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ビジネス小説の第一人者・楡周平が「ニッポンの大問題」を斬る!!【馬鹿につけるバカの薬】第14回:テレワークの普及が少子化問題解決の鍵になる!?

新入社員、若手社員、就活生も必読!! つねに時代の先を読み、予測を的中させてきたビジネス小説の旗手・楡周平が、ニッポンの近未来に警鐘を鳴らす! もはや政治家、官僚に任せてはおけない。すべての日本人を覚醒させる一刀両断のノンフィクション。
第14回は、働き方の変化がもたらす地方への人口分散の可能性について。前回、述べられたのは、大都市に偏った一極集中型社会の脆弱性と危険性。都会での便利な生活には、一旦災害が起こればすべてが覆される潜在的な危機が常につきまとっているが……。

会社のあり方、居住地の価値観が変わる可能性

 さて、そう書くと、「じゃあ、地方に住めというのか。地方には職がないじゃないか。何をやって生活すんだよ」という声が聞こえてきそうですね。
 その通りです。生活が成り立つのも収入があればこそ。過疎高齢化が進む一方の地方に職がないのは事実です。あったとしても、都市部に比べて給与水準が見劣りするのもまた事実。
 しかし、ものは考えようです。
 今回のコロナウイルスの自粛要請に際しては、社員の通勤時の感染リスクを回避するために、テレワークを用いた会社が少なからずありました。
 緊急事態が宣言されてひと月。2020年4月30日、Uniposが全国でテレワークを実施している上場企業の管理職333名と20歳以上の正社員(一般社員)553名を対象として、「テレワーク長期化に伴う組織課題」に関する意識調査を公開しました。
 まず、一般社員に対して「チームの生産性はテレワーク開始前と比較してどのように変化したか」と質問したところ、「とても低くなった」「やや低くなった」と回答した人の割合は合計で44.6パーセント。「とても高くなった」「やや高くなった」と回答した合計が7.6パーセント。
 管理職になると、前者の割合が38.7パーセント、後者が9.6パーセントと、双方共にネガティブな反応を示す人が圧倒的多数です。
 しかし、興味深いのは、管理職と一般職の双方に対して行なわれた「新型コロナウイルス感染症が収束した後も、会社にテレワーク推進を望むか」という質問に対する回答です。
「とても望む」「やや望む」と回答した人は、管理職56.1パーセント、一般社員41.0パーセント、「全く望まない」「あまり望まない」と回答した管理職14.1パーセント、一般社員21.9パーセントを共に大きく上回る結果になったのです。つまり管理職、一般職の双方が、テレワークという業務形態を否定するどころか、むしろ肯定的に捉えているのです。
 相矛盾する結果となったのは、おそらく十分な準備をする時間がなく、突然テレワークで仕事を行なうことを強いられるようになったからでしょう。
 これは実に興味深い傾向で、IT技術が進歩し、通信網が整備され、高機能ツールが続々と誕生しても、毎日会社に通勤し、同僚と机を並べて職務をこなし、仕事を終えれば帰宅の途につく。それが会社員の働き方だと、大半の人たちが何の疑問も持たずにきたことの証といえるでしょう。
 実際、IT企業の中には、コロナウイルス感染症が出現するだいぶ前から、全社的にテレワークを標準としてきた会社も少なからず存在します。
 従業員は数百名。本社を東京に置いていても、オフィス自体は極めて小さく、そこで働く従業員はごく僅か。社員の大半は日本各地に分散して居住し、それも北海道から沖縄までと広範囲。
 それで会社の業務が滞るかといえばそんなことはありません。いまの技術を駆使すれば、画面を介するか、面と向かって話をするかの違い程度でしかありません。強いて難点を問えば、「同僚と頻繁に飲むことができないこと」という答えが返ってきたのには、思わず笑ってしまいました。
 多分、これは本当のことだと思います。
 経営的な見地からも、テレワークには労使共に大きなメリットがあります。
 経営サイドに生ずる最大のメリットは、何といっても、オフィスの賃借料を極限まで削減することができる。それどころか、ゼロにすることも十分可能だという点です。
