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【著者インタビュー】能登崇『ない本、あります。』/架空の小説を集めた奇妙で不思議な超短編集!

表紙も、タイトルも、著者も、出版社も、何もかもが架空! 著者がツイッターに開設したアカウント「ない本」から生まれた、この「?」づくしの短編集は、私たちの想像を超える驚異の完成度です!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

読者から送られた画像が洗練された小説に変身!? 表紙、タイトル、著者、出版社……すべてが虚構の架空短編集

『ない本、あります。』

大和書房
1650円
装丁/能登 崇

能登崇

●のと・たかし 1991年帯広市生まれ。武蔵大学経済学部在学中は明大ミステリ研究会に所属。卒業後も家電販売員等の傍ら執筆を続け、18年にTwitterアカウント「ない本@nonebook」を開設。現在フォロワーは6万を超え、CX系「ワイドなショー」等でも話題に。「松本人志さんが『変則的な大喜利のようなもの』と言ってくれて。自分も大喜利好きなんで嬉しかったです」。筆名にはNotとルビが。「旧名は能登たわし。本も出るし、Not崇高くらいにしとこうと(笑い)」。166㌢、62㌔、A型。

仮に中身が空でも、物語が持つ熱量さえ存在すれば読みたいという状況は作れる

〈【ない本】(名詞・造語)
 (1)存在しない本。
 (2)投稿された1枚の画像を元に空想を広げ作成された、架空の文庫本のこと。
 (3)存在しないため、読みたくても読め「ない本」〉と、そもそもが「?」尽くし。
 そこに〈(4)本文が読めるようになった「ない本」も存在し、それが本書である〉と、さらなる逆転を重ねた『ない本、あります。』は、自称「小説家志望の会社員」、能登崇氏(30)の初著書にして、内容的にも驚異の完成度を誇る、〈奇妙で不思議な新時代の超短編集〉である。
 無いものが、有るという、この罪作りな状況は3年前、著者がツイッターに開設したアカウント「ない本」から生まれた。まずは写真を一般公募し、これを題材にいかにも文庫本風な装丁、、、、、、、、、、、を作成。表題も著者も版元も全て架空という徹底ぶりが大いにウケ、フォロワーは現在6万人を突破している。
 中でも出色の28冊を選び、書き下ろしショートショートを新たに加えたのが本書だが、その出来栄えはまさに必見。無い本を、読める、、、贅沢さは、私たちの想像を優に超えていた!!

「企画意図はよく訊かれますね。『ない本を作ってます』と言っても、なかなか伝わらないみたいで(苦笑)。
 始めたきっかけは幾つかありますが、やはり一番は自分が昔から本が好きで、本を出すことに憧れてきた気持ち、、、が根源にあると思う。ちょうど仕事探しのためにデザインの勉強を始めた頃、練習も兼ねて架空の本作りを始めたのも、自分が本のことをよく知っているからだと思うんです。現に今の会社では広告のチラシやコピーを作る仕事をしていますが、正直そっちは大苦戦で(苦笑)」
 小学生の頃から星新一のショートショートを耽読し、特に地元図書館で東京創元社ミステリ・フロンティアシリーズと出会って以降は「オチのある物語好き」に。大学時代に自分でも執筆と投稿を始め、担当がついたこともあったが、「本を出す人」には結局なれなかった。
「元々僕は日常の謎を描く東京創元社の作品が好きで、同社の鮎川哲也賞などの新人賞に応募していたんですけど、結局、最終選考どまりで。だったら作っちゃえといいますか、本らしさ、、、、だけなら自分でも作れそうなことに、デザインを学んで気づいたんです。逆に言えば、どんな要件が揃えば本は本たり得るのかというと、定義は意外と曖昧だったりします」
 お題はもつぱら投稿に頼り、双方向性を確信した原点が、冒頭の『傾いた惑星』だ。
 元々は海ではしゃぐ母娘越しに水平線を斜めに望む、ごく平凡な行楽写真から、能登氏はこの斜めの水平線をトリミングした上で、〈桜望梅 傾いた惑星〉と著者名&表題を配置。〈膝掛炒飯文庫〉なる出版社名やロゴまで丁寧に作り込み、表4には〈ハードウェアエンジニア・鍬原耕記がある朝目覚めると、部屋が66・6度傾いていた〉と始まる架空の物語のあらすじが。最後は〈人類に必要なのは解決か適応か? 葛藤と決断を描いた日本SFの傑作〉と王道の煽り文句で〆るなど、その遊び心とクオリティは世の本好きを唸らせた。

自分で居場所を作っただけです

「18年9月にアカウントを開設して1週間後かな、この『傾いた惑星』をアップしたら物凄く評判がよくて。通常は50程度のリツイートが1万何千に増え、気づくと4万を超えていました。
 写真を募ったのはたぶん、自分も伊集院光さんや爆笑問題さんの深夜放送を聴き、ダ・ヴィンチ・恐山さんの大喜利に参加したりもした、投稿文化育ちだから。1枚の葉書を元にみんなで笑いを作るみたいなことが、要するに好きなんです」
 割れた卵の殻を謎の波紋になぞらえ、〈酒を飲むと記憶を失う体質〉の男を主人公に〈覚えているのは自分が何らかの事件を解決したという実感のみ。自分が昨夜どこでどんな謎を解いたのか、持ち帰った『証拠』と愛用のボイスメモに記録された『証言』から再現を試みる〉、その名も『泥酔探偵』。
 食べかけの弁当写真から黒ゴマ部分だけを切り取り、〈スーパーの惣菜売り場、その隅にある弁当コーナーには、半額になっても誰も買わないような弁当が紛れている〉云々と、宇宙環境の存亡をかけた〈黒ゴマを巡る戦い〉を描くSF大作『七倍梅干し弁当定価五百七十円』など、どれも真面目なのかふざけているのか、わかりにくいのが素敵だ。
「元々はみんなの特技や視点を面白がれる場を作り、楽しくやれたらいいねっていうのが、僕が以前やっていた『ひざかけちゃーはん』というサイトなんです。
 というといかにも健全なネット住民みたいですけど、自分だってホンネを言えば、華やかで凄い作家さんとかがいる世界に行きたかった。それがうまくいかないから自分の居場所を自分たちで作っただけなんです」
 その延長に本書が生まれ、物語の本質を逆照射することにもなった彼に、本とは何か、改めて訊いてみた。
「うーん。まだ答えは出ませんが、誰かにそれを好き、読みたいと思わせる何か、または物語が持つ先を知りたいと促すエネルギー、、、、、、、、、、、、、、、それらが、強い本は面白く、弱い本は面白くない気はします。だとすれば、仮に中身は空でもエネルギーさえ存在すれば、面白そう、読みたいという状況は作れるともいえるし、僕はそんな作家が生み出す熱量、、、、、、、、、に、憧れてきたんです」
 ない本が、ある。それは「エネルギーあります」とほぼ同義を成し、本を巡る作者も読者も問わない愛の世界に、今後も書き、読むことで棲み続けようとする、大真面目な宣言でもあろう。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2021年5.7/14号より)

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