『はなちゃん12歳の台所』
【今を読み解くSEVEN’S LIBRARY】ブックコンシェルジュが選ぶこの一冊
●ノンフィクションライター 城戸久枝
『はなちゃん12歳の台所』
安武はな
家の光協会 1296円
’12年に発売された『はなちゃんのみそ汁』(安武信吾さん・千恵さん・はなちゃんの共著)はベストセラーに。現在、広末涼子・滝藤賢一主演で映画も公開(全国での公開は来年1月から)されて再び話題となっている。本書は、中学生となったはなちゃんがつづったエッセイに、レシピがついた「その後」の話。親を思う娘のあたたかい気持ちが伝わってくる。
中学生になったはなちゃんが、
パパを気遣い、ママの記憶を手繰り
寄せながらつづったエッセイ+レシピ
33才でがんのため亡くなった安武千恵さんは、自分がいなくなる前に4才の娘、はなちゃんに生きる力を身につけさせようと、料理などの家事を教えた。5才の誕生日。「きょうから、みそ汁作りは、はなちゃんの仕事だからね」と語りかけ、はなちゃんのみそ汁作りが始まる。そんな安武家の物語『はなちゃんのみそ汁』は多くのメディアでも取り上げられ、話題を呼んだ。
はなちゃんは今年、中学生になった。「食べることは生きること」というママの教えを守り、毎朝みそ汁を作り続けている。本書は、はなちゃんが、ママの料理の先生であるタカコナカムラ氏とともに作り上げたレシピ、エッセイ本だ。
レシピは、みそ汁にはじまり、おむすび、卵焼き、肉じゃがなど、普段の安武家の食卓に並ぶ料理ばかり。ママから教わったもの、はなちゃん自身がアレンジしたもの、パパやおばあちゃんに教えてもらったものなどバラエティー豊かだ。
料理に添えられるエッセイからは安武家の日常がほんのりと伝わってくる。パパの体調を気遣い、ママの記憶を手繰り寄せながら、中学生らしい、無邪気な言葉が弾むように並ぶ。実は彼女が9才のころ、取材で安武家を訪れたことがある。当時、「ママのことはあまり覚えていない」と言った彼女は、今、しっかりとした筆致でママとの思い出をつづる。決して、ママのことを忘れたわけではない。彼女のなかには、成長とともに、いろいろな形で新たなママとの記憶が刻まれているようだ。
(女性セブン 2015年12月24号より)

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