらに必見なのが、殺されたのがどの彼女、、、、で、誰が嘘をついているかなど、事件に関する結構な核心が、適宜挿入される雑誌の誌面、、、、、を通じて明かされる点だ。
「つまり女性エイトという架空の雑誌を模した誌面が、連載中は『女性セブン』に載ったわけです。その体裁が嘘を本当っぽく見せ、ミスリードに貢献したりもした。極端な話ですが、エンタメは結末より、途中、、が面白いのが一番! 僕はそう思っているんです」
 と、内容の紹介一つにも困難が伴う本作ではあるが、件の身元不明死体の捜査と、咲希が同郷の友人〈今野里香〉に誘われるまま若さを金に換え、何かを失ってゆく様は、やがて友映たちの警察顔負けの取材もあって、悲しく残酷な像を結ぶ。
 特に咲希の場合は父親がリストラに遭い、退職金でコンビニを始めたものの、最近は仕送りもままならず、日夜バイト漬けの彼女を見かねた里香が紹介したのが、〈パパ活アプリ〉〈財前〉という美容外科医だった。
 が、複数のパパと食事や旅行を楽しむ里香に対し、咲希はアプリで会った自称社長にやり逃げされ、葉山にクルーザーまで所有する一見ダンディな財前も人が見ていないと興奮できない性質と、つくづく運がない。

10人に1人がパパ活経験者

 それでも大学に通い続けるために〈月極めパパ〉〈食事パパ〉を求め、〈ギャラ飲み〉で稼ぐ彼女たちは今やより好条件な〈太パパ〉を玄人と取り合う存在に。中には若い夢を純粋に支援したがるパパもいるらしく、パパ活界の敏腕ブローカー〈早坂翠〉に助言を仰いだ咲希は、単に学費や家賃のためでは太パパの心は掴めないと釘を刺されるのだ。
「パパ活も金額や肉体関係の有る無しまで様々ですが、本当にお金に困っている子が食事だけで1万もらえたら、やってもおかしくないと思うんです。実際に取材で話を聞くと、父親が厳しすぎたり、母子家庭だったり、リアルな父親が与えてくれないものを、金銭的、精神的に埋めている感じさえあった。それほど今は父性が不在なのかもしれず、10人に1人が経験者とも言われる現象は現象として、書き記しておこうと。
『スマホを落としただけなのに』で盗まれるのなんて4ケタのパスワードです。今だったらあり得ないけど、書かれた時代さえ明確なら、いずれは作中に保存された事物が歴史的価値を持ち、作品の寿命を逆に長らえる場合もあると思うので」
 社会の両極を繋ぐパパ活は〈分断化が進む社会の中で生まれた一種のあだ花〉で、〈結局世の中はお金持ちと美人で回っている〉
 また04年に日本育英会が日本学生支援機構になって以降、奨学金が〈有利子の学生ローン〉と化し、〈若者の貧困というよりは、親の経済力の低下が問題なんです〉等々、耳の痛い台詞や表現があちこちに配され、それが事実だけに胸を抉る。
「ただ、鎌倉署の〈佐渡谷〉署長が〈最近の女子大生は一体どうなっているんだ〉とオヤジ丸出しに嘆くのも、僕は大事だと思うんですよ。咲希たちがパパ活に走った背景を確かに我々はもっと知るべきだとは思う。でもその前にパパ活なんて絶対ダメだと、フツウに怒れる大人がいる限り、まだまだ日本も捨てたもんじゃないと、僕は信じたいんです」
 そもそも「時代抜きには書けないし、書きたくないエンタメ作家」を自称する著者は、コロナで困窮した学生がパパ活に走ることを本気で心配し、やがて友映が辿り着く真犯人像にすら時代の影や悲しみを宿すのだ。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2021年1.1/8号より)

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