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坂井希久子著『ハーレーじじいの背中』。著者に訊く青春家族小説の魅力!

豪快な「晴じい」との旅の模様が涙を誘う!?『ヒーローインタビュー』著者が涙と笑いに満ちた名作家族小説の傑作!を贈ります!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

悩めるヒロインの
成長ぶりが印象的な
青春家族小説
『ハーレーじじいの背中』

ハーレーじじい
双葉社

1500円+税

装丁/鈴木久美 装画/加藤健介

懐古趣味に走り過ぎても前に進めないし
過去を切り捨ててばかりでも人は間違う

坂井希久子

※著者_坂井希久子
●さかい・きくこ 1977年和歌山市生まれ。同志社女子大学学芸学部日本文学科卒。会社員を経て、作家を志し上京。森村誠一氏が主宰する小説教室に参加し、2008年「虫のいどころ」で第88回オール讀物新人賞。現役SM嬢の受賞が話題となる。著書は他に「本の雑誌増刊 おすすめ文庫王国2016」エンタメ部門第1位に選ばれた『ヒーローインタビュー』や、『泣いたらアカンで通天閣』『虹猫喫茶店』『ウィメンズマラソン』『ただいまが、聞こえない』等。163㌢、B型。

 

明日や昨日では近すぎる。たぶん一代おいた明後日の関係がいいのだろう。医学部をめざす都立高校3年の〈真理奈〉と、ワイルド&セクシーな祖父〈晴じい〉の、この家出とも誘拐(!?)ともつかない逃避行は―。
  坂井希久子氏の最新長編『ハーレーじじいの背中』。夏休みの補講中、母方の祖父が校庭に乗り付けたハーレーに制服のまま跨がり、あてのない旅に出たのが始まりだった。生粋の自由人晴じいと、最近まだら惚けが著しいクリスチャンの〈清ばあ〉。さらに今では父方の〈茂じいと房ばあ〉までが同居する阿部家は、代々目黒不動で〈不動湯〉を営んでいた。だが母〈桃子〉と婿の〈則夫〉は高い学費に備えて家業を畳み、今は跡地に建った21階建てマンションの最上階に住む。
  真理奈は清ばあが惚けたのは不動湯を売ったせいだと自分を責め、学校では親友〈浩香〉と〈辰彦くん〉の三角関係に巻き込まれて、毎日が息苦しい。そんな時、〈そんなに嫌なら、さらってやろうか〉という晴じいの誘いについ乗ってしまったのだが、68歳の背中は悩める18歳に、さて何を教えてくれる?

元SM界の女王様という職歴や、青春小説から官能小説まで幅広い作風で注目された新星も、今年で作家生活8年目。代表作『ヒーローインタビュー』ではプロ野球界のある代打男を巡る人間ドラマを描いて絶賛され、まさに虚実を操るプロの仕事を思わせた。
「女王様との共通点ですか? よくできた物語じゃないと楽しめないのは一緒かもしれません。どんな筋書きなら相手が喜ぶか、常に想像力を使うのはSの方。その苦労も顧みない依存型のMより、よほど優しくて勤勉ですね(笑い)」
少子高齢化を映した祖父祖母じじばば四人に孫ひとり〉という設定や、銭湯が消え、高層化や高級化が図られてゆく町の佇まい。そのジジババすら団塊の世代で、両親が団塊ジュニアという若さには、時代の移り変わりを痛感せずにはいられない。
「私は両親が団塊の世代で、祖父母は戦争の話など違う価値観をくれる人だったけど、今の女子高生はもう戦争の話を誰にも聞けないんですね。今は祖父母世代と孫世代が地続きな感じがするし、真理奈が驚くとしたら全共闘運動くらいかなって。なぜあんなに学生が暴れたのか、授業ではサラッと流すだけですし、家族の過去って意外と知らない人が多いと思うんです」
祖父の愛車に跨がった時、真理奈は母の期待も、恋にうつつを抜かす浩香のお気楽さも、何もかもが嫌だった。健気に家業を守った清ばあを顧みない晴じいは特に許せない存在で、そのまま東北道をひた走り、尻の痛みを訴える彼女が連れ込まれたのは、ラブホテル! アロハに長髪のバイク乗りと、制服姿の女子高生は、祖父と孫には当然見えない。
「色気すら漂う晴じいは、彼女をここではないどこかに連れ出してくれる王子様なんですね。現役感がなさ過ぎてもつまらないし、イメージはマイク真木さん風の、ちょい悪オヤジです」
誰もが認める〈「委員長」キャラ〉で、18で処女なんてカッコ悪いと言う級友こそカッコ悪いと思う彼女に晴じいは言う。〈その歳まで男を知らずに来られたってのは、実は幸福なことだ〉〈大事にされてねぇ女は、自分を大事にできねぇ〉
そんな矢先、祖父の携帯に女の声で電話が入る。相手は身内が急に腰を痛めたという山形の農家の嫁〈ジェシカさん〉。実は晴じいには旅先で世話になった恩人が日本中にいるという。その恩返しで農繁期は忙しいというのが旅の真相らしく、2人は一路、尾花沢のスイカ農家〈結城家〉を目指す。

