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【著者インタビュー】小野寺史宜『今夜』/夜の東京を舞台に、人の心のリアルな感情の揺れを描く

ボクサー、女性タクシードライバー、警察官、国語教師……。夜の東京を舞台に交錯する4人の心の「夜の面」を描いた人間ドラマの傑作! 著者の小野寺史宜氏に、執筆の背景を訊きました。

【大切な本に出会う場所 SEVEN’S LIBRARY 話題の著者にインタビュー】

人生、一瞬先は闇、のち光が射して――4人の人生が交錯する東京の夜を情感たっぷりに描いた連作小説の傑作。

『今夜』

新潮社 1550円

試合に負けたボクサー、借金を背負った女性タクシードライバー、仕事も夫婦関係もうまくいかない警察官、その妻の高校の国語教師。東京に住む4人の人生が交錯する夜を描く。それぞれが善と悪の狭間に身を置いて、悩み、すれ違い、濃密にかかわり、やがて次の夜がやってくる。生きていることがいとおしく感じられる、書き下ろし長編小説。

小野寺史宜

●ONODERA FUMINORI 1968年、千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞を受賞。’08年にポプラ社小説大賞優秀賞を受賞した『ROCKER』で単行本デビュー。’19年に『ひと』が本屋大賞第2位にランクインし、ベストセラーに。ほかの著書に『リカバリー』『ひりつく夜の音』『夜の側に立つ』『タクジョ!』『食っちゃ寝て書いて』『今日も町の隅で』など。朝4時起床。午後は昼寝をしてから午前中に書いた原稿を推敲する。作品はほとんどが書き下ろしだという。

昼より夜が好き。街を歩くときもどこまでも歩けるような気がする

 背筋がピンと伸び、ぜい肉はどこにも見当たらない。ボクサーか修行僧のような空気をまとった小野寺史宜さんは、夜が好きだという。「早く暮れてくれないかな」とよく思うそうだ。新作の『今夜』でも、夜の東京を舞台にした人間ドラマを書いた。
「夜が来るとホッとするんです。闇に包まれる感じがあって、自分と向き合えるからかな。街を歩くときも、夜の方が疲れもストレスもなく、どこまでも歩けるような気がしますね」
 この小説に書かれているのは時間的な夜だけではない。4人の登場人物の心の中にある、昼とは違う夜の面が現れる。小さなごまかしもあれば、暴力、不倫もあるが、夜だったら自分も境界線を越えてしまうかも、と思わせるような、リアルな感情の揺れが描かれる。
 もう1つ、小野寺さんが書きたかったのが東京の街だ。23区内のJRで最も東の小岩駅、西の西荻窪駅、南の蒲田駅、北の浮間舟渡駅の近くに、登場人物が住んだり勤務したりしていて、このエリア内で物語は進んでいく。
「東京は知らない人同士が出会っても違和感がない。人の密度は高いけど、互いに知りもしないという距離感がいいんです」
 小野寺さんの作品はリンクが張り巡らされているように、同じ人物、映画、お店などが他の小説にも登場する。それがファンの楽しみでもある。『今夜』に出てくる優菜は『タクジョ!』のタクシー会社の運転手だし、ボクサーの蓮児のその後は『食っちゃ寝て書いて』で明らかになる。小野寺さんの頭の中では世界は1つ。それが1作ごとにどんどん広がっていくのだ。
 こうして惜しげもなく制作過程を明かしてくれる小野寺さんからは、小説を書く喜びが伝わってくる。執筆は毎朝4時半から10時までと生活もストイックだ。
「なるべく疲れていないうちに書きたいんです。頭が少しでも曇るといいものは出てこないので」
 毎日1時間、買い物を兼ねて歩くのが気分転換になっている。
「モノを考えるのにちょうどいいんですよね。歩くと自然に思考に移れて集中できる。靴の底がすぐ減っちゃって、幼児の靴みたいにキュッキュと音がする。ぼくが住んでいる千葉では、すれ違う人に聞こえちゃうんですけど、東京だと街の音があるから聞こえないんです」

素顔を知りたくて SEVEN’S Question-1

Q1 好きな本は?
フリオ・コルタサル『悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集』(岩波文庫)。あとはリング・ラードナーなど、柔らかい口語調のアメリカ小説が好きですね。

Q2 最近気になる出来事は?
冬なのに部屋にゴキブリが出てビビリました。常備しているゴキジェットプロで処理しました。12月の蚊とか、虫は気になります。

Q3 好きなテレビ番組は?
テレビは持ってないです。

Q4 趣味はありますか?
昔は音楽をやっていて、自分で曲を作っていましたが、いまはセロニアス・モンクのソロピアノを聴くくらいです。

Q5 最近ハマっていることは?
なんだろう、毎日、同じものを食べて書いている生活ですから‥‥。豆腐とキムチはもう30年くらい、ハマってますね。

Q6 ストレス発散法はありますか?
午前の執筆が終わって買い物に行く前に、腕立て伏せ50回、腹筋100回。ストレッチを含めて20分くらいです。20才の頃から1日も欠かさず、熱が出たときも朦朧としながらやっています。やらないと気持ち悪いんです。

●取材・構成/仲宇佐ゆり
●撮影/政川慎治

(女性セブン 2021年1.28号より)

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