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【著者インタビュー】平山夢明『八月のくず』平山夢明短編集/人間の狂気や愚かさに肉薄し、ホラーにすら人情味を宿す

妊娠して邪魔になった女を山中に連れ出し、道にこびりつくまで轢殺した男が遭遇するある恐怖の体験や、場末の格闘家が死ぬまで殴り合う話など、美とグロが融け合う独特の世界観が魅力の計10篇を集めた短編集。心と時間に余裕をもって読みたい1冊です。

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

この読後感は唯一無二! 物語の強度を極限まで上げた圧巻の傑作短編集!!

八月のくず 平山夢明短編集

光文社 
1760円
装丁/坂野公一(welle design) 装画/Adobe Stock

平山夢明

●ひらやま・ゆめあき 1961年神奈川県生まれ。法政大学在学中からホラー映画の自主制作を手がけ、93年より実話怪談『「超」怖い話』シリーズへの参加やノンフィクション作品『異常快楽殺人』の執筆など幅広く活動。06年「独白するユニバーサル横メルカトル」で日本推理作家協会賞短編部門、10年『ダイナー』で日本冒険小説協会大賞と大藪春彦賞。著書に『他人事』『或るろくでなしの死』『暗くて静かでロックな娘』『ヤギより上、猿より下』等。178㌢、76㌔、B型。

外に出られる頭とボディとハートを持つ若い世代を育てていくのが小説の役割

 できれば1作ずつ、心と時間の余裕をもって読みたい、贅沢で手強い物語集だ。
「こないだも俺の本を1冊読むのに4年かかったっていう人がいたけど、本って安いもんじゃないからさ。読んでもらったのに、何も残らない方がかえって申し訳ないし、例えば天丼とカツ丼とハンバーグって一度に食わないじゃない(笑)」
 それほど1篇1篇の精度が高く、満腹度も高い本書『八月のくず』は、初出年次も媒体も幅広い計10篇を集めた最新短編集だ。
 妊娠して邪魔になった女を山中に連れ出し、道にこびりつくまで轢殺した男が遭遇するある恐怖の体験(表題作)や、〈天才脚本家・笠原和夫に捧ぐ〉と献辞のある『仁義なき戦い』へのオマージュ作品「幻画の女」等、美とグロとが融け合い、独特のユーモアすら醸すあたりは、まさに平山夢明ワールド。
 が、特に発表年次の近い作品ほど著者自身の嘆息や、そこから一歩でも踏み出そうとする意志のようなものが宿り、令和3年秋のこのコロナ下に本書が編まれた意味すら感じさせるのだ。

「このあいださぁ、コロンじゃってさ。病院はどこも満杯で薬一つくれないし、ようやく1軒紹介されたのが皮膚科でね。『人には自然治癒力というものがある。自分を信じて安静にね』って、ホントに何もしないで放り出されたのよ。酷い話だと思わない?(笑)
 でも幸い重症化はしなくて済んだし、『実はコロナに罹患しまして』なんて言うと重いじゃない? そこは『実はコロンじゃってね』くらいが丁度いいんです」
 何が丁度いいかと言えば、「照れ」具合だ。そもそも「作家各々の含羞が現実や今との切り結び方に出る」と氏は言い、人間の狂気や愚かさに肉薄しながらホラーにすら人情味を宿すのが、人気の一因といっていい。
「ほら、昔よく教室に絵や習字が貼り出されたでしょ。『早春』とか『希望』とか。そうすると俺は何かせずにはいられなくて、母の日の絵には必ず鼻毛を書くとかね。あ、自分のじゃなくて友達の絵にだけど(笑)。
 要するに照れ臭いんです。イイ話をイイ話のまま書いたりするのは。ただ最近はちょっと考え方が変わって、東日本大震災の前は自分の欲求を昇華させたいだけだったのが、今は自分の本を読んだ人の変化や影響まで考えるようにはなりました」
 なかでも注目は昨年11月初出の『いつか聴こえなくなる唄』だろう。
 主人公は〈ノックス〉という、動きは〈図鑑で見た地球ホームにかつて居たゴリラというのにそっくり〉だが、体は3倍大きく体毛がない家畜の管理を任された親子Оオールド・ドク〉ベイビー・ドク〉。ここ〈惑星コス〉に農地や希少金属の鉱山を所有する農園主フアザーの下でノックスたちを農作業や採掘に従事させる仕事は楽ではないが、父は息子に事あれば言った。〈俺たち人間は全て、此の地球ホームからやってきた〉〈地球人だけが、この広大な宇宙を征した種族なんだ。だからおまえも貧しくても誇りと自信を失ってはだめだ〉

