本との偶然の出会いをWEB上でも

「大統領暗殺未遂事件」を扱った作品がアメリカでベストセラー-ブックレビュー from NY【第2回】

NY在住の佐藤則男の「NYブックレビュー」。今回はアメリカで今も慕われる元大統領のレーガン大統領暗殺未遂事件をノンフィクションで書いた「レーガン危機一髪」。人気の訳を語ります。

国民的人気を誇った男は「大統領クビ」寸前だった

 

というわけで、今回はランキング3位に入ったKilling Reaganを取り上げたい。1981年に起きたレーガン大統領暗殺未遂事件を扱ったノンフィクション作品である。

著者のBill O’Reilly (William James O’Reilly, Jr.)は、政治評論家、TV番組ホスト、ジャーナリスト、コラムニスト、作家である。なんといっても彼の名は、アメリカのテレビニュースショーで視聴率トップを走るFox News Channelの「The O’Reilly Factor」という番組で知られている。この番組は、一日平均338万人の視聴者を持ち、同じケーブルニュースチャンネルのCNNやMSNBCなどの番組を遙かに凌いでいる。番組自体は、完璧なほど《右寄り》であり、それを理由に嫌う人も少なくない。

番組で、オライリー氏は早口でしゃべりまくり、《左寄り》のゲストを招いては、完璧にやり込める。明らかに行き過ぎであると批判する人もいる。しかし《右寄り》の人には、こたえられない快感があるようだ。アメリカのほかのテレビ局は、CBS, ABC, NBCの3大ネットワークをはじめ、ほとんど《左寄り》だという事情もある。

今回の作品は「キリング・レーガン:大統領職を変えてしまった襲撃」と副題が付けられている。ビル・オライリーがマーティン・デュガードと共著で出版した「キリング」シリーズ(注1)の第5作である。

前半はアイオワの地方ラジオ局のスポーツ部門で働いていたロナルド・レーガンがふとしたきっかけで憧れのハリウッド俳優になったことから始まる。次第に政治に興味を持ち、俳優組合や反共産主義の活動を通して活動の場をハリウッドから政治の舞台に移し、ついにはカリフォルニア州知事を経てアメリカ大統領になるまでの足跡を3人の元大統領、ニクソン、フォード、カーターとの関わりを含めて描いている。

暗殺未遂事件はレーガンが大統領になって約2か月後の1981年3月30日にワシントンのヒルトンホテルでのスピーチの後に起こった。総合失調症におかされていた犯人のジョン・ヒンクレーは、映画「タクシードライバー」に出演していた女優のジョディ・フォスターが自分の恋人であると妄想し、彼女の関心を引くために大統領暗殺を決意した。

大統領が銃弾を受けて病院で生死をさまよっている時、ホワイトハウスのシチュエーションルームは混乱状態だった。当時、レーガンの対ソ強硬政策で米ソの緊張は高まっていた。大統領が倒れるや否や、ソ連の潜水艦がアメリカの東海岸に接近、ミサイルが11分でワシントンに到達する距離まで迫ったのである。最悪の事態に備え、核ミサイル発射の暗号が入っているブリーフケース(フットボール”the football”と呼ばれている)がシチュエーションルームに持ち込まれた。しかし、大統領不在時に暫定大統領となるべきブッシュ副大統領は、たまたまホワイトハウスにいなかった。

誰がこの危機を仕切るのか? 突然、アレクサンダー・ヘイグ国務長官が「暫定大統領になる」と自ら宣言し、すぐに上階のプレスセンターに行って「自分がホワイトハウスを仕切っている」とテレビで発表した。法的には副大統領不在の場合は下院議長が暫定大統領になるはずだが、このような外交的危機の下では、ベトナム戦争や朝鮮戦争のヒーローで《4つ星階級章》将軍であるヘイグの宣言に反対できる閣僚は一人もいなかったのである。

3時間後、ブッシュ副大統領がホワイトハウスに帰還し、超法規的措置だったヘイグ暫定大統領は“退任”した。3時間の違法な暫定大統領ではあったが、《フットボール》を使用する必要もなくソ連を牽制する効果は大いにあった。

事件当日のレーガン大統領、ナンシー大統領夫人、そして暗殺者ヒンクレーの朝からの行動、暗殺未遂直後のホワイトハウスの緊迫した状況が、まるでサスペンス小説のように描かれている。

(注1)Killing Lincoln (2011); Killing Kennedy (2012); Killing Jesus (2013); Killing Patton (2014)

記事一覧
△ 「大統領暗殺未遂事件」を扱った作品がアメリカでベストセラー-ブックレビュー from NY【第2回】 | P+D MAGAZINE TOPへ