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『タスキメシ』

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青春スポーツ小説

『タスキメシ』

タスキメシ

小学館

1300円+税

装丁/黒木香+ベイブリッジ・スタジオ

装画/関あるま

額賀澪

※著者_額賀澪

●ぬかが・みお 1990年茨城県生まれ。10歳で小説を書き始め、中学は吹奏楽部、高校は文芸部。「中学からの内進生が9割いる私立に高校から入ったので、天邪鬼な観察者目線が作品に出ている気もします(笑い)」。日本大学芸術学部文芸学科卒。広告代理店勤務の傍ら執筆を続け、昨年『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞、その3週間後に『屋上のウインドノーツ』で第22回松本清張賞を受賞し、異例の2冊同時デビューを果たす。167㌢、O型。

悩みや欠落を抱えた男女が恋愛抜きで

壁を乗り越える話を私は書きたかった

青山学院大学の完全優勝に沸いた、今年の箱根駅伝。が、『タスキメシ』の著者・額賀澪氏(25)は「やっぱり3部作の映画は3作全部見ないと!」と言う。

「つまり大学駅伝は出雲・全日本・箱根の三大駅伝を全て見るのがお勧めで、本当は都大路(高校)や実業団も見てほしい。ある選手の走りを高校、大学と長いスパンで追うのもひとつの物語として面白いし、都大路のライバルが大学や社会人では同じチームになったり、縦糸と横糸が織りなすドラマがまたイイ。例えば『カレーは美味しいから好き』としか言えないように、理由を聞かれても困るくらい、駅伝が好きです!」

箱根駅伝を夢見ながら膝を故障中の神野向高校エース〈眞家早馬〉と弟〈春馬〉、孤高の料理女子〈井坂都〉を軸に、〈諦める勇気〉と〈続ける恐怖〉の狭間で揺れる彼らの再生を描く本作は、友情のあり方ひとつとっても従来の青春小説とは何かが違う。彼らもまた大人の事情に翻弄され、ままならない今に成す術もないが、〈心配なんてされたくない〉し、一番裏切りたくないのは自分なのだ。

昨年、小学館文庫小説賞と松本清張賞のW受賞という快挙をやってのけた驚異の大型新人は、押しも押されもせぬ平成2年生まれ。

「私は数を撃たなきゃ当たらないと思って書いてきただけで、たまたまです!」

大の駅伝小説ファンでもある額賀氏が高校時代から構想を温めてきたという最新作では、〈駅伝×料理男子〉という切り口が斬新だ。

「何か面白い切り口はないかなとずっと考えてきて、私は食べることも好きだし、料理が出てくる駅伝小説があってもいいかなって。特にアスリートにとって食事は大事な要素ですし、膝の故障で陸上を諦めかける早馬や、料理をすることで救われてきた都の造形が、まずは浮かびました」

右膝を離骨折して以来、リハビリにも身の入らない早馬は、ある日、生物教師の〈稔〉から通称〈稔の畑〉でアスパラの収穫を手伝わされ、それを調理室に届けるよう頼まれ都と出会う。口も態度も悪い彼女は、〈アスパラと里芋と豚肉の照り焼き炒め〉等々を手際よく完成させるが、これが抜群に美味い。眞家家では母や祖母の死後、家事は父と早馬で回してきたが、都が持たせてくれた料理を野菜嫌いで〈ガキんちょ舌〉な弟は喜んで平らげ、以来早馬は都の指導の下、家族の食事や弁当作りに居場所を見出していく。しかし、県予選で強豪・水堀学園を破り、都大路に出場するべく練習に励む春馬や部長の〈助川〉には早馬が逃げているとしか思えない。そんな早馬に、両親の不仲や周囲の同情に傷ついてきた都は〈逃げたっていい〉〈あいつが自分で気づくまで、気が済むまでやるしかない〉と料理を教え、一方で稔は、都が〈今は誰かと料理をした方がいい〉と思って早馬にアスパラを届けさせたのだった。

勝手な思いが誰か

を支えたりもする

自分の不調が兄に無理を強いたと自責する春馬に〈俺は、お前のためになんか走ってない〉と釘を刺した早馬が実は何を怖れ、〈お前はもう陸上部にはいらない〉と彼を突き放した助川が何を望んでいたか、額賀氏は人々の間で交錯する思いの行方にこそ目を凝らす。

「友達でも家族でも勘違いや行き違いはあって当然で、みんなが同じ歩幅で歩くのだけが正しいのではなく、誰かが遅れたら『遅い!』と率直に言える関係が私は一番いいように思う。独立した1人と1人がいろんなことを思ったり言ったりしながら、何となくがっていればいいと思うんです」

本書は冒頭、早馬が日本農業大4年、助川が英和学院大4年、春馬が藤澤大3年の箱根駅伝から始まり、彼らの高校時代とレースとが交互に進む。また、周囲の〈可哀相〉という言葉に苦しんだ少女時代の都が、彼女が作った青梗菜の炒め物を〈めちゃくちゃ不味かった〉と助川が言ってくれたことで逆に救われることなど、生活感れるレシピの数々が、誰もが格好良くなど生きられない青春に伴走するのも見物だ。

それにしても都と早馬や都と助川にしろ、額賀作品ではなぜ男女の友情が恋愛には発展しないのだろう?

「早馬や都が〈事実を事実として受け入れる心の準備〉にかけた時間とか、悩みや欠落を抱えた男女が恋愛の力を借りずに壁を乗り越える話を、私は書きたかった。裏を返せば恋愛には好きなら何でもOKにさせちゃう力があると思うし、特に10代の恋愛は突破力がハンパじゃない。その無敵さを痛感するからこそ、小説に書きにくいんです」

控えや裏方に至る全員で思いをぐ駅伝に関しても、額賀氏は安易なおためごかしや絆といった流行言葉を悉く疑い、ただ己のために走り、闘う美しさを、その連なりに見出すかのよう。

「私は自分のために小説を書いているし、誰々のためみたいなことを最初に言う人が今イチ信用できないんですよ(笑い)。仮に人のために何かしても、そうしたかったのは自分だし、誰かの勝手な思いが巡り巡って誰かを支えたりするから、駅伝だって面白いんです」

それこそ〈美味いものは美味い〉し、不味いものは不味い。その揺るがなさが時として誰かを支える場合もあり、屹立した点と点が線や、面へと広がる奇蹟を、彼女はこの駅伝小説に描く。そこには成長や感動の形も誰かの受け売りではなく、自らの手でつかみとろうとする、新世代の意思のようなものが感じられるのだ。

●構成/橋本紀子

●撮影/国府田利光

(週刊ポスト2016年2・5号より)

 

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