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アメリカ人で根強い人気があるファンタジー・古代戦記の名作がベストセラーに!-ブックレビュー from NY【第3回】

NY在住ジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラーランキング。今回は、映像化もされやすいジャンル「ファンタジー・古代戦記」から、注目の作品を紹介します。

今回トップ10ベストセラー入りをしている本の著者は、すべてベテランのベストセラー作家である。特にピューリッツァー賞作家の作品が2つ入っている。エリザベス・ストラウトの“My Name is Lucy Barton”(2位)、とアンソニー・ドーアの”All the Light We Cannot See” (3位)だ。ピューリッツァー賞作家の底力はアメリカの文壇を支える一大勢力を形成している。

人気シリーズの最新作が4作品入っている。ジョン・グラシャムの”Rogue Lawyer”(7位)とステュワート・ウッズの“Scandalous Behavior”(9位)は、それぞれおなじみの主人公が登場するシリーズものの最新作だ。一匹狼の弁護士のセバスチャン・ラッド(“Rogue Lawyer”)と、やはり弁護士で元ニューヨーク市の警官だったストーン・バーリントン(“Scandalous Behavior”)が今回も大活躍する。また“Warriors of the Storm”(8位)と, “Feverborn”(10位))はそれぞれ「サクソン物語」、「フィーバー」という人気シリーズの最新作。

アメリカでもファンタジー小説や古代戦記物は根強い人気がある。このカテゴリーの小説は常にベストセラー・リストに登場する。特に若者たちは、壮大な舞台設定や手に汗握るストーリー展開から、ロール・プレイング・ゲームに没頭するのと似た快感を得ているようだ。また、デジタル・グラフィックス(CG)技術の進歩は目覚ましく、こうしたファンタジー小説や古代戦記物は映像化しやすくなっている。これもヒットが生まれやすい背景である。
例えば”Warriors of the Storm”は古代イギリス史に基づく戦記物語「サクソン物語」シリーズの最新作だが、このシリーズの最初の2作品は2015年にBBCでテレビ・シリーズとしてドラマ化された。相乗効果で本の売り上げが上がり、映像化された作品の人気もさらに上がっていった。

逆に、大ヒットしている映画「スター・ウォーズ」最新作のノベライゼーション、“The Force Awaken”の場合は、最初に映画が公開され、あとで本が出版された。今週はベストセラー入りして3週目で6位だが、先週は2位、最初の週は1位だった。まさに《映画効果》。

“Feverborn” はアイルランドのダブリンを舞台にしたファンタジー小説シリーズの最新作で1月19日出版後すぐにベストセラー入りを果たした。こちらも人気は衰えない。

大人気シリーズの100年前の物語

今回書評する“A Knight of the Seven Kingdoms”(七王国の騎士)は、今週ついにベストセラー・リストから落ちてしまったが、発売から10週続けてベストセラー入りしたファンタジー小説である。

著者のジョージ・R・R・マーティンは『氷と炎の歌』(“A Song of Ice and Fire”)シリーズで知られる人気作家。シリーズ第1作『王座のゲーム』(”Game of Thrones”, 日本語翻訳版タイトルは「七王国の王座」)は1996年に発表され、現在第5作まで出版されている。米国のケーブルテレビHBOの人気シリーズ ”Game of Thrones”としてテレビドラマ化もされている。2011年に放映が始まって以来、2015年までに5シーズンが放送され、エミー賞をはじめ各種の賞を獲得している。第6シーズンは2016年4月から放送予定だ。

今回紹介する『七王国の騎士』は、「氷と炎の歌」シリーズの時代から100年ほど前の七王国が舞台で、放浪の騎士ダンクとその従者エッグの冒険物語3篇「放浪の騎士」「誓いの剣」「謎の騎士」が収められている。これらの物語は「氷と炎の歌」の前史という位置づけになる。「氷と炎の歌」の時代には滅んでしまっているターガリエン王朝が七王国を支配していた時代を描いている。
日本でも出版されたシリーズの前史を知りたいファンも多いと思う。以下で、3つの物語のエッセンスを簡単に紹介する。

「放浪の騎士」(“The Hedge Knight”)
ターガリエン王朝のデイロン2世の時代、旅の途中で病死した年老いた放浪の騎士を、若い従者のダンクが埋葬するところから物語は始まる。孤児で体ばかりが大きく悪ガキだったダンクを、放浪の騎士、サー・アーランは自分の従者にし、武術や騎士道を教え込んだ。サー・アーランの死後、ダンクは自分自身が放浪の騎士になった。名声をあげようとアッシュフォードで行われるトーナメントに向かう途中、坊主頭の奇妙な少年と遭遇する。エッグと名乗った。アッシュフォードでエッグと再会したダンクは、エッグの願いを聞き入れ従者にした。

