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【著者インタビュー】山村美智『7秒間のハグ』/元祖ひょうきんアナが向き合った心身の空白

「オレたちひょうきん族」の元祖ひょうきんアナとして知られ、現在は女優として活躍する著者が、フジテレビの名物プロデューサーであった亡き夫との絆を綴ったエッセイ。「大切な人との時間は1分1秒も軽んじてはいけない」との言葉に強い説得力があります。

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

36年半を共に生きた最愛の人との出会いと別れ様々なエピソードを交え亡き夫と歩んだ日々を綴るエッセイ

7秒間のハグ

幻冬舎
1430円
装丁/アルビレオ 装画/磯﨑菜那

山村美智

●やまむら・みち 1956年三重県生まれ。津田塾大学学芸学部英文学科在学中に東京キッドブラザースの東由多加代表にスカウトされ入団。卒業後はフジテレビに入社し、「オレたちひょうきん族」等で活躍。84年に宅間秋史氏と結婚し、翌年退社。以来女優業等で幅広く活動し、02年に自ら脚本・主演・演出を務めた2人芝居「私とわたしとあなたと私」を発表。NY滞在中の07年には同作の英語版をオフ・ブロードウェイで上演した。166㌢、B型。

一心同体の危うさもわかるけど、夫婦には運命共同体にならざるを得ない局面がある

「私も闘病記の類を読むのは苦手だし書こうとも思わなかった。この本は『こんな夫婦もいるんだな』という面白い読み物として楽しんで下されば嬉しいです」
 元祖ひょうきんアナとして知られ、現在は女優としても活躍する山村美智氏。昨年12月、彼女は元フジテレビの名物プロデューサー、宅間秋史氏を1年半にわたる闘病の末に亡くし(享年65)、その心身の空白を綴ったのが本書、『7秒間のハグ』だ。
 表題は夫婦が日課とした、ごくごく軽めの抱擁のこと。
「食道癌が見つかったのが19年7月。元々ハグは毎日していましたが、7秒すると絆が深まるらしいよって、夫がどこかから聞いてきて。体調の悪い時や喧嘩の最中でも、いーち、にーいってふざけた感じでいいの。歯磨きなんかと同じで、ただの決め事、、、だから。でもその7秒を毎日やることで、本当につらい時も深く向き合えるようになるんです」

 驚くことに第1稿完成は、夫の死からわずか半年後。
「最初は『書いた方がいい。少しは哀しみから抜け出せる』って人に勧められても『絶対無理』って逃げ回っていたんです。でも毎日泣いてばかりもいられないし、彼がどんなにチャーミングな人だったか、仕事の面も含めて知ってほしいという使命感から『書いてもいいかも』って、ふと思った。
 ただ、いざ書き始めると本当につらくて、痛くて、涙を洪水のようにボタボタ流すことにもなった。でも結果的に書いてよかったです。彼は編成局のプロデューサーだったから一般にはあまり知られていなかったし、退院後に作りたい映画の企画が5本もあって、全然諦めていなかった姿を書くこともできたので」
 ドラマ『29歳のクリスマス』や映画『ウォーターボーイズ』等を手がけ、ミスター・フジテレビとも呼ばれた秋史氏。その横顔を、山村氏は〈モダン会〉なる気の合う局内の仲間同士で行った、大磯の海から書き起こす。顔ぶれは2人の他、現フジテレビ副会長の遠藤龍之介氏、『東京ラブストーリー』や『ロングバケーション』を後に演出する永山耕三氏、そして寺尾のぞみ氏の5人。部署もバラバラな彼らは青春を取り戻すかのように夜の海ではしゃぎ、その中の2人が結婚に至るのも、よくある話ではある。
「5人だからよかったんでしょうね。どこか俯瞰的な感じがあって、1対1の時より人のことが多角的に見える。その中で、あっ、この人、いい人だなって。
 そうやって結婚前の話や局アナ時代の裏話、あとは秋史の浮気が発覚した時の修羅場も交えつつ、幅広い層が読める本にしたかった。
 それこそ浮気の証拠を見つけた時は、『これはドラマ?』って思いました(笑)。昔、『徹底的に愛は…』というドラマで外務官僚の夫に浮気された妻を演じたんです。その時、大きな窓に鬼の形相で花瓶か何かを投げつける場面があったんですね。『さすがに激し過ぎたかな?』って後で離婚経験者の友人に聞いたら、『全~然。現実の修羅場はあんなもんじゃないわよ』って(笑)。
 まあうちは窓こそ割れなかったものの、夫が独立したり病気になったり、ドラマ以上にドラマチックな36年半ではありました」
 多忙ですれ違いも多かった夫婦は03年、夫の転勤でNYへ。父を早くに亡くし、母1人子1人で育った山村氏には母の呪縛から逃れるために結婚した部分もあったが、秋史氏はそんな母に対する愛も憎も丸ごと受け止めてくれた。
「私は3人以上の家族経験がなく、母といた時も結婚直後も、ずっと1人で淋しかったんです。それが何事も2人単位のNYで夫婦の時間を持てて、やっと家族、、になれた気がした。
 例えば再び1人になった私のことを心配して下さる方は有難いことに大勢いる。でも家族じゃないんですね。こうやって取材を受けたり、女優のお仕事をしている時もそう。私は元気なフリ、、、、、をしていて、本当の気持ちが時々わからなくなるんです。受け止めてくれる家族がいないから。とりあえず今は97歳になった母やワンコがいるから意地でも生きなくちゃって思ってますけど、いつかフリがフリじゃなくなる日がくるのかなあ…」

最後の最後まで奇蹟を信じた

 夫婦は〈二心二体〉だと主張する夫に、一理あると思いつつも抗う妻の関係は、最長110日にも及ぶ入院生活を通じて徐々に変化。中でも北向きの窓から注ぐ日差し、〈ノースライト〉に包まれた2人だけの時間は、コロナ禍で面会が制限される中、たとえささやかでもあってよかったと思うほど、穏やかでかけがえがない。
「祈祷も含めてやれることは全部やりました。『気が済むまでって何?』って言いたくなるくらい、私たちは最後の最後まで奇蹟を本気で信じた。それしか、救われる術がなかったんですね。
 そんな中、最後の病室が北向きで微かな日光しか拝めない毎日でしたけど、夫の隣で寛ぎ、体温を直に感じられたのは本当に幸運でした。確かに一心同体の危うさもわかる。でも夫婦が運命共同体にならざるを得ない局面は必ずあって、相手のダメな部分や綻びをむしろ愛おしく感じ、長所より欠点で結ばれた存在が家族なんじゃないかな?」
〈大切な人と別れることが、人間の宿命だから〉という友人で脚本家の大石静氏の言葉を、彼女は最後に引く。
「それだけ大切な人との時間は1分1秒も軽んじてはいけない。いっそのこと夫婦や家族のナナハグ運動でも始めましょうか!(笑)」
 おそらくその孤独も傷も2人だけが分かち得た固有のものだからこそ、人々を広く繋ぐ普遍たり得るのだ。

●構成/橋本紀子
●撮影/朝岡吾郎

(週刊ポスト 2021年11.12号より)

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