ジョージ・ソルト著『ラーメンの語られざる歴史』に見る、ラーメンの裏面史。
日本人は、ラーメンについて本当に知っているのでしょうか?アメリカ人歴史学者ならではの見方でラーメンの起源や歴史を解説する一冊を紹介します。
【サライブックレビュー 読む】
アメリカ人歴史学者ならではの手腕が生きる、ラーメン裏面史─
ラーメンの語られざる歴史
ジョージ・ソルト著
野下祥子訳
国書刊行会
(☎03・5970・7421)
2200円
いまや日本の国民食ともいわれるラーメン。その歴史や文化をアメリカ人歴史学者が繙く。
ラーメンが「支那そば」として大衆社会に浸透したのは大正から昭和初期。物資不足の戦時中に姿を消すが、米軍占領下の小麦緊急援助によって復活する。じつはこの援助は、共産主義を封じ込める冷戦戦略の重要な道具であり、アメリカの余剰小麦問題の解消手段でもあった。しかも「援助」と称しながら、日本政府は正規の価格を請求され支払ったという、驚くべき事実も明かされる。著者によると、日本人は《食糧援助を提供したアメリカの寛大さと慈悲深さを教え込まれた》のだ。
高度成長時代に建設労働者と学生の定番昼食だったラーメンは、グルメの’80年代を経て、21世紀には国際的な「RAMEN」へと飛躍した。しかし、音を立てて麺を啜る日本人の食べ方が、相変わらず話題になっているという。占領軍の機密文書などを駆使した分析が、いままでにないラーメン像を描き出している。
(取材・文/住友和子)
(サライ2016年1月号より)

この記事が気に入ったら
「いいね」をしよう!
P+D MAGAZINEの最新記事をお知らせします。
あわせて読みたい記事
-
今日の一冊
【著者インタビュー】岸 政彦『図書室』/一人暮らしをしている50歳女性の、子どものころの幸・・・
初めて書いた小説「ビニール傘」がいきなり芥川賞・三島賞の候補となり、さらに本作「図書室」でも再度三島賞の候補となった、注目の社会学者・岸 政彦氏にインタビュー!
-
今日の一冊
【著者インタビュー】三國万里子『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』/ハンドメイド・・・
大人気のニットデザイナーが初めて上梓した話題のエッセイ集についてインタビュー!
-
今日の一冊
『タスキメシ』
-
今日の一冊
俳句と小説のエキサイティングマッチ!『俳句でつくる小説工房』
又吉直樹の俳句の師匠・堀本裕樹が選んだ句を、ショートショートの新鋭・田丸雅智が小説化! 俳句と小説の格闘がハラハラドキドキの一冊を、嵐山光三郎が紹介します。
-
今日の一冊
『NHKはなぜ反知性主義に乗っ取られたのか 法・ルール・規範なきガバナンスに支配される日本・・・
-
今日の一冊
【著者インタビュー】養老孟司『ヒトの壁』/生物としての「ヒト」とは何か? 『バカの壁』に続・・・
シリーズ累計670万部突破の最新作『ヒトの壁』で綴ったコロナと人生についてインタビュー!
-
今日の一冊
ファン必携のインタビュー集『筒井康隆、自作を語る』
SF御三家のひとりと称され、半世紀以上も数々の名作を世に送りだし続けてきた筒井康隆のインタビュー集。コアなファンにも、これから作品を読みはじめる人にもおすすめの一冊です。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】細川展裕『演劇プロデューサーという仕事 「第三舞台」「劇団☆新感線」は・・・
これまでに約220万人の集客を実現した演劇プロデューサー・細川展裕さんが、赤裸々かつユーモラスに半生を振り返った自叙伝。プロデューサーとしての35年間は、「縁と運を紡ぐ仕事だった」と語ります。
-
今日の一冊
改憲より前にすべきこと『自衛隊失格 私が「特殊部隊」を去った理由』
イージス艦「みょうこう」の航海長だった著者が語る、自衛隊の真実。改憲によって「自衛のための戦力保持」を正当化させる前にすべきことを、静かな熱意で綴っています。
-
今日の一冊
『モナドの領域』
-
今日の一冊
奥泉 光『ゆるキャラの恐怖 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活3』/底辺校の万年准教授を・・・
主人公は、学究意欲・教育意欲の欠片もない、底辺校の万年准教授「クワコー」こと桑潟幸一。ひたすらクビにならぬよう、大学のゆるキャラの着ぐるみを着て行事を盛りあげたりするが、ある日脅迫状が送られてきて……。脱力ミステリー「クワコ―・シリーズ」第三弾!