 自社ビルを持つ大企業は沢山ありますが、賃貸という企業も数多くあります。地方に本社を置く企業ともなると、東京はもちろん、地方都市の支社、営業所は賃貸という企業が多いかもしれません。
 都心の一等地にある高級オフィスビルに入居している企業はもれなく賃貸ですし、外資系ともなると、圧倒的多数が賃貸で、自社ビルを持つ企業は僅かです。
 都心の一等地の賃貸料は極めて高額で、私がサラリーマンをしていた25年前でさえ坪数万円(多分、企業規模によって差があるはずですので、敢えてビル名と金額は伏せます)、それも何フロアーと借りるのですから、相当な金額になります。
 加えて什器備品、社員の通勤費、企業によっては社員食堂の運営費、駐車場等々、社員が一堂に会して働いてもらう環境を整えるだけで毎月、毎年、会社が存続しつづける限り、莫大な固定費が発生するのです。
 それが、テレワークを全面的に導入すれば、ゼロになるかもしれない。極限まで削減できる上に、人員増、人員減にも即座に対応できる。それもコストをほとんどかけることなくとなれば、テレワークに魅力を感じない経営者は、まずいないはずです。
 当たり前のことですが、固定費は少ないに越したことはありません。
 それは、企業のみならず一般家庭にもいえることです。
 人間、成功を収め、大金を手にすると、豪邸や別荘、高級車等を購入しまくる傾向がありますが、順調に収入があるうちはいいのです。何かの拍子で収入が落ち始めると、順調だった頃には気にならなかった固定費が重くのしかかってくるものです。一等地に家を構えれば、毎年高額な固定資産税を支払わなければなりません。別荘も同じで、それに加えて維持費もかかる。自動車だって自動車税にメンテナンス料が発生するし、複数のゴルフ会員権を持とうものなら、毎年年会費がかかります。収入に合わせて出費を抑えようにも、固定費は待ったなし。身の丈にあった暮らしを送ることが、困難になってしまうのです。
 会社だって同じです。オフィスを構えることによって発生する固定費を削減できれば、そこで浮いたおカネを事業発展の資金、あるいは従業員の報酬に回すことだってできるのです。
 さらに、最大のメリットは、今回のような突発的な事態が発生した場合のリスクヘッジになるという点にあるでしょう。
 たとえば、東京が大震災に見舞われたとしましょうか。
 交通機関が遮断され、オフィスも倒壊とはいかずとも、中はしっちゃかめっちゃかで業務再開までどれほど時間を要するか分からない。これも機能を集約することのリスクの一つですが、テレワークが標準という企業は違います。本社の機能が停止しても、全国に従業員が分散していれば、被害を受けなかった、あるいは軽微で済んだ地域に居住する社員が、継続して業務を行なうことが可能になります。
 そして、社員側のメリットは、通勤に費やす時間と労力から解放されるというのがまず一点。居住地域に制限がなければ、沖縄であろうと、北海道であろうと、その人の嗜好やライフスタイルに合った場所に生活の拠点を置くことが可能になります。
 故郷で暮らすも良し。マリンスポーツが趣味なら沖縄。スキーやスノボなら北海道や長野。畑仕事をしたいなら、休耕地は日本全国にたくさんあります。
 その時の嗜好に合わせて居住地を変えることだってできるでしょう。
 そして、地方に住む最大の魅力は、東京のような大都市に比べれば、生活費が格段に安くつくということにあります。
 地方で東京並みの収入が得られれば、おカネの価値は格段に上がります。まして、ネット通販でほとんどの物が購入可能な時代です。買い物だって、居ながらにして手に入るのですから、東京にいるのと遜色ない生活が送れる環境は既に整っているのです。
 もちろん、同僚と毎日顔を合わせることはできません。頻繁に飲みに行くこともできません。それでも、会社勤めをしていれば、月に一度、あるいは年に数回、会議や出張で本社に出向くこともあるでしょう。年に一度、あるいは複数回、どこぞの温泉宿で一同が集い、宴会を開催するなんてのも楽しいかもしれませんね。
 最近の若い世代は飲み会、特に上司との酒席を嫌うそうですから、ごくたまに実際に顔を合わせる程度の方が、むしろいいのかもしれません。その点も好都合ですね。

 

テレワーク最大のメリットは、通勤に費やす時間と労力からの解放!?
 
