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【著者インタビュー】木下半太『ロックンロール・トーキョー』/才能と運だけがモノを言う東京で、映画監督になる夢を追う

『悪夢のエレベーター』シリーズが累計90万部を突破し、小説家として成功しながらも、映画監督になるという夢を追い続けた木下半太氏。その自伝的小説執筆の背景を訊きました。

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

映画監督になりたい青年と売れない劇団「チームKGB」が東京で夢を叶えるために悪戦苦闘 傑作青春小説、待望の第二弾!

『ロックンロール・トーキョー』

小学館文庫
700円+税
装丁/bookwall 装画/山下良平

木下半太

●きのした・はんた 1974年大阪府生まれ。高校卒業後、映画専門学校に入学するが、講師と喧嘩して中退。劇団を旗揚げする傍ら知人とバーを共同経営し、ストリップ劇場の前座や映画『パッチギ!』の端役等を経て、06年『悪夢のエレベーター』で小説家デビュー。同シリーズは累計90万部を突破し、映画化・ドラマ化・漫画化も。現在は劇団「渋谷ニコルソンズ」主宰、「なにわニコルソンズ」団長の他、小説家、脚本家、映画監督として幅広く活躍。171㌢、90㌔、O型。

傲慢やけど僕は劇団のヤツらに慕われることで居場所を確保してきた気がします

 劇作家。俳優。小説家。そして今月、地元大阪でもついに公開される映画『ロックンロール・ストリップ』(23日〜十三・第七藝術劇場他)で木下半太氏(46)に新たに加わったのが、映画監督という夢の肩書きだ。
 本書『ロックンロール・トーキョー』はこの、「8割方事実のほぼ自伝」の続編にあたり、前作のラストでチームKGBの面々や愛妻〈千春〉と大阪を出た〈木村勇太〉が、方南町のアパートで共同生活を始め、小説家、そして監督となるまでを描く、東京立志編だ。
 が、場末のストリップの前座を務め、ハチャメチャで夢だけはあった大阪時代と違い、東京は才能と運だけがモノを言う淘汰の場。勇太自身、日々売れていく自分を持て余す一方、〈こいつらは……プロになれないかもしれへん〉とも思う。
 そんな青春を少し過ぎた日々の苦さがかえって心に沁みるのは、人生のままならなさや奇跡性を私たちが知りすぎてしまったせい?

〈主人公は大阪の売れない劇団の座長。金も名誉もなく、世の中から相手にされずもがいている〉〈彼の夢は映画監督。いつか全国の映画館のスクリーンに自分の作品がかかることを夢見て、小さな劇場の少ないお客さんの前で芝居を打つ〉……。
 これは小説家として売れるほど、〈俺は東京で何してるねん〉と自分を見失っていく勇太が、まずは半生を小説にし、映画化しようと思い立つ本作の構想シーン。その刊行に一役買った三軒茶屋のバー〈いちびり〉も実名で登場するなど、虚実の織り交ぜ加減が絶妙だ。
「お調子者のことを大阪でいちびりって言うんですけど、たまたま看板が気になって入った店に、この本の担当編集さんがいてたんです。同じ大阪出身の。それが縁でこの自伝が出せた。細部は多少変えてますけど、信じられないことばっかり起きるんですよ、俺の人生。
 ブログ会社に何か書けと言われて書いたら、幻冬舎の人が連絡をくれて、小説なら書きますと言って、当時売れてた2人の作家さんの本を読んで、3週間で書き上げたのもホンマの話。そしたら契約書が送られてきて、印税もすぐ振り込まれて。そうか、東京では実力をちゃんと評価してくれる、万事なあなあな関西とは違うなあと、その時に東京行きを決めたんです。
 さらに東京に着いた夜には『悪夢のエレベーター』の重版が決まった。だから、本に出てくる『上京するなら2月1日。本もアンタも売れる。でも浮気したら〈一発四十日〉寿命が縮むで』って言うた東大阪のおもろい霊媒師のオバチャンは、本物なんです(笑い)」
 が、本書の勇太は出世が少々遅い。方南町に借りた築50年の2DKには、新婚の勇太夫婦と〈火野素直〉〈ビーバー藤森〉〈赤星マキ〉の計5人が寝起きし、パスタ1㌔を丸ごと使った特製〈鬼ボナーラ〉を貧しく分け合い、週末の秋葉原では大阪時代から十八番のヤクザの恰好をしたフラッシュモブが外国人に大ウケするも、ウケ過ぎて金を貰い損ねる始末。
 そんな中、〈筒石監督〉の新作映画オーディションが京都であると聞き、有り金をはたいて参加。冒頭で〈深海りん〉演じるヒロインに絡み、ボコボコにされる不良役に抜擢されるが、ギャラは1人5000円。映画の世界も甘くはない。
井筒、、和幸監督の『パッチギ!』(05年)に出たんです。
 映画監督になりたいのになり方を知らなかった僕は劇団を作り、食えないから小説を書いたらそれが売れて、監督の道にも繋がった。もし助監督とかで入ったら? 続かなかったと思います。性格的に。
 小学5年生の時、新聞社のパイロットだったオトンが死んだんです。それからですね。勉強も貯金も『明日死ぬかもしれへんし』っていう刹那的な生き方が根付いてしまったのは」

フィクションに救われてきた

 その彼がなぜ映画なのか。本が売れて生活が一変し、芸能事務所にスカウトまでされる一方、劇団内で孤立し、特に禁酒をやめてからは肝心の小説すら書けなくなった勇太が、長年向き合えずにいた父の死と正対するシーンがある。〈俺はオトンが大好きだった〉〈いなくなったのを認めるのが怖くて、映画という現実逃避に走った〉〈映画を観ている間、俺は人生での一番辛い出来事を忘れることができた〉
「要は俺もフィクションに救われてきた人間で、もしオトンが生きてたらここにはいなかったかもしれない。しかも長男なんで、葬式で言われた『お前が弱い者を守らないかん』って言葉が刷り込まれてるんですね。だから劇団を作ったりする。
 今も訊かれます。なんで売れたのに売れないコらと劇団なんかやるのかって。確かに傲慢は傲慢やけど、僕は慕われることで居場所を確保してきた気もするし、成功しても喜べないんです、ヤツらが一緒じゃないと。
 現に結果を常に求められ、プレッシャーに潰されかけた時、壁が倒れて見えたんです、グニャ~ッと。次も期待してますと言われ続けるプレッシャーに比べれば、何クソでやっていけるプレッシャーなんて大したことないし、そんな鬱状態を抜け出せたのも僕の本を読んでくれた誰かのために書こうと思えたからなんです」
 その点、〈人間はダメやからおもろいし、アホやから愛しいのに〉という気づきや、〈何も言わない応援もあるねん〉という台詞は、人生に無駄などない証ともいえ、〈夢は大きくハリウッド〉と必ずサインに添える木下氏が追い求める笑いと涙のバランスがとれた真のヒューマンドラマの輪郭を、本書の中に見た思いがした。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2021年1.15/22号より)

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