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【著者インタビュー】まさきとしか『彼女が最後に見たものは』/24万部を突破中の大人気ミステリー『あの日、君は何をした』待望の続編!

クリスマスイブの夜、頭部を殴られ、着衣の乱れた状態で発見された身元不明の50代女性ホームレスは、最後に何を見て、何を思ったのか――事件の波紋や余波に光を当てた大人気ミステリーシリーズ第二弾!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

真実が明らかになる瞬間、すべての景色が一変する! 理不尽な死と家族の崩壊を描く大人気シリーズ第二弾!

彼女が最後に見たものは

小学館文庫 
858円
装丁/大原由衣

まさきとしか

●まさき・としか 1965年東京生まれ。0~2歳、26~28歳、35~40歳、42~44歳を東京、その他は札幌で過ごし、現在も札幌在住。ライター職の傍ら同人誌で活動し、07年「散る咲く巡る」で第41回北海道新聞文学賞を受賞。著書に『熊金家のひとり娘』『完璧な母親』『祝福の子供』『屑の結晶』等。また三ツ矢&岳斗コンビの初登場作『あの日、君は何をした』は2020年啓文堂書店文庫大賞第1位に輝くなどベストセラーに。本書はシリーズ第2弾。162.5㌢、O型。

事件の向こう側に無限に広がる波紋が及ぶ誰も見ようとしないギリギリまで書きたい

 クリスマスイブの夜、新宿区の空きビルで頭部を殴られ、着衣の乱れた状態で発見された身元不明の遺体。後に〈高田馬場二丁目女性殺人事件〉と名付けられるこの50代女性ホームレスの謎の死から、まさきとしか氏の最新刊『彼女が最後に見たものは』は幕を開ける。
 探偵役は、現在24万部を突破中の第1弾『あの日、君は何をした』に引き続き、警視庁捜査1課の刑事〈三ツ矢秀平〉と、よくも悪くも非凡な彼の逆をゆく戸塚署の若手刑事〈田所岳斗〉の凸凹コンビ。そしてこの遺体の指紋が前年夏、千葉市在住の公務員〈東山義春〉が刺殺された未解決事件の遺留指紋と一致したことで、事態は思わぬ方向に転がり始めるのである。
 岳斗たちは2つの事件の関係性を探るべく、改めて東山の妻〈里沙〉に事情を訊くが、遺体の女性に心当たりはないという。夫を殺した犯人が逮捕されていないことに不安を感じる様子の里沙だが、三ツ矢が着目したのは東山宅の出窓に飾られている〈フラワーアレンジメント〉だった。

「本作は着想というよりは、“川原で行き倒れている女性”というイメージが漠然とあって……。そう聞くと皆さん、『可哀想に』って言うんですけど、彼女の人生が可哀想なものだったかどうかは彼女にしか判断できないのにねっていう話を、実は前作を書く前に担当の編集者さんにしたんです。
 ただその時はどう物語化すればいいかわからなくて、『あの日、君は何をした』を書いたんです。その後、『あの話、やっぱり私も読みたいです』と編集者さんが言って下さって。ところが戸塚署管轄内にイメージする川原はありそうにない。となると岳斗の出番がなくなってしまうとか、諸々あって今の形になりました。幸い三ツ矢&岳斗コンビは読者の方にも好評で、彼らありきの第2弾でしたので」
 中2の時、母を殺された上に犯人と思われた男は自殺。そのせいか〈わかりません〉〈だから、知りたいのです〉が口癖で〈瞬間記憶〉の持ち主でもある三ツ矢。岳斗は彼と3か月ぶりに再会した際、冗談で所属や年齢を律儀に並べた挨拶をするが真顔で返され、思わずこう問うてしまう。〈三ツ矢さん、俺のこと覚えてます?〉
「三ツ矢は岳斗のヘタな冗談を全スルーしてしまう変わり者ですからね(笑)。
 彼の造形に関しては、たまには女性に嫌われない男性も書いてみたかったのと、自分の知りたいという欲求にまっすぐ静かに向き合える人なら、誰も気づかないことに気づける気がして。特に幼くして心が殺されるような経験をした人は、世の中や他人に向ける目も違ってくると思うんです。
 それこそ誰もがわかったつもりになれちゃう時代に、一々立ち止まり、わからないと言えるのが三ツ矢なら、〈まどろっこしい言い方はやめてはっきり言ってくださいよ〉と一々つっかかり、説明を求めることができるのが岳斗。そうした書き分けも書きながら固まっていったもので、まさかこの人がこんなことを? とか、書きながら登場人物に教わることも多かったです」

