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【著者インタビュー】岡田晴恵『秘闘 私の「コロナ戦争」全記録』/言うべきことを言えない、日本全体を覆う閉塞感こそが最大の敵

日本の対コロナ政策は、なぜ迷走を繰り返したのか? この2年間、メディアでその姿を見ない日はない〝コロナの女王〟が真実を語る、迫真のノンフィクション。

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

また訪れる危機のために何としても書き残したかったこの国が抱える罪と病――〝コロナの女王〟迫真の手記!

秘闘 私の「コロナ戦争」全記録

新潮社 
1760円
装丁/新潮社装幀室

岡田晴恵

●おかだ・はるえ 共立薬科大学大学院修了後、順天堂大学で医学博士を取得。国立感染症研究所、ドイツ・マールブルク大学医学部ウイルス学研究所、経団連21世紀政策研究所等を経て、白鷗大学教授。専門は感染免疫学、公衆衛生学。テレビやラジオへの出演、専門書や児童書、一般書や小説の執筆を通じて、感染症対策情報を幅広く発信中。163.7㌢、B型。「この2年で体重は17㌔も減りました」。

専門家が本音を言える国にならなければ痛い目にあって損をするのは国民なんです

〈「これさ、コロナの前の時代には戻れないね」〉〈「……それは田代先生も同じことを言っていました」〉
 電話の主は国立感染症研究所の元職員で現白鷗大学教授・岡田晴恵氏。そして相手は当時厚労大臣の職にあった田村憲久議員。本書『秘闘』は新型コロナ対策の最前線で本音を闘わせた2人の、そんな遣り取りからして生々しい記録だ。
 専門家とそうでない人の間を繋ぎ、政策上の助言もする職業柄、自らの言動を逐一記録するのが習い性とはいうが、特に会話の再現力はタダモノではない。
「メモは当然取りますし、無理な時は誰か信用できる人に電話で話しておいて、文字に起こしたその内容を改めて記憶と照合するんです。私は相手の話を声や音ごと憶えてしまうくらい、記憶力はいい方なんです」
 本書はその70万字に及ぶメモのごく一部に過ぎない。
 全ては19年12月24日、元感染研・インフルエンザウイルス研究センター長の田代眞人氏から1本のメールが入るシーンで始まる。WHOにおけるパンデミック対策の実質的トップでもあった元上司は、要点だけをこう綴っていた。
〈中国の湖北省・武漢で重症の肺炎患者が発生している、すでに複数の感染患者を確認。詳細はまだ不明〉

「田代先生からの一報は〈噂は本当だったのか〉と、イルミネーションの見物客でにぎわう表参道にうずくまってしまうほどの衝撃でした。
 新型ウイルスの存在を中国が認めたのが12月31日、翌年1月下旬にはドイツで無症状の中国人女性からの感染例が確認された。ということは、その時点でSARSのように症状のある人だけを調べればいいという前提が崩れ、広範な検査と隔離の徹底が最適解であることは明白だったわけです。
 特に高齢化が進む国では重症化と医療逼迫の連鎖を招きやすく、ワクチンができるまでどう持ちこたえるかが勝負だと、私は一貫して言ってきた。検査を増やすと患者が増えて医療が崩壊する、だからやらないなどという議論は本末転倒で、とにかく検査して見つけて封じ込める、教科書通りの基本を真面目にやりましょうよと、今も言いたいのはほぼそれだけなんです」
 門外漢でもわかる正論が通らず、日本の対コロナ政策がなぜ迷走を繰り返したのかを検証するために書かれた本作では、先述した田村氏や田代氏、さらに専門家会議の尾身茂氏や岡部信彦氏らの言動を時系列で刻々と追ってゆく。
 ちなみに一連の会議が重用したのは、国際的知名度を持つ天才肌の田代氏ではなく、〈調整型〉の岡部氏だった。その多分に政治的な人選に岡田氏が覚えた嫌な予感がみるみる現実になる過程は、まるで見たくないドラマを見ているかのようだ。
「別に私は暴露本を書いたわけではなく、自分が経験したことをフラットに書いただけなんです。 
 確かに田村元大臣は理解力が高い上に勉強もされていて、先日も、第6波が来るとか来ないとか、そんな議論はどうでもいい、来ると思ってやるのが政治なんだと、田代先生と同じことをおっしゃっていた。
 つまり最悪の事態を想定してやるのが感染症対策や政治であって、それを僕は苦しいけどやる、役所や都庁の体質も自分が変えてみせると言い切った田村元大臣の言葉は、感動的ですらありました」
 一方の岡部氏や尾身氏に関しても事実は書くものの、
「日本の場合はコロナ対策に限らず、やって失敗するよりやらずに失敗した方が、復活の目が高いという面が組織にあると思うんです。
 たとえ後手後手でも問題が起こってから対処する方が自分自身のリスクヘッジにはなりますし、SNSなどの反応が怖くて中身のないことしか表では言えなくなる傾向がある。要は公と私、どちらを優先するかなんです。米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長なんて、トランプ元大統領と喧嘩したでしょ。ああいう本音を尾身先生や岡部先生が言える国にしてあげようよ、そうじゃないと結局痛い目にあって損をするのは国民なんだからって、私は思うんです」

パンデミックは現代社会の宿命

 次世代のためにもその理解度を極力高め、正当な政策へと導いてくれる国民性を醸成したかったと岡田氏は言い、コロナとは〈危機管理〉の問題であり、社会問題なのだと、改めて気づかされる。
「そもそもパンデミックは大量高速輸送が普通になったグローバル時代の宿命であって、いつまた次の爆発が来てもおかしくはない。
 本書の校了直前に現れたオミクロン株にしろ、今回のコロナは変異の内容も驚異的で、途上国も含めた地球規模で流行を食い止めない限り変異株は増え続ける。ワクチン政策だけでは限界がある以上、経口治療薬や、少ない医療者で大勢を診る大規模施設や発熱外来の確保を急ぐなど、数字的に落ちついている時にこそ、やるべきことがあるんです」
 この2年間、彼女の姿をメディアで見ない日はなく、心ない報道や中傷になぜ絶望せずに闘い続けられたのか、最後に訊いてみた。
「それが自分の役回りなら仕方ないのかなって。ある先生が『君は女だから本音が言える』とおっしゃったのですが、元々出世から弾かれている分、言いたいことも言えますし、正論を貫けるだけでも私はよかったと思います(笑)」
 言うべきことを言えない状況は国益を損ね、国民を不幸にするだけ。そうした日本全体を覆う閉塞感こそ、彼女の最大の敵なのだろう。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2022年1.14/21号より)

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