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【著者インタビュー】七尾与史『偶然屋2 闇に揺れるツインテール』/深刻でえげつないことをあえて茶化す不謹慎テイストが持ち味

陰謀論に走る人間心理も、隙につけ入る悪意の存在も、小説に書くことで日常化し、意識化し、エンタメ化する――独特の持ち味で人気を博したミステリー小説に、待望の続編が登場!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

錦糸町のオフィスに舞い込む風変わりな依頼 今度は一体どんな事件が起きる? 大人気作に待望の続編登場!!

『偶然屋2 闇に揺れるツインテール』

小学館文庫 770円
装丁/bookwall 装画/煙楽

七尾与史

●ななお・よし 1969年静岡県生まれ。地元・浜松で歯科医院を営む傍ら執筆した『死亡フラグが立ちました!』が第8回「このミステリーがすごい!」大賞の最終選考に残り、2010年に〝隠し玉〟として同作でデビュー。ドラマ化した『ドS刑事』シリーズや『山手線探偵』シリーズ、『バリ3探偵 圏内ちゃん』シリーズなど、数々の人気シリーズを持つ。5年前に歯科医を辞めて上京し、専業に。最近YouTubeも始め、映画愛、ゲーム愛を存分に発揮中。172㌢、68㌔、A型。

一定数いる怖いヤツや愚か者が、歴史や小説や映画を面白くしてきたのも事実

〈仏〉と書いて、フツ―。
 ルワンダ大虐殺(94年)の背景ともなった元宗主国の選別政策や、フツ族とツチ族の対立の歴史をハンドルネームに刻む神出鬼没の男、〈安倍川正樹〉が、瀕死の状態で病院から姿を消した前作『偶然屋』から早5年。
 七尾与史著『偶然屋2』では、人心を巧妙に操り、凶行に走らせるこの悪魔と、偶然を操る〈オフィス油炭〉の因縁もいよいよ決着かと思いきや、まずは前作同様、〈キタァァァァァァァー!〉というパチンコ店での雄叫びから、物語はごくごく軽めな幕を開ける。
 早大卒業後、司法試験や就活に失敗し、電柱の張り紙にたまたま釣られて入社した〈水氷里美〉の肩書はアクシデント、、、、、、ディレクター。確率好きなイケメン社長〈油炭寿文〉や、驚異の戦闘能力を持つツインテールの名門女子中学生〈雨宮クロエ〉共々、偶然を人為的に実現、、、、、、、、、演出、、するのが、彼女のお仕事だ。
 が、一見お気楽に見えて〈人間の闇に立ち入ってしまう〉のが偶然屋でもあり、「僕はデビュー作からそう。深刻でえげつないことをあえて軽く茶化したりする不謹慎テイストが、一種の持ち味なんです」

 著者にとって映画は発想の宝庫。本書は副題の通りオフィス油炭の有能すぎるアルバイト、クロエの強さの秘密を解くべく書かれ、その命名自体、映画『キック・アス』の女優に因む。
「名前からして、バレバレのパロディですね。元々偶然屋という設定も、小さな蝶の羽ばたきが回り回って嵐を呼ぶバタフライエフェクトや、風が吹けば桶屋的発想と近いものがあるし、結構僕は同じネタを使い回すんですよ。面白いものは何度やっても面白いので。
 例えば1章に使った〈23エニグマ〉も、世界は23に支配されていると思い込む映画『ナンバー23』のジム・キャリーがとにかく怖くて面白くて、『妄想刑事エニグマの執着』も書いたのに、また書くのかと(笑い)。
 それも含めて一種のセルフパロディといいますか、それこそ推理小説の伏線がなぜ回収されなくちゃいけないか、、、、、、、、、、、、、、、といえば、僕は快感のためだと思うんです。一見無関係な要素と要素がふとした瞬間に繋がったり、無意味だったものに意味が宿ると、読者は『あっ』と驚きや発見や快感を覚える。もしくは『あ、これ何かで読んだ』とか、僕はありとあらゆる発見や『あっ』が、『面白い』だと思うので」
 舞台は錦糸町。オフィスを前作で爆破され、近所に越しはしたものの、薄給を補うためパチンコ屋に入り浸る里美が運だけは強く、また仏が悪事の痕跡を一切残さない点も、前作同様だ。
 最初の依頼は〈出会いの演出〉。実は偶然屋の存在は都市伝説化しているわりに、ショボい案件も少なくない。
 某大企業に勤務する依頼人〈二川三郎〉、32歳独身は、銀座で財布を落とした際、それをわざわざ追いかけて渡してくれた同い年の女性〈参宮弐子〉に一目惚れ。実は彼は彼女の個人情報をストーカー同然に得ており、人気アニメ映画〈『君のナワ』〉の特に主人公〈橘タキ〉の大ファンだという彼女と、そうまでして結ばれたいらしい。
 出会い方も映画に因み、今やファンの聖地と化した〈双三神社〉の階段で2人がすれ違うシーンを再現。そこまですれば髪や服装をタキに似せた自分に彼女は必ず恋するはずだという。
 それには来る2月3日、必ず弐子が双三神社に赴き、必ずその階段を降りるよう誘導する必要があり、〈重要なのはそれらの展開がすべて彼女の意思によること〉。まさに偶然屋の真骨頂だが、数字にやけに拘り、〈人間は無意識のうちに数字の法則に支配されているんです〉と言い切る二川に違和感を覚える里美たちではあった。

