設楽博己編著の『十二支になった動物たちの考古学』に見る、日本人の思想や宗教観、慣習。
古くから、深く関わっている「人」と「動物」。多方面からその歴史を解説した一冊を紹介します。
【サライブックレビュー 読む】
十二支の動物を通して日本人の思想や生活を識る─
十二支になった動物たちの考古学
設楽博己編著
新泉社(☎03・3815・1662)
2300円
年月日や時刻、方位を表す十二支の考えは中国で生まれた。秦代(紀元前221~前207年)には早くも、その十二支に動物を当てるようになったとされる。本書は、十二支に登場する動物について書かれた古今東西の文献や造形品を繙きながら、その動物たちがどう人間と関わったかを提示する。
「羊」は「祥」という目出度い文字に通じる。「美」は大きい羊、つまりよく肥えた羊のことであり、それが転じて「良い」「美しい」の意味になった。羊は大陸の遊牧民にとっては生活に密着した家畜だが、我が国では稀少だった。十二支の概念が入った頃の日本では、その姿は想像するしかなかった。
十二支のなかで唯一空想上の動物が辰、いわば龍である。古代中国では皇帝の化身として描かれたりと、崇高な存在とされた。神秘的な力を持ち、日照りの際には雨を呼んでくれると、農耕社会の弥生時代には日本でも土器などに描かれ始める。十二支の動物を通して、日本人の思想や宗教観、慣習をも識ることのできる好著。
(取材・文/鳥海美奈子)
(サライ2016 年3月号より)

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