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【著者インタビュー】直島翔『恋する検事はわきまえない』/第3回警察小説大賞受賞作の続編! 現役新聞記者が検察官たちの懊悩を描く

警察小説大賞を受賞し、人気作となった『転がる検事に苔むさず』シリーズ第2弾! 6篇からなる連作短編集は、長編とはまた違う楽しみ方ができる一冊となっています。

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

現役新聞記者が検察官たちの懊悩を描く連作ミステリー短編集「転がる検事」シリーズ第2弾!

恋する検事はわきまえない

小学館 
1760円
装丁/國枝達也 装画/木内達朗

直島翔

●なおしま・しょう 1964年宮崎県宮崎市生まれ。立教大学社会学部社会学科卒。88年に某新聞社に入社。社会部時代には司法担当を経験し、現在論説委員。「今の非正規や働きにくさの問題も、ちょうどここに書いた30年に端を発していると思います」。21年『転がる検事に苔むさず』で第3回警察小説大賞を受賞し作家デビュー。筆名は「編集者に最も言われたくない台詞、『直しましょう』から。すみません、ただのダジャレです(苦笑)」。173㌢、71㌔、O型。

結局、法より人間力の方が素敵だということを僕は書きたかったのかもしれない

 有能、実直ゆえに出世できない、東京地検浅草支部の窓際検事〈久我周平〉を主人公に、広く警察権を巡る行使の実際や問題点をミステリー仕立ての中にも浮き彫りにし、人気作となった第3回警察小説大賞受賞作『転がる検事にこけむさず』 。
 著者・直島翔氏は新聞社勤務の58歳。社会部時代に検察庁を担当した経験や「いつかは短い記事やコラムだけじゃなく、長いものが書きたい」という衝動が小説に向かわせたという。
「要はずっと好きで読んできた本の世界に、自分でも参加したくなったんです」
 続編にあたる『恋する検事はわきまえない』は、久我から検事の心得を仕込まれ、鹿児島地検へと飛び立った後輩検事〈倉沢ひとみ〉の異動後を描く「ジャンブルズ」など、計6篇を集めた連作短編集。各事件のサイズ感や伏線と伏線の絶妙な絡ませ方など、長編とはまた違う切れ味が楽しめる一冊となっている。
「日本の司法行政に関して僕なりに考えはあるものの、そんな論文、誰も読みたくないですからね。とにかく皆さんに面白く読んでもらうのが、一番の目標でした」

 前作の表題はもちろん、自身もファンだというかの音楽界のレジェンドに由来。が、検事は転勤の多いのも確かで、上層部に盾突いてばかりの倉沢が着任早々、高騰する鰻の稚魚の密漁事件を手がけ、そこに南九州特有の文化や利権構造が絡んできたりと、地方色に根差した謎や展開が楽しい。
 また表題作では東京地検特捜部初の女性検事として知られ、久我を特捜に推薦してきた元福岡地検検事正〈常磐春子〉の独身時代に舞台は一転。現在は弁護士事務所の理事長を務める常磐が久我を誘い、昔話をする形で物語は進む。それはそのまま、この国の司法行政の30年を振り返るクロニクルともなっている。
「常磐は昭和と平成の境に入庁した雇均法第一世代。当時は彼女に求婚する〈藤川聖也〉のような国際派の弁護士が活躍し始めた頃で、日本の知財裁判は世界から遅れに遅れ、何かあったら海外で訴訟を起こすしかないような面があった。
 その後、平成17年にようやく知財高等裁判所ができますが、日本の民事裁判は遅れ、競争政策の担い手である公取委の仕事ぶりも国際基準にほど遠かった。日本はG7に加盟しながら世界と同じルールで勝負してこなかったわけで、その流れが85年のプラザ合意を境に大きく変わるあたりを背景に、若き日の常磐の恋や結婚にからめてみようと。つまり恋ありきではなく、この30年を書いてみたいという思いの方が先でした」
 一見強面な常磐が、誰をどんな基準で夫に選んだかは作中に譲るとして、本書は倉沢と鹿児島出身の墨田署巡査〈有村誠司〉の現在進行形の遠距離恋愛や、常磐や久我の過去を挟んだ、外伝的な趣も。そのいずれにも魅力的な謎が配されるリーダビリティもさることながら、作中事件の多くが全くの虚構とも言いきれない、、、、、、、、、、、、、ことに、私たちは改めて溜息をつくことになるのだ。

人を罪に問うことに真剣に向き合う

 例えば常磐が特捜時代に手がけた下水道業者5社による談合事件。〈東亜テック産業〉〈民谷〉を始め、5人の幹事たちは公取委の調べに対して容疑を認めており、その調書をそのまま写せばいいと上司は言う。
 が、そうはできないのが常磐だ。逮捕された5人はいずれも平社員である上に、裏経費を堂々と経理に請求。そのおかしさに熟練の先輩検事が気づかぬはずはない。上役や当該企業の顧問弁護団が適当な所で手打ちをしていることが疑われた。
「公取委が刑事告発に踏み切った実際の官製談合事件をモデルにしました。独禁法は営業者に対する規制法で、法人を刑事罰に問う場合、当時は両罰規定といって、まず個人を起訴しなければ法人は起訴できなかった。元々日本の刑法は個人を罰するもので、監督責任のような考えで団体を罰する仕組みだった。だから個人より法人の方が悪質なのではという疑いがあるとき、検察官は悩むことになる」
 そんな事件を巡って、〈国家レベルの経済の不都合の尻ぬぐいを、たった五人の会社員ですることになる〉〈あんまりじゃないかしら〉と常磐が煩悶する一方、事件の処理件数しか眼中にない検事も現われる。
「全編にいえることは、人を罪に問うことに真剣に向き合う検察官と、どうもそうではない出世しか頭にないタイプや事なかれ主義者の検察官を対比させたことです。司法記者時代に前者のような立派な人にも会いました。そうあってほしいという願いからです」
 注目は第5話「健ちゃんに法はいらない」で有村が出会う魚屋の健ちゃんこと、〈長谷川健介〉の存在だ。有村は保育園の防犯教室でボランティアの健介と知り合い、お節介な彼に言われるまま、虐待が疑われる少年を見守ることに。その法以前の良心に基づいた救い方が、何とも清々しいのだ。
「法治主義へのちょっとしたアンチテーゼになればと思って、法律のことなんてまったく気にしない人間を造ってみました。いうなれば法より人情といいますか、要は寅さんの世界です。
 結局僕が書きたかったのは法より人間力の方が素敵だということかもしれません。その場その場の気持ちで動いていて、それでも十分魅力的な事件ドラマを書いてみようと思いました」
 この外伝で物語の奥行を一層深くした本シリーズは、第3作へと続く予定だとか。豊洲の良心・健ちゃんや、〝わきまえない〟倉沢や常磐が、久我の人生に今後どう絡むのか、ますます楽しみだ。

●構成/橋本紀子
●撮影/朝岡吾郎

(週刊ポスト 2022年3.18/25号より)

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