標的を陥れやすい疑心暗鬼な社会

「今のワクチン絡みの都市伝説や、陰謀論もそうです。円周率に歴史の真実がとか、冗談みたいなことを本気で信じ込む人は昔からいる。かと思うと、そのバカバカしさを為政者が逆手に取り、支配と搾取の網にいつのまにか人々が搦め捕られたりもするんだろうなあと。
 その怖さと面白さを両方描くのがこのシリーズで、誰々が毎日通る道にビー玉を置けばいつかは転ぶとか、いわゆるプロバビリティー犯罪や未必の故意に近いことを、油炭たちは理詰めで企てて実現する。仏もたぶんそう。ただしそれが行き過ぎればジェノサイドのような悲劇すら生みかねず、一見バカバカしいことを大真面目にやる人間がいかに怖いかを、あくまでも僕はエンタメとして描きたかったんです」
 そうした日常の事件簿と並走するのが、〈エマ〉という少女の告白だ。赴任先の南米で商社勤務の父と母を殺され、〈ディアブロ〉という男の組織に誘拐された当時10歳の彼女は、組織のアジトで同い年のツインテールの少女と出会う。
 が、シカリオ殺し屋として訓練され、殺さなければ殺される日々の中、別れは訪れ、その過酷すぎる残像を引きずったまま、物語は後半へ。11年7月、北欧・ノルウェーで69名もの若者が犠牲となったウトヤ島銃乱射事件を彷彿とさせる悲劇の渦中に、里美たちもまた呑み込まれていくのだ。
 発端は仏の教育実習仲間が相次いでテロを企てたこと。実習先だった〈慶特中学〉では、かつて成績による過度の分断が殺傷事件まで生み、犯人は仏が担当したクラスの元生徒だった。
 その時の実習仲間のひとり〈砂見〉が優秀な若者を離島に集め、淘汰と峻別を図る国家事業の関係者だと知った里美は、参加者に選ばれたクロエとキャンプに潜入。島を地獄絵図へと陥れる事件が起きるのだが、そこにも仏の影が見え隠れして―。
「大量殺人や大虐殺のメカニズム、、、、、を、より身近な職場なり学校に持ち込んだのが仏で、その手の資質を持つ人って結構いるもんなんです。誰々が悪口言ってたよとか、一言囁いて空気を操れるヤツが。
 特に最近は普段怒らない人が怒ったり、社会全体が疑心暗鬼になりつつあるし、裏を返せば陥れたい標的を陥れやすい状況ともいえる。本当に怖い時代ですけど、怖いヤツも愚か者も一定数いた方が物書きには助かるというか、そういう存在が歴史や小説や映画を面白くしてきたのも事実なので」
 陰謀論に走る人間心理も、隙につけ入る悪意の存在も、小説に書くことで日常化し、意識化し、エンタメ化する。そんな極めて今日的な試みは、仏と油炭の直接対決を描く第3弾へと続く予定だ。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2021年8.27/9.3号より)

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