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【著者インタビュー】降田天『朝と夕の犯罪』/女性ふたり組作家ユニットによる日本推理作家協会賞受賞作シリーズ初長編!

プロット担当の萩野瑛氏と、執筆担当の鮎川颯氏による、「2人で1人のミステリー作家ユニット」、降田天。注目の最新作は、2018年の日本推理作家協会賞受賞作を収めた短編集『偽りの春』に続く、神倉駅前交番シリーズ初の長編です!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

推理作家協会賞受賞作に連なるシリーズ初長編 女性ふたり組の作家による一気読み必至の倒叙ミステリ

朝と夕の犯罪

KADOKAWA 
1870円
装丁/大原由衣  装画/agoera

降田天

●ふるた・てん 萩野瑛(はぎの・えい1981年茨城県生まれ 左)と鮎川颯(あゆかわ・そう82年香川県生まれ 右)によるユニット。共に早稲田大学第一文学部卒。2007年に鮎川はぎの名義の『横柄巫女と宰相陛下』で小学館ライトノベル大賞期待賞を受賞しデビュー。14年『女王はかえらない』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、以降は降田天として活動している。18年「偽りの春」で日本推理作家協会賞短編部門受賞。萩野氏=158.5㌢、B型。鮎川氏=168.5㌢、A型。

子供の貧困や虐待などは簡単には答えが出ない問題だけに小説に書いてみたかった

 「元々お話は作りたいけど特に書きたくはなかった」プロット担当の萩野瑛氏と、「物語を書きたいのに作れなかった」鮎川颯氏による、「2人で1人のミステリー作家ユニット」、降田天。
 注目の最新作『朝と夕の犯罪』は、18年の日本推理作家協会賞受賞作を収めた短編集『偽りの春』に続く神倉駅前交番シリーズ初の長編。が、わけあって県下の小京都で交番勤務に励む〈狩野雷太〉が、鬼気迫る名推理を発揮するのは後半、第二部に入ってから。その前段となる第一部には〈アサヒとユウヒ〉という数奇な縁で結ばれた兄弟、、の過去や再会、彼らが企てた〈狂言誘拐〉の顛末までが綴られ、手に汗握る展開に心躍るが、問題はその後だ。
 いったん幕が下りたかに見えたその犯罪には続き、、があり、人間の宿業や社会の歪みを背負わされた小さき者たちの悲劇は、終わってなどいなかったのである。

 22年前に大学のサークルで出会い、09年に鮎川はぎの名義でデビューした前後に同居生活を開始。各登場人物の性格まで書きこんだ萩野氏のプロットを「共同の食事スペース」で再度練り、鮎川氏がそれを小説化した後も2人で推敲を重ねる創作形態を、続けてきた。
萩野「本作でいえばまず、狩野雷太物で長編をという、このシリーズの前担当編集者のリクエストと、前に一度書いてボツにした、兄弟による犯罪の物語の設定を『やっぱり使いたいね』と鮎川と話したこと。そして『次は誘拐でいきましょう』って、あれもその編集者のリクエストです」
鮎川「2人で1人と言えば『99%の誘拐』の岡嶋二人さんですし、『私たちも誘拐、いつかやらなきゃ』って」
萩野「でも難しいんですよ、誘拐って。考えるのも書くのも。ただでさえ当時は警察捜査にも詳しくなく、あえて狩野をコロンボとか古畑みたいに王道を外れ、人をやたらイライラさせる、変わった警官キャラに設定したくらいだったから。
 その点、狂言なら多少はハードルも下がりますし、あくまで主眼は彼らがなぜその犯罪を企てたか、、、、、、、、、、、、、、という動機や背景にあったので」
〈黄色は「進め」だ〉〈それが〝お父さん〟から初めて教わったことだった〉〈赤は止まれ。青は進め。黄色は全速力で突っ込め!〉
 某私大の政経学部に通う小塚旭こづかあさひが、横断歩道の向こうの青年に気を取られ、危うく轢かれかけた時も、信号は黄色だったのだろう。弟正近雄飛まさちかゆうひとの偶然すぎる再会劇、、、、、、、、を、彼は心から喜んでしまったのだから。
 弟と言っても血の繋がりはない。彼らはお父さん、、、、と車上に暮らし、賽銭泥棒をしていた頃、〈正近卓爾〉という父の本名も、ユウヒが借金相手のヤクザの息子で、互いに他人なことも知らなかった。事情を知ったのは日本列島を一家で縦断中、卓爾が急死し、神倉市内の銭湯に置き去りになりかけたところを保護された後で、アサヒは歯科医と再婚した実母に引き取られて小塚旭に。一方係累がなく、市内の児童養護施設〈ハレ〉で育ったユウヒは、幸い心ある職員の里子となった後も正近姓をあえて名乗った。
 そして8年後。大学にも家にも馴染めずにいた旭は、雄飛と会うなり急接近し、こう持ちかけられるのだ。
〈知り合いに金持ちの娘がいるんだ〉〈協力してよ〉

それぞれ共感する登場人物は違う

 こうして東日本大震災で損傷したハレの再建資金が必要な雄飛と、娘の不登校より体面が大事な次期市長候補を父に持つ15歳の〈松葉美織〉。そして〈砂糖がだめになった理由、ばらしちゃってもいい?〉とある過去の秘密を元に脅された旭は、市長選に乗じて1000万円を奪うその計画を実行に移すのだった。
 車中泊を常とし、タダでもらえる〈スティックシュガー〉のストックで空腹を凌いだ少年時代の旭たちや、第二部で幼い妹が衰弱死するのをなす術もなく見守るしかなかった〈夕夜〉など、特に子供たちを襲う貧困や虐待に関する問題意識を、降田作品は感じさせる。
鮎川「是枝裕和監督『誰も知らない』(04年)を観て以来、考えるようになり、似たような事件が起きる度に注目してきました」
萩野「要するに後ろめたさがあるんです。もし身近でこういう問題が起きた時に、自分は結局、見過ごしてしまうんじゃないかっていう。
 隣で子供が酷く泣いたりした時に、事件性があるかわからないという言い方、、、、、、、、、、、で、自分を納得させてみたり。作中に『こんな母親、許せないよね』って批判だけする部外者が出てきますけど、私自身の立ち位置もそれに一番近いというか」
鮎川「私もつい思っちゃうんです、『こんな人間が親になってもいいのか』って。
 でも本当にそうなのか、簡単には答えが出ない問題だけに、小説に書いてみたかったのかもしれません」
萩野「虐待の連鎖過程ではその子だけが可哀想ということは実はなく、親たちも含めた全員が広義の被害者なのかもしれない、とかね」
鮎川「共感する登場人物も結構違うよね?」
萩野「彼女が『最低だ』と言う人を『彼も大変なんだよ』と私が庇ったり、その逆だったり。生きづらさと一口に言っても、解像度は人それぞれですから」
鮎川「でも最近、言われたよね。『2人とも性格は明るいけど、芯が暗い』って」
萩野「ハハ、言えてる(笑)」
 実は「名探偵とは相性が悪いかもしれない」というほど重い題材を震災の前後20年に亘る物語に昇華させ、読者が立つ「今、ここ」をも照射する手腕はさすが。降田天とは、後ろめたさに蓋をするより、書くこと、、、、を選ぶ、2人で1人なのだ。

●構成/橋本紀子
●撮影/朝岡吾郎

(週刊ポスト 2021年10.15/22号より)

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