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ビジネス小説の第一人者・楡周平が「ニッポンの大問題」を斬る!! 【馬鹿につけるバカの薬】第1回:外国人移民政策で、どうなる日本?

つねに時代の先を読み、予測を的中させてきたビジネス小説の旗手・楡周平が、ニッポンの近未来に警鐘を鳴らす! もはや政治家、官僚に任せてはおけない。すべての日本人を覚醒させる一刀両断のノンフィクション。
第1回は、外国人労働者の激増がもたらすこの国の未来像に迫る! 外国人移民は人口減少対策となり得るのか?

馬鹿につけるバカの薬 アイキャッチ
 

日本は魅力的な国なのか

 人口維持に必要な子供の数、いわゆる合計特殊出生率の人口置換水準は2.1といわれています。1人の女性が生涯に2.1人の子供を産んで、初めて人口維持が可能となるわけです。
 日本の合計特殊出生率がこの数値を割り込んだのは1974(昭和49)年、以降徐々に減少を続け、2018(平成30)年では1.42、出生数に至っては1899(明治32)年の調査開始以来最低の91万8397人となりました。
 人口減少は深刻な問題です。
 人口の減少は市場の縮小を意味しますから、内需に依存する日本経済にとってはなおさらのことです。
 近年、人口減少の打開策として、日本人が子供を産まないのなら、移民によって人口を維持しようという声を頻繁に耳にします。しかし、果たしてそれで問題は解決できるのでしょうか。
 私は東京の都心部に住んでいますが、コンビニ従業員や宅配便の配送員等、外国人労働者の姿を見るのは日常の光景です。特にコンビニで働く外国人は、母国語に加えて日常会話程度なら日本語もこなすバイリンガル、中には英語もできるトリリンガルも少なくありません。業務も的確にこなすし、日本人のバイトと同レベル、むしろそれより優秀な人間も少なくないように感じます。
 確かに人口減を移民で補うのは即効性のある対策には違いありません。しかし、日本への移民の門戸が広く開放されたとしても、果たしてどれほどの外国人がやってくるのでしょう。労働、生活の場として、日本は魅力的な国なのでしょうか。
 海外のウエブサイトやSNSを見ていると、社会の安全性、清潔さ、規律、秩序、サービス、食文化と、日本を絶賛するコメントが圧倒的に多いのですが、それらの大半は旅行者のものです。
 大抵の場合、旅行の費用は全額個人負担です。個人差はあれど、ある程度のおカネを持って来日し、宿泊施設に滞在しながら各地を回り、名所、旧跡を訪ね、食を味わい、あるいは酒を呑み、旅を楽しむ。日本の食はバラエティに富み、美味しさの点でも世界トップクラスですし、日本人のホスピタリティの高さもまた同じ。街は清潔、安全だし、交通機関も世界に類を見ないほど正確で、快適な移動が保証されています。一度来日すれば、日本に恋してしまう外国人が続出するのも理解できます。
 ならば、労働の場としての日本はどうなのでしょう。
 少なくとも働くことを考えた場合、日本は極めて魅力に乏しい国だと言わざるを得ないでしょう。
 終身雇用制度こそ過去のものとなりつつあるとはいえ、日本企業には年功序列の概念がいまだ不文律として根強く残っています。大企業の多くでは、今に至っても一定の年齢に達するまで、多くは20代のうちに昇進に差がつくことはまずありません。賃金、昇格に差がつき始めるのは管理職になってから。高い能力があろうと、優れた実績を挙げようとも、若くして高給を()み、高いポジションに就くことも期待できません。
 しかも職場での標準言語は、圧倒的多数が日本語ですから、少なくとも日本企業に職を求める場合、自国語と日本語のバイリンガルであることが必須の条件になるでしょう。
 もしバイリンガルかつ、日本企業に採用されるだけの能力を身につけている外国人がいたとしたら、特に欧米人の場合、まず間違いなく駐在員として日本にやってくる機会を狙うでしょう。
 というのも、欧米企業の駐在員の待遇は、実に手厚いからです。
 遥か昔の話になりますが、ベトナム戦争真っ盛りの頃、アメリカ国内で流された兵士募集のテレビコマーシャルでは、最前線でも温かい食事が供給されるのが誘い文句の一つでした。
 世界のどこへ行こうと本国と同じレベルの生活が保証されるのは、現在に至っても変わりはありません。
 外資系企業の駐在員が多く住む地域は、東京都心部の高級住宅地に集中していますが、米国同様の広さの住居となると、ワンルームでも月額30万円を下回ることはまずありません。上位職責者、家族連れともなると、100万円台はざら。もちろんその賃料は全額会社負担です。さらに子弟の教育費、医療費、年に何度かの帰国費用(もちろんビジネスクラス以上)等々、様々な費用が会社負担となるのです。
 加えて有能と見なされた人間は、最初から高給をもって迎え入れられますし、実績を上げれば入社年数に関係なくしかるべき地位が与えられ、高額な報酬が得られるのです。
 片や日本企業はどうでしょう。
 昨年辺りから、優れたスキルを持つ新卒者を、初任給1000万円以上の高待遇で採用する方針を打ち出した企業が何社かあって、ちょっとした話題になりました。転職者ともなると、最初から30代にして年額2000万円、中には3000万円の報酬を貰っている人もいるそうですが、日本企業がそれだけの報酬をもって迎える人材ならば、アメリカではもっと高額な報酬を得られるでしょう。
 少なくとも報酬、待遇の二つの点だけを取っても、『優秀』な外国人が、単に日本が好きだから、住みたいからという理由で移住を望むとは思えません。

