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【著者インタビュー】横道誠『イスタンブールで青に溺れる 発達障害者の世界周航記』/発達障害の診断前に体験した海外旅行を、障害の特徴とともに振り返る

発達障害の人に世界はどう映っているのか。『みんな水の中』で注目を集めた著者が綴る、面白くも大変だった旅行記『イスタンブールで 青に溺れる』についてインタビュー!

【SEVEN’S LIBRARY SPECIAL】

「ASDで凝り性に、ADHDで飽き性に。普通に旅した先の人と交流して…は自分にはできないんだと」

『イスタンブールで青に溺れる 発達障害者の世界周航記』

文藝春秋 1870円

著者の横道さんが発達障害の診断を受けたのは40才のとき。≪いままでの僕の人生で得た多種多様な経験に、新たな光を当てられることに気がついた。そうして過去を洗いだしていくと、僕の人生は、それまでとは違った意味合いを放つことになった≫。この本は、20代後半から数年の間に、診断を受ける前の横道さんが体験した海外旅行について、自らの障害を自覚したいま、当事者として振り返った旅行記。街を歩き、美術に触れ、人と話し、文学を思い出す様が障害の特徴とともに鮮やかに描かれる。

横道誠

(よこみち・まこと)1979年大阪府生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科研究指導認定退学。文学博士(京都大学)。現在、京都府立大学文学部准教授。専門は文学・当事者研究。著書に『みんな水の中─「発達障害」自助グループの文学研究者はどんな世界に棲んでいるか』『唯が行く!─当事者研究とオープンダイアローグ奮闘記』がある。

「あ、やっぱり」と、診断が出てうれしかった

 ドイツ文学・比較文化研究を専門とする横道誠さんがASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)と診断されたのは2019年のこと。鬱病で大学を休職することになって精神科を受診し、発達障害だとわかったという。
「診断が出てショックを受ける人もいますが、私はうれしかったですね。自分をいたわるようになり、生きやすくなりました。中学のときの通知表に1から5まであって、『デコボコだな』と思っていたし、『あ、やっぱり』みたいな感じです。発達障害についていろいろ調べるうちに自分の謎が解けて、『これは面白い、研究しがいがある』と思いました」
 発達障害の仲間と交流するようになって、自助グループの運営も始めた。人生の転機となる経験から生まれた『みんな水の中』(医学書院)は、詩・論文・小説で自身の体験する世界を描き出し、高い評価を受けた。
『イスタンブールで青に溺れる』は、これまでに46カ国を旅したことのある横道さんの紀行文だ。
「昨年12月から今年4月までウィーンに研究滞在しました。本当は10月に行くはずが、空港の出国審査で不可になりまして。飛行機の代金、滞在先の家賃など30万~40万円ぐらい失って、とっさに『「発達障害者が海外旅行をするとどうなるか」という本を出したい。関心のある出版関係者のかた、おられませんか』とツイッターでつぶやいたら、7人が反応してくださって、4つの出版契約を結びました。もともとのアイディアはまた別の本になる予定で、この本は、過去に旅行したことならこういう風に書けます、と言って、かたちになりました」