-
今日の一冊
吉見俊哉『五輪と戦後 上演としての東京オリンピック』/コロナ禍のいま、読まれるべき五輪史
東京オリンピックが一年延期となり、安倍前首相は「人類がコロナに打ち勝った証として」この五輪を成功させると言いましたが、そんな未来はやってくるのでしょうか。1964年東京五輪の「神話」の呪縛を解く、いまこそ読みたい五輪史です。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】宮田珠己『無脊椎水族館』
日々の疲れがたまったとき、人生の路頭に迷ったとき……水族館へ行こう。日本各地の水族館と、不思議な形・動き・生態の生き物を紹介する、話題の脱力エッセイ集!
-
今日の一冊
【著者インタビュー】桜井昌司『俺の上には空がある広い空が』/43年以上に及んだ冤罪体験が創・・・
20歳のときにやっていない強盗殺人の罪を着せられて、無罪を勝ち取るまで43年間の月日を費やし、うち29年は獄中で過ごしたという著者。現在は74歳でステージ4の直腸癌を患い、在宅での自然療法を選ぶ中で、“いま伝えたいこと”を綴った異色の書!
-
今日の一冊
トミヤマユキコ『少女マンガのブサイク女子考』/ブサイクをこじらせる心理の機微にせまる作品た・・・
美しい少女たちが描かれる少女マンガの世界には、時にブサイクとしか言いようのないキャラクターたちも登場します。今回紹介するのは、そんな「不美人」を主役とした少女マンガばかりを集めたガイドブックです。
-
今日の一冊
呉勝浩著『白い衝動』が重厚な筆致で描く、他者を受け入れることの難しさ。著者にインタビュー!
「人に理解されない衝動は誰にもある」―。殺人衝動を抱える少年、犯罪加害者…多数の登場人物が織りなす人間模様。他人を受け入れるとはどういうことなのか。創作の背景を著者にインタビュー!
-
今日の一冊
【著者インタビュー】斎藤恭一『大学教授が、「研究だけ」していると思ったら、大間違いだ! 「・・・
「教授はただの研究者ではなく、“勤め人で”あり“教育者”である」を信条とし、東大で12年、千葉大で25年の教鞭を執っていた斎藤恭一氏。不人気学科に“イイ学生”を集めるべく、斎藤氏が自ら動き、奮闘した記録を紹介!
-
今日の一冊
山極寿一、小川洋子『ゴリラの森、言葉の海』/霊長類学者と小説家が、ゴリラを熱く語る!
かつて熱帯雨林のなかで一緒に雨宿りをしたマウンテンゴリラが、二十六年ぶりに再会した著者を覚えていたこと、子を殺された母親ゴリラが殺したオスゴリラの子供を産むこと、そしてゴリラの同性愛のこと……。ゴリラをめぐって熱く語る、エキサイティングな対談集!
-
今日の一冊
【「2020年」が明らかにしたものとは何か】斎藤幸平『人新世の「資本論」』/限界を迎えた資・・・
誰もが変化と向き合った激動の1年を振り返るスペシャル書評。第8作目は、晩年のマルクスが構想した「脱成長コミュニズム」の必要性を説く新書。経済アナリストの森永卓郎が解説します。
-
今日の一冊
尾崎俊介『ハーレクイン・ロマンス 恋愛小説から読むアメリカ』/「殿方厳禁」の世界を覗き見る・・・
女性読者をやみつきにさせる『ハーレクイン・ロマンス』を介して、文学史、小説商品史、書物文化史、恋愛社会学など、さまざまな側面からアメリカを解析する一冊です。