アッシュフォードには、名のある騎士たちだけでなく、ターガリエン家の王子たちも顔を揃えていた。エイリオン(デイロン王の孫)が人形使い一座の娘に乱暴していたのを止めるため、ダンクはエイリオンを殴って捕えられてしまう。その事件のなかで、エッグが実はターガリエン家の王子、エイゴン(エイリオンの弟)であることが判明した。エッグ(エイゴン)は懸命にダンクを弁護するが、エイリオンやエッグの父親であるメイカー王子(デイロン王の末息子)は弟のエッグの言う事よりエイリオンの訴えを信じてダンクの有罪を主張した。ダンクが無罪になるには、《決闘による裁判》(“trial by combat”)でエイリオンに勝たなくてはならなかった。
一騎打ちではなく7人対7人の決闘で決着をつけることになった。エイリオン側は、父のメイカー王子をはじめ兄王子、《王の盾》(”Kingsguard“、王の親衛隊)の騎士など7人をすぐに集めたが、放浪の騎士であるダンクが6人の加勢を集めることは至難の業であった。やっと5人集めたところで決闘の期限は迫り、7対6の闘いを覚悟した時、最後にダンクの加勢に手を挙げたのは、なんと皇太子のベイラーであった。ベイラーはダンクの潔白を信じ、弟のメイカー王子や甥達に味方しなかったのだ。ダンクはエイリオンを死闘の末に降参させ、潔白を証明した。しかし皮肉なことに、弟であるメイカー王子から受けた傷が致命傷になり、文武に優れ、《王の手》(”Hand of king”、宰相)だったベイラー皇太子は命を落としてしまった。

エッグは身分を隠すことを条件に、父のメイカー王子からダンクの従者として旅することを許され、ダンクとエッグは放浪の旅に出るのだった。

「誓いの剣」(”The Sworn Sword”)
アッシュフォードのトーナメントから数年後、時代はデイロン2世から息子のエイリス王(1世)の世になっている。ダンクはスタンドファストの小領主、サー・ユースタス・オスグレイに仕える誓いを立てた。サー・ユースタスと隣のコールドモウトの女領主、レイディ・ロハンヌの水や領土を巡る争いに巻き込まれたダンクとエッグは、争いを見事解決する。

両家の争いを解決する過程で、先代の王デイロン2世が王座に就く前に、七王国を二分する大きな王室の跡目争い《レッドグラス・フィールドの戦い》があったことが明らかになっていく。
デイロン2世の父王、エイゴン4世には多くの庶子がいた。慣習として庶子には王位を継承する権利がなかったが、エイゴン4世は、歴代の王から王に受け継がれてきた名剣《ブラックファイア》(“Blackfyre”)を皇太子のデイロンではなく、武勇に優れた庶子のデイモンに与えた。これがデイモンが王座を狙う引き金となり、七王国の諸侯は、デイロン皇太子派とデイモン・ブラックファイア派に分かれてレッドグラス・フィールドで激しい戦いを展開した。結果は皇太子派が勝利し、デイロン2世が即位した。

《レッドグラス・フィールドの戦い》でサー・ユースタスがブラックファイア派で、レイディ・ロハンヌの父親が皇太子派だったことが両家の争いの遠因だった。最終的にはサー・ユースタスとレイディ・ロハンヌは結婚することになり、両家のすべての問題は解決した。
ダンクとエッグは、北を目指して再び旅に出た。

「謎の騎士」(“The Mystery Knight”)
北部への旅の途中で、ダンクとエッグはバターウェル公とフレイ家の娘の婚礼に向かうゴーモン・ピーク公が率いる一行と出会う。婚礼で馬上試合が行われることを知ったダンクは、賞金目当てに参加することにした。ダンクは《絞首台の騎士》(“Gallows knight”)と名乗り、《謎の騎士》として試合に登録をした。自信満々で試合に臨んだものの、試合経験豊かな《蝸牛の騎士》として知られる放浪の騎士から瀕死の一撃を頭に受け、失神する。

実は七王国を二分した《レッドグラス・フィールドの戦い》のしこりが未だ残っていた。婚礼の馬上試合の優勝者に与えられる賞品《ドラゴンの卵》を何としても手に入れようとするデイモン・ブラックファイアの遺児、デイモン(父と同じ名前)が亡命先からこっそりと戻っており、ゴーモン・ピーク公の一行に放浪の騎士として紛れ込んでいたのだ。ドラゴンはターガリエン王朝の象徴であり、すでにすべてのドラゴンはこの時代には死に絶えてしまっていたが、《卵》はいくつが現存しており、ターガリエン家の王子たちは《卵》を一つずつ持っていた。父の無念を晴らしたいデイモンは、自分が王に反旗を翻して王座を奪い取るために《ドラゴンの卵》が絶対に必要だった。
一方、エイリス王の《王の手》(宰相)であるブラッドレイブン公は《ドラゴンの卵》を守るために部下を婚礼の席に忍び込ませ、偽物とすり替えて、本物の《卵》を密かに城外に運び出していた。

反乱の陰謀を知ったダンクは、形勢不利と見て王側に寝返った婚礼の主のバターウェル公と一緒にエッグを城から逃がした。エッグから通報を受けたブラッドレイブン公は城を大軍で取り囲み、2度目の《ブラックファイアの反乱》の試みはあえなく消えた。

ダンクとエッグの冒険の旅は続く……。

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