 

日本への移住を望む外国人とは?

 いずれの国の人間であろうと、移住を望む最大の動機は、暮らしが劇的に改善される、遥かにいい生活が送れる点にあるでしょう。
 して考えると、もし日本政府が移民をもって人口減を補おうとした場合、どんな人たちがやって来るのか。
 前のパラグラフで、欧米企業で働く人間が日本に駐在した場合の待遇を紹介しましたが、彼らのような人間が日本企業で働く道を選ぶことはまずあり得ない。となると、移民として日本にやって来るのは、英会話教師のような気ままに働く欧米人か、日本よりも国力、経済力が遥かに劣る国の人たちということになります。
 もちろん、その大半は日本語ができません。おそらく突出した技術や能力もない。しかし、日本で生活するからには、まず収入を得なければなりません。となると彼らが従事できる職種は極めて限られます。
 体を使う、つまり肉体労働。それも日本語を必要としない職場です。
 近年、ネット通販の急速な普及によって、宅配便のターミナルでは、すでに外国人労働者がたくさん働いています。これから先も宅配便の物量は増加の一途を辿るでしょう。荷物の積み卸しなら、日本語力をさほど必要としないでしょうから、こうした職場が雇用の受け皿になることは間違いありません。ビルや道路の工事現場等、肉体的にきつい仕事であるがために、慢性的な人手不足に悩んでいる業種は多々あります。働き口はいくらでも見つかるでしょう。
 しかし、日本語をあまり必要としない労働に大量の移民が従事するようになり、定住人口として増加していくことになれば、後に日本社会は極めて深刻な問題に直面する可能性があると、私は考えています。
 それは、日本人が今に至るまで、営々と積み重ねてきた知の所産にアクセスできなくなるということ。日本語という言語の死滅です。

 

移住者は母国語、日本語のどちらに重きを置くか

 慢性的な労働力不足に直面している職種に共通するのは、いわゆる3K(きつい、きたない、危険)であることです。その中にも一定水準の技術が必要とされる職種があるにせよ、日本語をそれほど必要としない仕事となると、給与水準は低くなる。昨今の日本企業の経営姿勢からすると、正社員は最低限に抑え、雇用の調整弁として使える非正規従業員で労働力を賄う傾向にありますから、時給採用となるでしょう。
 もちろん、母国の貨幣価値に比べれば、円で支払われる給与は高額です。しかし日本での生活コストは母国の比ではありませんから、集団生活で部屋代や食費を節約しにかかることになる。
 労働の現場では日本語を然程必要としない。家に帰れば、母国語オンリー。需要のあるところに商売が発生するのは世の常です。国を同じくする人間が営む商店ができ、そこでも母国語が通じるとなれば、日本語を身につける気になれるわけがありません。そして、母国語で不自由なく生活できる環境が整うに連れ、さらに同国人が集まるようになり、やがて一大コミュニティが形成される。
 埼玉県の西川口は、その典型的な例です。
 かつて東京近郊の風俗街として名を馳せた西川口は、行政の浄化政策の結果、今やすっかり様変わり。中国人が経営する料理屋が軒を連ね、看板はもちろん、自販機や電柱に貼られた怪しげな広告も全て中国語です。本国から直輸入した食品や酒、飲料が棚を埋め尽くし、魚屋で売られている海産物は、日本の店ではあまりお目にかからないものばかり。肉屋にしても、肉塊を中華包丁でぶった切る中国流です。近くには中国人居住者が圧倒的多数を占める団地がありますから、もちろん客は中国人がメインです。
 夕食時に料理屋に入れば、週末こそ日本人の姿も目にしますが、平日の客は大半が中国人。料理の味は悪くありませんし、メニューも豊富で、何よりも料理の値段が日本人の感覚からすると極めて安く、中国にいるような錯覚に陥ります。
 そして印象的なのが、彼らの食事のスタイルです。
 アルコールを口にする中国人はほとんどいません。百以上もある料理の中で1000円に達するものは皆無。一品の料理を数人で囲み、白飯片手に平らげるのです。
 なるほど、これなら低収入でもやっていけるかも、と納得した次第ですが、移民が増えるに連れ、こうしたコミュニティがあちらこちらに出来ていけば次に何が起こるかは明白です。