10代は自己愛が
こじれている

結城家には63歳の〈オトーチャン〉と39歳のフィリピン人・ジェシカさん、〈彩〉〈悠馬〉という高2の娘と中3の息子、さらに認知症の姑がいた。その複雑さや、世の中にはいろんな幸せがあることを真理奈が理解していく、少しずつの塩梅が絶妙だ。
「これは私の話ではなく、真理奈や晴じいの話なので、彼女も成長したなあ、とか、惚れた女に頭が上がらない晴じいってカワイイ、とか、登場人物それぞれがそばにいる感覚なんです。真理奈が農家の嫁不足をお金で解決する大人を不潔に思ったり、清ばあのことを気に病む感じは私もイイ子だったから覚えがあって、10代って不況も自分の責任に思うほど内罰的で、自己愛がこじれてるんです。確かに彼女の正義も間違いではないけれど、潔癖なだけじゃ生きづらいよ、そんなにイイ子にならなくていいのにって、真理奈にはもっと視野を広げてほしかった」
農作業を手伝いながら、真理奈は最新の〈共生微生物農業〉にも通じた晴じいの意外な一面に触れたり、親の苦労を知りつつ素直になれない彩と〈重だぐない家族なんて、いるのかな〉と話したりもした。そして〈安易な同情も軽蔑もするな〉という晴じいの言葉が少し分かり始めた矢先、〈真理奈になにかあったら、バイクで引きずり回すぞコラ〉と、母・桃子から別人かと思うような剣幕で祖父の携帯に脅しが入り、舞台は後半、晴じいと清ばあの思い出の地・相模原へ移る。
この時、限界集落寸前の山村で少しずつ溝を埋めていく祖父と母や、母と娘の、過去や未来に対する鷹揚な目線がいい。例えば晴じいは言う。〈古木は朽ちて倒れてこそ、新しい木に日光と養分を提供できる〉と。
「私は着物とか古いものも大好きですし、過去も現在も未来も全部大事にしたいんです。懐古趣味に走り過ぎても前には進めないし、過去を切り捨ててばかりでも人は間違う。過去と現在と未来が綺麗に流れていくのが、やはり一番かなって。
私が戦争の話をよく書くのも、その流れが崩れた時代だから。一方で晴じいが実践する〈不耕起栽培〉とか、最新農法にも興味があって、次代、次々代に流れをぐために必要なことは誰が、いつ変えてもいいと思うし、おじいさんやお父さん世代の恋バナが若い世代の背中を押すことだってあると思うんです」
真理奈にとって祖父母や両親の過去を知ることは、未来にいたずらに怯えないための準備でもあり、ままならない今を丸ごと肯定する術を彼女は愛する家族から学んだ。そんな悲喜こもごもの群像劇を軽やかに綴る坂井氏自身、古い着物を今風に着こなしており、過去と現在と未来が綺麗に流れる、美しい人だった。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト2016年4・29号より)

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