大事なことほど物語に格納する

 人間がノックスを酷使し、その人間もまた農園主らに酷使される中、B・ドクは父の言葉を胸に刻む一方、森を散歩中、沼に呑まれた子ノックスを救出し、以来、そのノイズが聞こえるようになるのだ。〈紛れもない彼らのサウンドだった〉〈やっぱり唄だったんだ……〉
 そして彼らの能力に驚き、その時助けた〈アノア〉や父親の〈モル〉と信頼関係を築いた彼は、ノックス=〈凶暴で知恵も何もない〉と決めつける農園主たちに疑問を抱き、О・ドク共々、その一方的な搾取の構造に闘いを挑むのだが―。
「今時は読書も早漏感覚というか、5分でイケますとか10分で泣けますとか、おみくじみたいな小説ばっかりじゃない? ただでさえ世の中どんどん生きづらくなってるのに、困るよねえ。
 もちろんシステムを劇的に変えるのは難しい。でも今の流れは間違ってるってことを提示し、かつ安全に届けるには、小説が一番なんですよ。実は今みたいにみんなが閉塞感を抱えてる時に、一番怖いのは簡潔・簡単なことを言って近づいてくるヤツで、もし反対に難しいことを長々と丁寧に話す政治家がいたら、俺は断然そっちを信用するな。
 そして口先だけの連中に流されないためにも、俺ら物書きが本当にダメなものとダメじゃないものの別を明示し、特に若い世代には丁寧に教えないとダメだと思うんです。仮にその球が外れても小説に書くだけなら被害も少ないし、他国と融合せずにきた分、先鋭化しがちな自分たちの歪みを、日本人は俺も含めてわかんない部分があるじゃない。
 それでも今までは内需で食えたけど、今後はそうもいかないからさ。外に出られる頭とボディとハートを持った人間を育てていくのも、小説の役割かなって」
 それもこれも小説が感情と思想を伝えうる媒体だからこそだと言う。
「しかも人っていいものと悪いものを提示されたら、基本はいいものに反応するようにできてるんです。ただし『♪命は大事』 とか『♪平等~』とか、耳障りのいいお題目を幾ら歌ってもダメで、大事なことほど物語の中に格納、、しないと。
 例えばドクたちの状況を米南部のプランテーション時代に重ねる世代もいれば、こういうの嫌だなあ、支配構造と闘うドクたちの方が断然カッコいいなあって、歴史も技能実習制度も関係なく直観する世代もいると思う。そして少しでもいい方向に針が傾けば、あとは小説が持つ教育機能が働いて、よし、俺らもってことになるかもしれないし」
 もちろん本書は、場末の格闘家が死ぬまで殴り合う「ふじみのちょんぼ」や、食を巡る暴走が恐い「箸魔」など、血生臭い描写にも事欠かない。だんだんそれに慣れていく自分が怖いような気もするのだが。
「いいのよ、慣れて。今の国会なんて魔の巣窟だしさ、これくらい読めなきゃ今の世の中、生きていけないよ。
 それでも今回は『意外にマイルド』と言う人もいて、要するにいろんなメニューがある街の中華屋だよね。一番高くてもカニ玉みたいな。しんどい時や腹ペコな時に、誰かが読みに来てくれたらいいのかなって」
 究極の目標は「野良でも平気な人間を増やすこと」。一見ろくでもない人たちのここぞという美点や間違いのなさを描き、偽善者には一転手厳しい平山作品は、それこそ帯にもあるように、どんなにハズレな人生でもおしまいにする前に読みたい、〈明日なき世界の福音〉なのだ。

●構成/橋本紀子
●撮影/朝岡吾郎

(週刊ポスト 2021年10.29号より)

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