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小島庸平『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』/サラ金はどうして生まれ、どのように金融技術を高めていったのか

この数十年間のわたしたちのいとなみと、サラ金のつながりをひろいだす一冊。夜の街へ同僚をつれてまわるサラリーマンが優秀な借り手とみなされた理由、主婦を借り手としてくみこむ経緯など、興味深いサラ金の内実がわかりやすくまとめられています。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
井上章一【国際日本文化研究センター所長】

サラ金の歴史 消費者金融と日本社会

小島庸平 著
中公新書
1078円

同僚を連れて飲む会社員が優良な借り手だとされたワケ

 友人や知人から金銭の用立てをたのまれることは、ままありうる。依頼におうじて、便宜をはかるケースもないではない。だが、その金をはやくかえせとせっつくのは、困難である。ましてや、交誼こうぎのある相手に利息をはらえとは、なかなか言いづらい。
 しかし、二〇世紀のなかごろまでは、そういうことがよくあった。職場の同僚や近隣の人びとを相手に、期日や利率をきめて融通する。返済のおくれた相手には、帳簿や証文をつきつけ、なんとかしろと言いつのる。街には、そんな人が、けっこういたのである。
 今のべたような市井の金融人たちは、のちにサラ金業をはぐくむ下地となった。彼らが金融の技をみがき、プロ意識をとぎすませたところに、いわゆる消費者金融は成立する。そのいっぽうで、かつてよく見かけた素人金融のにない手は、姿をひそめるようになる。同じように質屋というなりわいも、存在感を弱めだす。
 サラ金は、担保をもうけない金貸しである。貸しだおれになるケースも、じゅうぶんある。そう誰にでも安心して、用立てができるわけではない。
 だが、夜の街へ同僚をつれてまわるようなサラリーマンは、優良な借り手だとみなされた。なぜか。高度成長期の会社員は、業績のみならず、人間性も人事評価の対象となった。飲ミニケーションにはげむ社員は、会社から高く評価されもしたのである。だからこそ、出世の可能性が高い、返済力があると、サラ金側も判断した。
 中高年の読者なら、なるほどそんな時代もあったなと、往時をふりかえろう。この本は、ここ数十年にわれわれがくりひろげたいとなみと、サラ金のつながりをひろいだす。そうか、あの習慣も、どこかで消費者金融をささえていたのかと、随所で感心させられた。サラ金が金融技術を高めていったという、その内実がよくわかる。
 女性、とりわけ主婦を借り手としてくみこむ経緯も、興味深い。今までの女性史が見おとしてきたところだなと、痛感する。

(週刊ポスト 2021年7.30/8.6号より)

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