 

 もちろん、テレワークを行なっている方々から、否定的な声が沢山上がっていることは知っています。ですが、自分が慣れ親しんできた環境が一変してしまう状況に直面すると、否定的な声を上げるのは人間の常です。
 オフィスが移転すると、通勤が不便になったといい、パーティションが設置されると、部下の管理ができないという。パソコンのOSだってそうでしょう。新バージョンをダウンロードすることを強いられると、前のバージョンの方が良かったという声が必ず噴出するものです。
 しかし、そんな声は時間の経過と共に消え去ってしまう。文句をいいながらも新しい環境に慣れるにつれ、それが当たり前になってしまうのです。
 テレワークにしても、同じことがいえるでしょう。「コミュニケーションが取りづらい」「相手の表情の微妙な変化を察知するのが難しい」「部下を管理できない」。家庭が職場になることに関しては、「プライベートと仕事のめりはりがつかない」「子供がうるさくてかなわない」とか、主婦の間からは「旦那が日がな一日家にいると、三度の食事を支度しなければならない」、共稼ぎだと「家庭内にめいめいの仕事場所がない」とか、様々な声が上がっています。
 しかし、そうした声が上がるのも、テレワークを初めて経験するからではないでしょうか。家にいるのが日常となれば、時が経つにつれそれが当たり前となり、家庭内に双方の仕事場を設けられないならば、解決するすべに知恵を絞るようにもなるでしょう。
 まして、需要はビジネスチャンスの到来でもあるのです。テレワークを導入する、あるいは導入を考える企業が相次げば、問題点を解消し、快適な環境を整えようと、様々なツールが開発されるはずです。後で振り返れば、かつての難点は解消され、もはやそれを使わない生活は考えられない。携帯電話がスマホへと進化し、一時も手放すことのできない人が、いかに多いか。
 それが技術の進歩であり、技術の歴史なのです。
 今回のコロナ禍は、私たちの身に染みついた既成概念や価値観を見直す機会になると私は考えています。
 会社の命とあれば、感染覚悟で出社しなければならない。感染拡大を防ぐためには、営業活動を停止しなければならない。商機に満ち溢れ、文化、教育、あらゆる面で最高の環境が整っていたはずの大都市が、目に見えぬウイルスの出現で、地域全体が、そこで働く人間たちの全員が窮地に立たされることになったのです。
 賢明な経営者ならば、今回の件で機能が一極に集中することの危険性に気がついたはずです。テレワークの功罪も徹底的に分析するでしょう。その結果、テレワークを積極的に導入しようという企業が相次げば、地方への人口分散という現象に繫がるかもしれません。その結果、地方の過疎高齢化に歯止めがかかり、家計に余裕が生ずることによって、複数の子供を持つことができる。
 かくして、少子化問題が解決する兆しが見えれば、この国の将来に希望が生まれる。私は、そう信じたいのです。

 

次回は7月6日(月)に公開予定です。

プロフィール

楡 周平(にれ しゅうへい)

1957年岩手県生まれ。慶應義塾大学大学院修了。米国企業在職中の1996年に『Cの福音』でデビュー、翌年より作家活動に専念する。「朝倉恭介シリーズ」「有川崇シリーズ」「山崎鉄郎シリーズ」をはじめ、『再生巨流』『介護退職』『虚空の冠』『ドッグファイト』『プラチナタウン』『ミッション建国』『国士』『バルス』等、緻密な取材に裏付けられた圧倒的スケールの社会派エンターテインメント作品を世に送り出している。近著に『TEN』『終の盟約』『サリエルの命題』『鉄の楽園』がある。

 
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