勘違いしがちだが幸せは厄介なもの

 やがて遺体の身元は千葉市在住の〈松波郁子〉と判明。元大家らによれば5年前に夫婦で引っ越してきたが、その2年後に夫が亡くなったのだという。
 一方の東山事件に関しても、三ツ矢は出窓に置かれた花のことばかりを近所で聞いて回り、その意図が読めないだけに、岳斗のイライラは頂点に。そして三ツ矢がずっとこだわり続けていたフラワーアレンジメントにまつわる“違和感”の正体が明らかになり、それを岳斗も共有するあたりから、物語は里沙や郁子の独白も交えた内面のミステリーに変貌を遂げるのだった。
 郊外の一軒家で夫や娘に囲まれるオシャレで理想の暮らし。その夫が死んでも慰めてくれる友達がいて、都内の実家に帰れば両親が好物を揃えて迎えてくれる。SNSにアップされる里沙の日常は、幸せな暮らしを象徴するかのよう。
「幸せって単体では感じられず、常に比較対象を必要とするのが厄介ですよね。それも以前は過去の自分や身近な人間との相対評価で済んでいたのが、今はSNS上に無数の幸せがありますから。私たちは望みがかなうことが幸せだと勘違いしがちですが、欲しいものが手に入ったとしても、また別のものが欲しくなるだけなんですよね。本当の幸せとは何かで満たされることではないと思うんです」
 本作では“幸せ”を追い求めるさまざまな人たちの人間模様が描かれるが、まさき氏は事件の波紋や余波にこそ、光を当てる作家でもあった。
「そう、私が書きたいのはそこなんです。例えば事実関係をまとめた新聞のベタ記事の向こう側に、どんな人のどんな人生があって、その人の周囲にどんな影響や変化があったのかを、その波紋や余波が及ぶギリギリまで書きたい。
 特に波の端っこの方になると誰も見ようとしないけれど、何か今までの日常と違うことが起きていたり、誰かがそのせいで亡くなっていたりすることもあるかもしれないと思うんですね。例えば交通事故なら、被害者と加害者と、各々の家族や友人や知人がいて、本人と面識はなくてもその場所をよく知っている人とか、波紋が無限に広がる感じを何とか小説化したくって」
 事件にまつわるさまざまなヒントが〈ハッシュタグ〉によって見えてくる点も、本作の現代的な一面であり、読みどころのひとつだ。三ツ矢の捜査における着眼点の鋭さには、舌を巻くしかない。
「こういう事件が起きて、こういう人が出てくるとか、いつもその程度のプロットしかない状態で書き始めるので、どう解決するかは『三ツ矢、頼んだからね』ってほぼ丸投げといいますか。彼がどうやって真犯人に辿り着き、謎を解くのかも私は知らないんです(笑)。
 きっと人物を一人一人、丁寧に描いていけば着地点は見えてくるはずだという、根拠のない楽観があって、幸いその書き方でも迷宮入りはしていません。あともう1作くらいは三ツ矢のお世話になるかな。なかなか信じていただけないんですが、本当にこれって、彼が解決しているんで(笑)」
 クリスマスイブの夜に遺体で発見された“彼女”が最後に何を見、何を思って死んでいったかを、まさき氏は自身の死生観やありったけの思いを込めて描き上げた。衝撃的な事件の真相以上にドラマチックなその人生の全貌を、ぜひ見届けていただきたい。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2021年12.24号より)

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