想像力が三段跳びで駆け上がっていく

 ウィーンや、1年間滞在したことのあるベルリンのほか、プラハ、モスクワなど、ヨーロッパを中心に様々な土地に足を運んできた。ドイツ語以外の言語も精力的に勉強し、これまでに学んだのは約15カ国語だそう。
「ドイツ文学を専門にすると、特定の作家の特定の時期の特定のモチーフだけを研究して人生が終わるようなところがあるんです。そういうのがしんどくて、もっと自分を開いていきたい気持ちで、もともと過集中なところもあり、一時期、旅行しまくっていました。
 それがあるときから、プツンと行かなくなって。ASDがあると凝り性で、ADHDは飽き性になるので、私は凝るときは凝るけど、飽きるとすぐやめてしまいます。普通に旅した先のいろんな人と交流して世界を広げることが自分にはできないんだって自分の中で結論が出て、もういいやとなったんですね」
 旅の記録は、スマホでグーグルドキュメントに書いていた。アプリのアイコンが青いというのがグーグルドキュメントを使う理由で、本のタイトルに取られている「青」の色を好むのはASDの人に多いそうだ。
 紀行には、横道さんが好きな文学や芸術作品が自在に引用される。この場所でなぜこれ?と思うものもあり、イメージが大胆に飛躍しているのを感じる。
「昔、付き合っていた人に、想像力が三段跳びで駆け上がっていくので付いていけないと言われたことがあります(笑い)。本では、この人なりに何かあるんだろうな、となるべく伝わるように書いたつもりですが」
 圧倒的な光景の前で芸術作品を想起するとき、発達障害のために「みんな水の中」にいるような感覚が揺さぶられ、時に破砕される。その描写は震えがくるほど美しい。
 自分が発達障害者だと知る前に行った旅のできごとを、そうだと知ったいまの視点でとらえなおして書くのは想像以上に大変だったという。
「自分から『こういうものなら書けます』と言ったんですけど、いざやってみると苦しかったです。誰かと交流できたのはベルリンぐらいですが、ベルリンでも人間関係が崩壊に向かっていって。思い出すのがしんどすぎて、記憶が滑らかに出てこないんです。一章書いては編集者の山本さんに送ると、編集者ってケア従事者なので(笑い)、一生懸命、『ここはこうですか?』『ここはこうすれば』と助言をくれて、なんとか書けた感じです」
 文章だけ読めば、滑らかで、笑いもあり、生みの苦しみを感じさせない。
「大阪人なんで、オチをつけずにはいられないところがあります。『え? オチないの?』って普通に言われますし。あと、私はずっといじめられっ子だったんですけど、大阪では笑いを起こせる人が尊敬されるということに小学3年生ぐらいで気づいて、これが自分の生きていく道なんだって思いました」
 発達障害を知り、ほかの当事者の話も聞いて自分自身を掘り下げていくが、それですべてがわかるわけではないそうだ。
「自閉症があるとフラッシュバックが起きやすいんですけど、自閉症はトラウマに弱い特性もあり、トラウマがフラッシュバックを起こしている可能性もあるんです。私の場合、子どものころに家庭が崩壊していまして、ある宗教を信じていた母親から激しい暴力をふるわれていたので、どこまでが先天的な発達障害で、どこまでが後天的なトラウマによるものかわからず、そこはいつも悩んでしまいます」
 母との交流はないそう。『みんな水の中』が出た後、ラジオ番組で本が出たことを知った母親から連絡がきたが、対応しなかった。
「母親との関係はいまも難しいですが、自分が診断を受けて、母親も苦しいんだろうなってことは揺るぎなくわかります。母親も、明らかに発達障害があったと思うんです。発達障害者って、ネトウヨになったり、カルトや陰謀論にはまったりする人が多い。ものを複雑に、切り分けて考えることが難しく、生きづらいから、信じられるものに飛びつきがちなんです」
 7月には、医学書院のウェブマガジン「かんかん!」に連載した、発達障害者へのインタビュー「発逹界隈通信!」が本になる予定だ。自分について深く掘り下げた後は、逆に自分のような人ばかりではないと固定観念を払うような本を出していきたいという。

SEVEN’S Question SP

Q1 最近読んで面白かった本は?
 ハン・ガン『すべての、白いものたちの』(河出書房新社)はいつ読んでも感動します。アンミカさんの「白って200色あんねん」という言葉がありますけど、5種類ぐらいの白い紙を使った凝った装丁で、『みんな水の中』はその青バージョンのつもりでたくさん注文をつけました。

Q2 新刊が出たら必ず読む作家は?
 ハン・ガン作品など韓国文学を翻訳している斎藤真理子さん。文学ムック「たべるのがおそい」終刊号に斎藤さんが書いた「文とふん」というエッセイは子供のころ校庭でうんちを踏んだ話なんだけど、すごくきれいに書いています。

Q3 座右の一冊は?
 ドイツ文学のゲオルク・ビューヒナーの「レンツ」という、統合失調症になって精神崩壊した実在の作家をモデルにした未完の短篇がすごく好きで、ウィーンに滞在していたときも毎日読んでいました。

Q4 最近見て面白かったドラマや映画は?
 テレビは見ません。村上春樹作品を原作にした韓国映画『バーニング』と、すごい評判になった『ドライブ・マイ・カー』は見て考えさせられました。『バーニング』は作家の自閉感がそのまま表現されていて、『ドライブ・マイ・カー』だとすごく定型発達者っぽかったので、映画化にもいろいろあるんだと感動しました。

Q5 最近気になるニュースは?
 芸能人の自殺。やっぱりつらいですね。何回も自殺を試みている仲間もいるし、希死念慮が高まるので、「今日はSNSを離れましょう」とみんなで言い合ったりしています。

Q6 最近ハマっているものは?
 同じものばかり食べる習性があります。最近はおから。1週間21食あるうち15食は食べています。前はそれがカレーライスやパエリア、お好み焼きだったんですが、どんどん太っておからになったんです。

Q7 趣味は何ですか?
 本を書くこと。自分の書くものに広がりがほしいから、編集者と会うと、「あなたの風がほしい」と口説き文句を言って、いっぱいダメ出ししてもらいます。

Q8 何か運動はしていますか?
 毎日45分ぐらい歩きます。職場までが45分なので、行きは歩いて、帰りはバスに乗ります。大学に行かないときも別のところに向かって同じぐらい歩きます。

●取材・構成/佐久間文子
●撮影/浅野剛

(女性セブン 2022年6.2号より)

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