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ビジネス小説の第一人者・楡周平が「ニッポンの大問題」を斬る!!【馬鹿につけるバカの薬】第5回:大企業に就職すると、人生のリスクが高くなる!?

新入社員、若手社員、就活生も必読!! つねに時代の先を読み、予測を的中させてきたビジネス小説の旗手・楡周平が、ニッポンの近未来に警鐘を鳴らす! もはや政治家、官僚に任せてはおけない。すべての日本人を覚醒させる一刀両断のノンフィクション。
第5回は、就職先としての大企業の危うさに迫る。長い時間と大金を費やし、親子一丸となって「いい大学」から「いい会社」へ、将来の安定を目指した先に待ち受ける、大企業の落とし穴とは?

 

大企業への就職はリスクの高い選択

 日本にせよ、中国、韓国にせよ、受験に膨大な時間とおカネを費やし、高学歴を修めようとするのには、それぞれの理由があるでしょう。
 しかし、今の時代に至ってもなお、最大の理由は、どんな道に進むにしても有名校を卒業すれば選択肢が増える、つまり就職をする際に有利になるという考えにあると思います。
 最近では就職活動を控えた学生の保護者に向けて説明会を行なう大学があるそうで、その場では父兄の間から、こんな質問が出ると聞いて驚きました。
 曰く、「大企業と中小企業とでは、生涯賃金が億単位で違うといいますが?」。
 確かにそうかもしれません。
 大企業といっても賃金体系は様々です。初任給はほとんど同じでも、入社後の昇給額には企業によって差がありますし、日本企業と外資系企業、中でも本社の賃金体系で採用されれば雲泥の差という職種もある。投資銀行などは、その最たるものといえるでしょうが、中小企業と比べると、大企業の給与水準が高額なのは事実です。
 ですが、「大企業と中小企業とでは──」とおっしゃるのなら、私ならこう答えます。
「それは、あなたのお子様が最後まで会社にいられればの話です」
 近年、有名大学を卒業しても大企業への就職を望まず、ベンチャー企業への就職、あるいは起業を目指す学生が増えていると聞きますが、まだまだ大企業への就職人気が高いのは事実でありましょう。
 かつてのように、就活解禁日ともなると有名企業が入るビルの前に学生が列をなす光景を見ることはなくなったものの、多くの企業が殺到するエントリーシートを処理できず、学校名やSPIの成績でスクリーニングし、事実上の指定校制度を設けています。そこから漏れた大学に入学しようものなら面接どころか説明会にすら参加できません。もちろん、これは公然の秘密。親が子供の教育に熱を上げ、有名大学への進学を熱望するのは、全ては子供の将来を思えばこそのことなのですが、大企業への就職は果たしてそれほど魅力的なものなのでしょうか。
 そんなことはありません。むしろ、企業規模が大きくなればなるほど、サラリーマン人生半ばにして、淘汰されてしまうリスクが高いと断言しましょう。

 

企業規模が大きくなるほどハイリスク!?「大企業に就職すれば一生安泰」の時代は終わった
 
 

