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【著者インタビュー】綾小路きみまろ『人生は70代で決まる』/70代は元気に過ごせるラストチャンスであり、人生の「総仕上げ」でもある

愛ある毒舌や自虐で大人気の綾小路きみまろ氏が、10年先、20年先を見据えて綴ったという一冊。老いも孤独も、見方をズラせば面白くできると、中高年の悲哀に長年寄り添うプロがその極意を明かします。

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

中高年の老いをネタにしてきた漫談家が老年期の過ごし方について指南する抱腹絶倒の1冊

人生は70代で決まる

幻冬舎新書 
990円
装丁/鈴木成一デザイン室

綾小路きみまろ

●あやのこうじ・きみまろ 1950年鹿児島県生まれ。高校卒業後上京。新聞配達をしながら拓殖大学商学部に通う中、配達先で偶然キャバレーの支配人と出会い、司会者の道に。森進一、小林幸子、伍代夏子らの専属司会や漫談家として活動する一方、自作の漫談テープを観光バス等に無料配布。これが評判を呼び、2002年リリースの漫談CD『爆笑スーパーライブ第1集! 中高年に愛をこめて…』は185万枚を突破。03年にはNHK紅白歌合戦に初出演し、現在はYouTubeも開設。165㌢、70㌔、O型。

人生は後半の方が大事ですし、もっと早く売れていたらダメになっていた気もします

「潜伏期間30年!!」「奥様も選ばれたんだ その顔で」等々、愛ある毒舌や自虐で今や幅広い世代に大人気の綾小路きみまろ氏。「歩くと膝がコキコキ鳴る」古稀を過ぎ、52歳でブレイクしてちょうど20年が経つ今年、さらに10年先、20年先をも見据えて綴ったのが、本書『人生は70代で決まる』だ。
 なぜ70代なのかといえば、多くの場合それが、〈元気に過ごせるラストチャンス〉だから。〈70代は「余生」ではなく、人生の「総仕上げ」です〉〈あの世に召される前の10年間を満足のいくように生きられれば、死ぬ瞬間に「いい人生だった……」といえると思うのです〉
 ゴールを男性の平均寿命に定め、そこから逆算した残り時間をむしろ全力で能動的に楽しもうとする中高年のアイドルは、どんな逆境にも意味や面白みを見出し、笑いに換える、〈肯定〉の名手でもあった。

 まさに〈三つ子の魂〉だ。幼い頃は鹿児島で種付師を営む父とよく牛馬のセリに出かけ、その名調子を周囲が呆れるまで練習し、64年の東京五輪では「世界中の青空を……」という北出清五郎アナの名台詞に感激。級友の前で物真似を披露し、拍手喝采を浴びた。
「高校卒業後、玉置宏さんに憧れていた18歳の私は、父がくれた1万円を手にまずは東京に出ようと。何の伝手もないのにです。それが新聞配達をしながら大学に通う中、何のご縁かキャバレーの司会の代役を頼まれたり、森進一さんや伍代夏子さんのショーで今の漫談に繋がる時間を頂戴したり。全てが偶然なんですが、その偶然がことごとく必然になる他力本願との巡り合わせ、それが私の人生の特徴だなあと、今、思うわけです」
 そんな著者が総仕上げと呼ぶ70代の指南書もまた、〈「老い」が人を一番、成長させる〉〈老人のもの忘れは喜劇〉〈70歳からはプライドを捨てて、カツラだけ残す〉等々、真面目と笑いと毒の配合が絶妙な1冊となった。
 例えば〈心からしたいものを見つけられる〉のが70代とあるが、身軽になりたくともなかなかに捨て難いのが〈義理やモノや名誉〉だ。そんな人には、歳を重ねることは何物にも代えがたい若さを捨てること、それに比べればプライドを捨てるくらい大したことはなく、人間は〈自分でも気がつかないうちに、自然と何かを捨てているのです〉と、むしろ老いを経験できるまで生かされたこと、、、、、、、、、、、、、、、、、への感謝を発見させてくれるのだ。
 また、SNS等の進化になじめない人は〈時代についていけないくらい成熟している〉と著者一流の言い換えで励まし、〈自分で自分を笑えたら「きみまろレベル」〉〈クヨクヨ悩んでも、時間のムダです〉と、〈これまでで一番自分らしく過ごせる最後の時間〉を自分のために使うよう勧める。
「私は野菜作りが趣味で、オフの日は農作業に勤しみ、大好きな骨董を眺めて過ごしたりしますが、そういう自分のための1人だけの時間って意外と大事だと思うんです。野菜は人にあげても喜んでもらえるし、土と芽と自分だけの世界に一生懸命向き合うのって、なんかイイじゃないですか。
 私はお酒も基本飲みませんし、そんな時間があるならお客様をもっと笑わせるために時間を使いたい。それも結局は自分の世界が大事、他の誰より自分が一番好きということかもしれない。だから何でも面白いと思うことはメモに取り、誰とも似ていない私だけの笑いを確立すべく試行錯誤を重ねてきたわけで、今の私は急にできたわけではないんです。
 若い頃は東京ぼん太さんやケーシー高峰さん、佐々木つとむさんといった先輩方がどう人を笑わせているのか、舞台を見に行って、許可を戴いて録音したものを繰り返し聞いたりもしました。芸に近道はないですからね。私の母の口癖は〈真面目に生きろ〉でしたけど、結構その通りに生きちゃうんだなって。だって私、かなりマジメですもの(笑)」

最後はお客様を救ってあげたい

 人知れず芸を磨き、仲間たちの成功を傍に見る間も、〈努力と忍耐〉は氏のモットーであり続け、「腐る暇は意外にもなかった」と笑う。
「キャバレーやスナック、夏祭りに老人施設の慰問と、ブレイクする前もいろんなお仕事に呼んでいただけて、いい時代だったんですよ。
 今思うと52歳は十分若く、むしろ早くに売れていたらダメになっていた気もする。自分の笑いを認めてくれる人は必ずいると私はなぜか確信できていたし、人生は後半の方が大事ですもん」
 客席との呼吸が今の形を作ったという著者にとって、マスクで顔が見えない現状は逆境そのもの。
 本書には〈本音は本音でも、人を傷つけることのない、できれば清々しいもの〉とあるが、きみまろ流「誰も傷つかない毒舌」はなぜ可能なのか。
「お客様は遠方からお金を払ってまで見に来て下さる。私はその点が最も重要だと思っていて、来た以上は喜んでほしいし、毒をあれこれ吐きつつ、最後は救って差し上げたいわけです(笑)。
 我々芸人は人気商売です。お客様に好かれたいんです。だからセクハラ云々と言われても芸をブラッシュアップし、客層や時代に合った笑いを日々追求してきた。今はコロナの時代に負けないように、マスクの中のより大きな笑い、、、、、、、、、、、、、をめざして、過去の録音も聞きつつ研究と努力を重ね、今まで以上の気合で舞台に立っています。皆様、会場でお待ちしております」
 老いも孤独も〈見方を少しズラせば〉面白く、笑いにすらできると、中高年の悲哀に長年寄り添うプロはその極意を明かす。むろん著者のようにはいかないが、笑いとは使いこなせるものなのだ。

●構成/橋本紀子

(週刊ポスト 2022年6.24号より)

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