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【著者インタビュー】真保裕一『シークレット・エクスプレス』/貨物輸送のプロに下されたある密命とは? 息を呑む鉄道ノンストップサスペンス!

既存ダイヤの網の目を縫うようにして運行する、一見地味なJR貨物にスポットを当てて書かれた小説。敵味方が局面次第で逆転し、その敵にも各々プロ意識があったりと、一面的な善悪では語れない、タイムリミットサスペンスです。

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

東青森発の臨時貨物列車 コンテナの中身は一体何なのか? 秘密の輸送計画がスタートする一気読み必至の鉄道サスペンス!

『シークレット・エクスプレス』

毎日新聞出版 1870円
装丁/岡 孝治

真保裕一

●しんぽ・ゆういち 1961年東京生まれ。アニメディレクターを経て、91年『連鎖』で第37回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。96年『ホワイトアウト』で吉川英治文学新人賞、97年『奪取』で山本周五郎賞と日本推理作家協会賞、06年『灰色の北壁』で新田次郎文学賞。その他『栄光なき凱旋』『覇王の番人』等作風は幅広く、映像化作品も多数。また映画『ドラえもん のび太の新魔界大冒険』や『鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星』等の脚本も。167㌢、64㌔、O型。

我々の日常が何によって支えられているか知ることからしか議論も何も始まらない

 主人公は半年前に現場を離れ、現在は本社戦略推進室に籍を置く、JR貨物の元名物運転士〈井澄充宏〉。
 真保裕一氏の新刊『シークレット・エクスプレス』は、彼ら貨物輸送のプロに下されたある密命と、その裏に蠢く様々な思惑を描くノンストップサスペンス。ある時、〈急な九千の相談がきた〉と呼び出しを受けた彼は、それが年に数回ある特別な筋からの臨時列車の運行要請だと確信するが、事は輪をかけて複雑だった。依頼主は自衛隊、積み荷は特別な燃料、、、、、とだけ明かされ、〈実は政府肝煎りの緊急テストケースなのです〉と、同席した航空幕僚監部でも防衛装備庁の役人でもなく、なぜか三峯グループ傘下の運送会社社員〈城山健吾〉が言う。そして東青森駅で50㌧コンテナ・18個を積み、佐賀・鍋島駅に送り届ける臨時列車9999、通称・フォーナインに彼自身乗り込むのだが、その行く手を何者かが阻もうとしていた。

「着想自体は古く、25年前。ずっと書けずにいた構想が書けたのは、東日本大震災が大きかったと思います。
 作中にも書きましたけど、東北全域で車道が寸断され、物資の供給が断たれた時に、JR貨物が1日2便、上越線から日本海側を経由して、石油を被災地に輸送したことがあった。それを聞いて私がまず連想したのが映画『恐怖の報酬』で、あれは南米の油田で爆発が起き、消火用のニトロを賞金目当ての流れ者が運ぶんですけど、石油やニトロよりもっと危険なものを運ぶとしたら? と思ったのが1つ。さらにここ数年、いろんな企業で検査データの改竄が発覚し、しかもその素材がそのまま出荷されたりとか、現実のいろんな要素がミックスされていきました」
 鉄道、それも貨物と謎の掛け合わせに本作の真価はあろう。そもそもJR各社の線路を借り、既存ダイヤの隙間を縫って編成・運行するJR貨物の存在自体、一見地味だけに発見も多い一大インフラ。駅や路線も旅客用とは少しずつズレ、普段目に入らない別世界が同じ日本に存在することに、鉄道マニアならずともワクワクせずにはいられない。
「かの西村京太郎先生でも、JR貨物は書いていないというのが売りなので(笑い)。
 取材も本当に楽しくて、大井の東京貨物ターミナル駅では運転士や教官の方によくぞってくらい話を聞かせて頂いたし、武蔵野線が元々は貨物専用に敷設され、その名残みたいな時刻表にないルートが今でも地下を走っていたりとか、初めて知る話もかなり多かった。
 要するに僕はプロフェッショナルが好きなんですよ。日本の鉄道マンってホント凄いですから。特に貨物はダイヤの網の目を縫うようにして日常的に物を運び、なのにその凄さがほとんど知られていない。そしてこの知る、、ってことが、本作の裏テーマではありました」
 実は本作の視点は3点あり、1つは同乗した城山や警察庁警備課の〈森安〉の監視の下、理不尽な任務にそれでも全力を傾ける井澄。今1つは中北村の石油備蓄センター前で謎の交通規制との一報を受け、後輩記者〈木月〉と急行した東日本新聞青森支局記者〈都倉佐貴子〉の視点だ。中北にはエネルギー関係の一大施設があり、確かに巨大コンテナが続々と列を成すなど、きな臭いことこの上ない。
 そして東青森を土曜早朝に出て翌日昼に着くルートを見出し、計12人の運転士の手配に奔走する井澄にも中身は知らされないまま列車は出発。そこに震災に人生を奪われた福島の元主婦〈河本尚美〉の視点が合流し、3つが縒り合う交点に像を結んでいくのだ。
 運ぶ中身が液体か固体か、〈揺れ戻し〉の感触でほぼわかるという運転士たち。
 対して保身や事実の隠蔽に忙しい各業界の上層部や、この国の未来を本気で憂うあまり暴走する人々など、立場が違えば正しさも違うことの象徴のような物語だ。

正論から暴挙に出る勢力もある

「むろん彼らの活躍をハラハラしながら見守り、楽しんでもらうのが一番ですよ。なんだけど、例えば電気や物流一つとっても、我々の生活が何によって支えられ、原発でいえば燃料の輸送や廃炉にいくらかかるかも、メディアが広告出稿に縛られて何も言えない状況では、みんなが知らされていない。だから何も知らない国民に何としても知らせなきゃと、正論から暴挙に出る勢力も出てくるわけで、結局知ることからしか、議論も何も始まらないと思うんですね。
 そうやって少しずつでも知識を広げ、方策を考えるきっかけになれば嬉しいし、知らなかったことを知り、新しい感情と出会うことで、読者も感情的に盛り上がるだろうと。つまり知る、、は、オモテナシでもあります」
 そう。本作の場合、正論はむしろ妨害する側にあり、敵味方が局面次第で逆転し、その敵にも各々プロ意識があったりと、一面的な善悪では到底語れないタイムリミットサスペンスなのだ。
「あんまり話すとネタバレになっちゃうけど、これは彼らが各々のミッションをクリアするまでの物語で、あとは現実と比較するなりして、我々は我々の日常を一所懸命に生きるしかない。何かしらモヤモヤが残るとしたら、それは現実にどうにかすべき問題、、、、、、、、、、、、なんです。
 むろん政府は我々国民の意見なんか聞きやしない。ただその政府を選んだのも我々で、その中で何をどうすれば少しはよくなるのか、考え続けるしかないのは、登場人物も同じなんです」
 まっすぐに伸びた鉄路を前へ前へとひた走るだけでスリリングな鉄道は、まさに物語を生む格好の装置。そのちょっぴり苦い後味は、私たちの日常に託された。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2021年9.10号より)

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