 日本の大企業では、通常は入社後一定の年月が経つまで同期入社の間では昇格に差がつきません。会社によって名称は様々ですが、管理職扱いになる肩書きが与えられるまでは、横一線で昇格していくのが一般的です。
 しかし、これはあくまでも肩書きがつくというだけのことで、実際に地位に相応ふさわしい仕事を任せられるかどうかは別の話です。そして、この最初の肩書きを与えられた時から、本当の意味での生存競争が始まるのです。
 当たり前のことですが、その職責を任せるに足ると認められなければ管理職に就くことはできません。しかも、入社年次で前後3年、ないしは5年くらいの同僚とポストを争うことになるのですから、本当の意味での管理職、たとえば課長にすら昇格できない人も出てきます。
 本当の意味で課長職を経験していなければ次長にはなれません。管理職になれば、これまで以上に人事考課が給与や賞与に反映されてきますから、昇進がかなわなければ年収もなかなか上がりません。いや、そもそもが優れた実績を挙げれば、否応なしにポジションは上がり、それに応じて報酬も上がっていくものです。そして、課長から次長へ、次長から部長へ、やがて役員へと昇進を重ねるごとに、椅子の数はどんどん少なくなっていく。
 出身校のレベルはほとんど同じ。能力だって、採用するに値すると見込まれた人間ばかり。金太郎飴とはいいませんが、似たもの同士が最終的に一つしかない社長の椅子を巡る争奪戦を強いられるのが大企業なのです。
「俺は出世を望まない。定年を迎えるその日まで、会社にいられればそれでいい」なんて気持ちでいたら、たちまちのうちに淘汰されます。
 当たり前ですよね。実績を挙げなければ有能な人材とは見なされない。有能と認められれば、それに相応しい仕事と役職が与えられる。大企業の社員のほとんどは、厳しい受験競争を勝ち抜いてきた者ばかりです。一流校に入学するためには、1点でも高いスコアをあげることが求められます。逆の言い方をすれば、高いスコアを出さずして、目指す学校には入れない。何のことはない、大企業の社員は、日々受験生と同じ生活を送っているようなものなのです。
 まして、今の日本企業では役職定年制を導入しているところがたくさんあります。一定期間内に昇進が果たせなければ、ポジションを外される。そんなことになろうものなら、給与は激減、仕事の内容も悪い意味で大きく変わる。要は、「あんたは、終わった人だから」と厳しい現実を突きつけられることになるのです。
 誰の言葉か定かではないのですが、「組織において優秀と見なされる人間は2割。その2割の人間でチームを作ると、やはり優秀なのは2割」と聞いたことがあります。
 多分、本当のことだと思います。なぜなら組織において人の評価は相対評価。上から順に成績をつければ、優秀と評価できるのは、2割がいいところでしょう。
 本当の意味で課長に昇格できるのは同期の中の何割か。次長、部長と昇格するに連れ、高評価を得られる人間の数はどんどん減っていく。そのステージのいずれにも役職定年があり、昇格が止まれば閑職に甘んじるか、出向、果ては子会社や関連会社に移籍を強いられる。何のことはない。大企業に入社したつもりが、中小企業の社員になっていたということだって起こり得るのです。
 さらに、役職定年以前の問題として日本企業を取り巻く環境は、年々厳しさを増しています。もはやリストラは当然のごとくに行なわれますし、事業からの撤退によって事業部そのものがなくなってしまうこともある。それどころか、気がついてみれば、自分が入社した当時は誰もが羨む大企業、学生の就職人気ランキングで上位にあったのが、今や見る影もない。消滅してしまった企業だって山ほどあるのです。
 これで、どうして「大企業と中小企業とでは──」なんて質問が出るのか、私には理解できません。
 これからの時代を生きていく若い世代は、間違いなく、私たち現役を退いた世代はもちろん、親の世代の常識や価値観が全く通用しない時代を生きることになります。長い時間と大金を費やして、少しでもいい大学に入ればいい会社に就職できる、それが子供の安定した生涯に繫がると考えているのなら大間違い。むしろ、危険に晒すことになるでしょう。

 

次回は4月27日(月)に公開予定です。

プロフィール

楡 周平(にれ しゅうへい)

1957年岩手県生まれ。慶應義塾大学大学院修了。米国企業在職中の1996年に『Cの福音』でデビュー、翌年より作家活動に専念する。「朝倉恭介シリーズ」「有川崇シリーズ」「山崎鉄郎シリーズ」をはじめ、『再生巨流』『介護退職』『虚空の冠』『ドッグファイト』『プラチナタウン』『ミッション建国』『国士』『バルス』等、緻密な取材に裏付けられた圧倒的スケールの社会派エンターテインメント作品を世に送り出している。近著に『TEN』『終の盟約』『サリエルの命題』『鉄の楽園』がある。

 
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