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【著者インタビュー】畠山理仁『コロナ時代の選挙漫遊記』/今の政治を変えうるのは批判より愛情だ

開高健ノンフィクション賞受賞作家が、各地の計15選挙に臨場し、現場の空気感までも具にリポート。衆議院議員総選挙も記憶にまだ新しい今こそ読みたい、選挙エッセイです。

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

衆議院議員総選挙真っ只中のいまだからこそ読みたい楽しくてタメになる開高健賞作家による選挙エッセイ

コロナ時代の選挙漫遊記

集英社 
1760円
装丁/國吉 卓 装画/和田ラヂヲ

畠山理仁

●はたけやま・みちよし 1973年愛知県生まれ。早稲田大学第一文学部在学中から執筆活動を開始。日本、アメリカ、ロシア、台湾等、世界各地の選挙現場を20年以上取材し、2017年に『黙殺 報じられない"無頼系独立候補"たちの戦い』で第15回開高健ノンフィクション賞。著書は他に『記者会見ゲリラ戦記』『領土問題、私はこう考える』等。176㌢、体重は「選挙前は70㌔くらい。選挙期間中はろくに食べられないし眠れないんで、軽く10㌔は減ります」。O型。

選挙はよりよい政治や社会のあくまで過程 単に誰が勝ったかで終わらせてはいけない

 泡沫候補の呼称にあえて異議を唱えて〈無頼系独立候補〉と呼び、可能な限り全候補者、、、、で会うことを信条とする、畠山理仁氏。
 その成果の1つが開高健賞受賞作『黙殺』(17年)だろうが、昨年以降はコロナが蔓延。選挙取材も大きく制限されることとなった。
 そうした逆境にもめげないのが本書、『コロナ時代の選挙漫遊記』である。昨年3月の熊本知事選や7月の東京都知事選。大阪都構想を巡る11月の住民投票から、最直近は今年8月の横浜市長選まで、畠山氏は各地の計15選挙に臨場し、現場の空気感までもつぶさにリポート。あいにくコロナ下とあって漫遊とはいかなかったが、それはそれでGoToに乗じて宿代を節約するなど、旅は知恵と心意気次第だ。
〈選挙は返品不可能な高額商品を見定める機会〉だと畠山氏は書く。だからこそ現物、、で確かめることが、コロナ下でも大事なのだと。

 選挙との出会いは『週刊プレイボーイ』の記者時代。
「当時僕はニュース担当で、毎週企画会議の前に焦って読む新聞に必ず選挙結果が載っていることに気づいたんですね。中でも気になった中松義郎さんを取材したのが最初。その後、大川興業の大川豊総裁のお供で、各地の選挙現場を見に行くようになりました。つまり全候補を見たいと最初に言ったのは総裁なんです。
 実際に会うと候補者の皆さんの熱量は圧倒的でしたね。一定の支持を集めなければ没収される高い供託金など、障壁や負担も大きいだけに、熱い思いを抱えている。中には『これはいいな』と思う政策もあって、その提案者が毎回イロモノ扱いされて終わりじゃ勿体ない。いい政策は誰が使っても社会のためになる。当選者はパクればいいし、社会全体で共有すればいい。政策的な進化、、、、、、を図る機会として、選挙をもっと利用すればいいと思うんです」
 冒頭の熊本知事選挙は〈選挙は不要不急の外出には当たらない〉との方針を初めて世に知らしめ、〈選挙期間中も公務に専念〉を宣言した現職が選挙延期を申し出た元市長を圧倒して決着。以来演説会も握手も避けるが選挙は決行というのが、新しい常識となった。
 時に有力候補から嫌われ、予定を隠される度に「意地でも突き止めるノウハウを磨いた」著者としても戦略変更は必須。オリジナルの〈街宣スタンプ帳〉を作り、「全員+生」をなおも貫く取材姿勢には、頭が下がる。
「でもまあ基本的に好きでやってることなんで(笑)。
 例えば〈選挙運動ゼロ〉の現職勝利に終わった熊本知事選が無駄な選挙だったかというと、絶対に違うと僕は思う。数百票の得票で終わる無頼系候補もそうですが、彼ら対立候補が出て初めて選挙は成立し、玉石含めた多くの政策が示されます。熊本では、ある県政の課題を元市長が争点に掲げたから現職も対策に動いた。単に誰が勝ったかで選挙を終わらせてはいけない。
 候補者と有権者が選挙を通じて成長した先によりよい政治や社会はあるはずです。選挙を過程、、と捉え、無駄にするもしないも、僕ら有権者次第だと思います」

最初はイロモノ扱いでも金の卵

 候補者も政策も決して今が完成形ではなく、誰か魅力ある人物に各々が思う政策を足したり引いたりし、有権者も一緒に育っていくことは十分可能だという。
「特に日本は双方向のコミュニケーションが圧倒的に足りていないんです。
 基本的に面白いんですよ、選挙に出る人って。だからいろんな選挙事務所を気軽に訪ねてみてほしい。直接会う情報量って物凄いから、マスク姿を遠目に見るだけでも勘が働きます。そしてこれはいい、と思う人にはどんどん関わってほしい」
 著者が感染対策上の変化以上に危惧するのが、投票率の恒常的な低下傾向だ。
「例えば投票を義務化したオーストラリアでは、棄権した場合の罰金は約2000円です。それで投票率は90%以上。日本も選挙に行けば1万円もらえるなどの工夫をしないと、投票率向上は無理かもしれません。難しく語られがちな選挙や政治をもっと気軽に語れるものにすることも大事です。家族や友人と連れだって選挙に行くなど、日頃から選挙に親しんでほしい。だからお気楽な“漫遊記”にしたんです。実際はコロナで美食にも温泉にもありつけず、なかなか漫遊できていないんですけどね(笑)。
 僕は選挙が観光資源にもなると思っています。選挙ツーリズムを広めたい。なぜなら、よその選挙の方が冷静に観察できるからです。その経験値が地元の選挙に生きればいいし、選挙漫遊は純粋に楽しいんです」
 本書で特に印象深かったのが、今年の戸田市議選でついに当選を果たしたスーパークレイジー君こと西本誠氏の進化。これまで私たちは彼ほど真剣に社会のことを考えてきただろうか。
「基本的に選挙に出る人は金の卵なんですよ。最初は単なるイロモノ扱いでも、有権者の目に触れ、叱咤激励されるうちに、本来の仕事や政策に集中できるようになる。岸田首相だってこれから国民の声を聞いて、よりよい政治家になる可能性はあるし、政治家は全員死ぬまでそう。昔、もし書けるなら『日本列島全員立候補』という小説を書きたいと思っていた僕は、彼らに対して、自分たちの代わりにありがとう、という感謝しかありません」
 今の政治を変えうるのは批判より愛情だと畠山氏は言う。お互いに刀を持って斬り結べばこちらも無傷とはいかない。相手の懐まで接近し、かつ安全でいられる方法が、「愛情をもって近づく」ことなのだと。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2021年11.5号より)

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