ノア・ストリッカー著・鳥の行動学と人間の関連性を読み解く『鳥の不思議な生活』
鳥類観察のため南極から熱帯雨林へと旅する著者が、鳥の不思議な生活と能力についての研究成果を、自らの観察を交えて描きます。
【サライブックレビュー 読む】
極地で観察した鳥の行動学と人間を結びつけて考察─
鳥の不思議な生活
ノア・ストリッカー著
片岡夏実訳
築地書館(☎03・3542・3731)
2400円
著者は、まだ20代の若きアメリカ人鳥類学者。極寒の南極やオーストラリアの原野など過酷な辺境の地へと赴き、鳥を観察し続ける。本書はその野外調査の成果だ。
ハチドリは、世界最小の鳥である。とりわけキューバに棲むマメハチドリの体重は何と1・8gしかない。あまりに小さく、捕食者に狙われる危険すらない。米国防総省が研究開発した「ナノ・ドローン」は、実はそのハチドリの敏捷性にヒントを得たものだった。
ニワシドリの雄は木の実や葉、瓶の蓋やボールペンなどあらゆるものを用い、色彩豊かで個性的な構造物をこしらえる。それは雌への求愛活動のためであり、巣とは別のものだ。それを人間に喩えれば、創造性や財産を持つ男性は女性を惹きつけやすいといえる。芸術は原始的な求愛活動のひとつであり、富の一形態なのだ。
利他的行為とは何か。芸術や愛とは何か。本書の特徴は鳥の動物行動学に、人間との共通項を探る点だ。時にユーモア、時に詩的表現を交えた文章も冴える。
(取材・文/鳥海美奈子)
(サライ2016年5月号より)

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