本との偶然の出会いをWEB上でも

『東京湾岸畸人伝』

【今日を楽しむSEVEN’S LIBRARY】

話題の著者に訊きました!

山田清機さん

SEIKI YAMADA

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1963年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業し、大手鉄鋼メーカー、出版社を経て独立。著書に新潮ドキュメント賞の候補になった『東京タクシードライバー』など。「動いている山田が見たい人は、本の動画投稿コミュニティサイト『本TUBE』をご覧ください(笑い)」。

 

リスクと不安を抱え、

死ぬまで七転八倒する。

そういう人にシンパシー

を覚えて取材するのは

ぼくも、その1人だから

 

6人の男が生きる

苛酷な現実を描きながら

あたたかい筆致が胸に

残るノンフィクション

『東京湾岸畸人伝』

東京湾岸畸人伝

朝日新聞出版 1728円

誰もが知っている有名人はひとりも出てこない。山田さんが執拗に話を聞くのは、東京湾岸で生活をしている6人の無名の人。懸命に生きている彼らを、優しい視線で書き綴っていく。決して安定した生活ではなく、人間の弱さもさらけ出す彼らが、山田さんに漏らす仕事に対する真っ直ぐな姿勢。挫折を知り、年を取って初めてわかる人生の嘆息と希望を感じる一冊だ。

 

東京に長く住む人にとっても、海の見える湾岸地域は、あまり行く機会のない異界のような場所ではないだろうか。そんな東京湾岸に足を踏み入れた山田清機さんは、6人の男に出会う。築地市場のマグロの目利き、横浜港で船の積み荷の揚げ降ろしをしてきた沖仲仕、久里浜の病院でアルコール依存症と闘うデザイナー‥‥。彼らの激しすぎる人生の物語を面白く読ませてくれるのが、このノンフィクションだ。

山田さんは昔から東京湾岸の風物にひかれていた。

「浜松町から羽田に向かうモノレールに乗ると、倉庫や得体の知れない船、そこで働く人たちが見える。内陸に住んで、郊外から都心のオフィスに通う人とは違う人たちがいるんじゃないかと思ったんです」

予想は的中した。そこには知られざる仕事の風景や人生のドラマが眠っていたのだ。

築地市場の目利きは歴史ある大店をやめて小さな店に移り、東京やロサンゼルスの一流寿司店が使うマグロをセリ落とす。高級な部位なら何でもいいのではなく、寿司屋によって脂の乗り、きめの細かさなど、握りやすさの好みがあるそうだ。わずか数秒のセリの間に、何軒もの得意先の好みを考えて落札する。

横浜の沖仲仕は戦後間もない頃の仕事を語る。袋詰めされていないバラバラの豆を船倉から運び出すとき、きつい労働の合間に首まで豆に埋まって仮眠をとった。ほかにも、3回結婚して小学校教諭から能面師になった人、小さな寺の住職に転身した精神科医もいる。

しかし、なぜ有名人ではなく無名の人を描くのか。山田さんは身を乗り出すようにして語り始めた。

「実はあらゆる人にドラマがある。うれしいこと、悲しいこと、時代の波との格闘がある。世の中に名前の出ている人を書こうとすると筆が乗らないんですよ。冷や飯を食っている人、時流に乗っていない人にシンパシーを覚えるたちなんでしょうね」

それは自身と重ねる部分があるからだろう。大学を出て大手鉄鋼メーカーに就職した山田さんは、自分の人生を手の内に握りたいと会社をやめ、レールから降りた。この男たちもどこかでリセットしている。

「ぼくもそうですが、この人たちはリスクと不安を抱え、死ぬまで七転八倒していると思います。世間では大会社の部長になって、子供が仕上がって、死ぬまで安泰という人を幸せというのかもしれない。どちらがいいかわからないですね」

5年前に再婚し、3才の子供がいる。

「人生に成功も失敗もないけど、自分はこの仕事をしたとか、この子を育てたとか、やったと言い切れるものがないとつらい。ぼくの場合は、これを書いたからもういいや、と思えるものを書くしかないですね」

 

素顔を知るための

SEVEN’S

Question-1

Q1 最近読んで面白かった本は?

『山怪 山人が語る不思議な話』。都会版でこういうものを書きたいですね。

Q2 好きなテレビ番組は?

『世界の秘境で大発見! 日本食堂』(テレビ東京系)。出てくる人の物語が面白い。

Q3 趣味は?

秘密基地でのたき火。一昨日も夜中までやってました。

Q4 最近気になる出来事は?

多摩川の増水時の水位が上がっていること。自分の背丈の2~3倍の高さの木にガレキが引っかかっているんですよ。

Q5 1日のスケジュールは?

6時半起床。朝食後、子供を保育園に送り「誰のおじいさん?」などと言われて傷ついて帰宅。そのあと近所の多摩川の河原に行くのが日課。9時から5時まで仕事。お迎えは妻と交代で。子供を寝かしつけて、少し仕事をして就寝。

Q6 今後書きたいことは?

東京3部作にしたいと考えていて、今、何をテーマにしようか考えています。

 

(取材・文/仲宇佐ゆり)

(撮影/三島正)

(女性セブン2016年3月3日号より)

 

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