 
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人口減少を補う移民政策で、日本中に外国人コミュニティが出現⁉(写真は横浜中華街)
 
 

 日本人の感覚からすれば、決して豊かとはいえなくとも、母国に比べれば遥かにマシ。やがて生活基盤が安定すれば、家族を呼び寄せ子供を産む。養う人間が増えれば、それまで以上に収入が必要になりますから、母親も働きに出る。そして子供の面倒を見るために、祖父母がやってくる。
 近年、限界集落が頻繁に話題になるように、地方には過疎化が急激に進む市町村がたくさんあります。空き家はもちろん、耕作放棄地も激増していますから、そういった地域に外国人が集団で住むようになれば、日本人はマイノリティ、外国人がマジョリティという町が日本全国にできあがってしまっても不思議ではないのです。
 さて、問題はそこからです。
 同国人のコミュニティが肥大化するに従って、母国語で暮らせる環境は充実していく。移民二世は日本の義務教育を受けることになりますから、日本語はある程度身につくでしょう。しかし、親は日本語が不得手となれば、家庭でのコミュニケーション言語は母国語になるはずです。
 日本人の子供が減少する一方ならば、外国人のコミュニティ人口が増加するに連れ、学区内の移民児童の比率は高まるばかりとなるはずです。さらにコミュニティの中での生活も母国語で十分事足りるとなれば、日本人と同等の日本語能力が身につくとは思えません。
 そして前述したように、移民は生活の質の向上を求めてやって来るのですから、もっといい暮らしが送れる国があると分かれば、簡単に日本を出て行くでしょう。
 華僑がそうですね。
 実際アメリカに住む中国系の友人の家族パーティに招待されたことがあるのですが、その際に兄弟はドイツ、オーストラリアと分かれて住んでいると聞かされて訊ねたところ、「国の情勢は刻々と変化する。より住みよい国で暮らすために、常に情報交換を怠らない」といい、「僕らは、国を信じていないから」と言われたのには驚きました。
 もちろん移民の全員がそうした考えを持つわけではないでしょう。しかし、日本に移住したことによって、暮らしが改善されたとしても当面の話。よりよい暮らしを欲するのが人間です。
 ところが移民一世、親は日本語の壁に阻まれ、収入が上がらない。より高い収入を得るためには、子供たちに高い教育を身につけさせなければならないと考える親も出て来るでしょう。しかし、これは「言うは易く行うは難し」というもので、仮にネイティブレベルの日本語能力があったとしても、塾通いで受験に備えてきた日本人との戦いになるのですから、ある程度の所得がなければ難関校に合格するのは容易なことではありません。
 結果的に、ある程度おカネを稼いだところで母国に帰るか、あるいはもっといい暮らしが送れる国に移り住む人も少なからず出て来るでしょう。となると前者の場合はともかく、後者の場合、まず身につけなければならない必須の言語とは何でしょう。
 少なくとも、日本語でないことは明らかです。

 

次回は3月30日(月)に公開予定です。

プロフィール

楡 周平(にれ しゅうへい)

1957年岩手県生まれ。慶應義塾大学大学院修了。米国企業在職中の1996年に『Cの福音』でデビュー、翌年より作家活動に専念する。「朝倉恭介シリーズ」「有川崇シリーズ」「山崎鉄郎シリーズ」をはじめ、『再生巨流』『介護退職』『虚空の冠』『ドッグファイト』『プラチナタウン』『ミッション建国』『国士』『バルス』等、緻密な取材に裏付けられた圧倒的スケールの社会派エンターテインメント作品を世に送り出している。近著に『TEN』『終の盟約』『サリエルの命題』『鉄の楽園』がある。

 
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