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モーリー・ロバートソンが語る、「ぼくたちは何を読んできたか」②その青春の軌跡 モーリーのBOOK JOCKEY【第3回】

国際ジャーナリストからミュージシャンまで、幅広く活躍中の「モーリー・ロバートソン」が、その青春時代を振り返る!ここだけで語られる、破天荒な学生時代に惹きつけられる!

その夏のある夜、日本の民放テレビ局の案内人のアルバイトを依頼されていた。だがスタジオで発想が湧いて止まらなかったのでミーティングをすっぽかした。スタジオの外の廊下にあった黒電話は大学内でのみつながる回線だったため、連絡も入れなかった。その後、深夜になってテレビ・クルーが泊まっているボストンのホテルに赴いたが、即座に解雇を言い渡された。数時間ミーティングに遅れて現れたぐらいでクビにする日本人の潔癖な仕事の仕方にも落胆したが、なによりも電子音楽スタジオでの閃きをディレクターがまったく理解できなかったことが残念だった。ボストンの地下鉄の最終便はすでに終わっており、タクシーを止めるしかなかった。運転していたのは50代後半の白人男性だった。

アメリカにはタクシーの運転手とだらだらと会話する風習がある。ボストンやニューヨークなどの東北部では特にそうだ。ぼくも地元の文化に染まっていたので、延々と電子音楽が、日本人が、と話し込んだ。

「世界を変えなきゃ、核戦争が来る。それなのに日本のテレビ局といったら、アメリカの当り障りのない文化をやたらとありがたがってばかりで真剣味がない。今、人類は歴史的な意識のジャンプをしないと破滅するんですよ。こっちだってそういう意識を持って最先端の音楽をやっているわけで」

といった持論を後ろの席からぶつけると運転手は、

「いいこと言うねえ、若いのに」

と相槌を打つのだった。ぼくはおそらく心の奥底に寂しん坊が住んでいる。そのまま目的地の大学キャンパスに着いた後も1時間以上話し込んでいた。この会話の中で運転手に徐々に神秘主義へと勧誘されていった。話し込んでいる最中にタクシーに猫が飛び乗ったか何かでガタガタと揺れることもあった。最後は運転手の電話番号をノートからちぎった紙片に書いてもらってそのまま別れた。電子音楽スタジオに宿泊するつもりだったが、タクシーがガタガタ揺れたのは、つのだじろう原作「恐怖新聞」でも読んだことのあるポルター・ガイスト、つまりラップ現象だったのではないかと考え始め、一人で暗い建物の3階に居続けるのがとても怖くなった。結局近くの24時間、ぎらぎらと照明がつけっぱなしの科学館(サイエンス・センター)でコンクリートのベンチに横になり、巡回する警備員に、

「ここで寝てはいけません」

と起こされながら再び横になるという繰り返しで夜明けまで粘った。朝になるときっとポルター・ガイストは現れないだろう。そんな気持ちでスタジオに戻り、昼過ぎまで床で寝た。

同じ年の11月、寒くなったニューヨークにTBSの衛星特派員の仕事で一泊した。仕事が終わった後、好都合なことにイギリスのノイズ・バンドが深夜に大型ディスコ「ダンセテリア」でライブをやることになっていた。本国でスキャンダラスな話題をふりまく「スロッビング・グリスル」というバンドが前身だったが、新たに「サイキックTV」と名乗ってのツアーだった。このパフォーマンスを見て心の奥、体の奥にまで届きそうな衝撃を受けた。

とにかく耳がツーンと余韻を持ってしまうような轟音の中、カルト教団「ハレ・クリシュナ」のメンバーに扮した衣装でリーダーが叫びまくる。轟音には重低音が含まれ、骨盤に届く周波数が大型スピーカーから押しこむように出力される。VHSから大型スクリーンにさまざまな世界の奇怪な風習や宗教儀式の様子が続々と投影される。アメリカ南部の記録映像で狂信的なキリスト教徒たちがお互いにヘビを渡し合い、ヘビに触れた途端に地面に仰向けになって叫び始める映像。目尻が上がったフォックスタイプのメガネをかけた赤毛の女性がぐったりとしたヘビを両腕に抱え、全身を交互に揺らせ、口を開けて叫んでいる。続いて、アジアのどこかの国でブッダの銅像の前で祈祷しながらトランス状態になり、上げたままの腕がピクピクと痙攣する男性の映像。KKKでお馴染みの、大きな炎に包まれる十字架。連続殺人鬼チャールズ・マンソンのインタビュー動画。これらが編集によってめまぐるしく、脈絡なくつながっていった。

最終的にはリーダーが男性器にピアス手術を受けている様子を映しだした場面も流れる。ダビングを重ねたためか、ボカシを入れたためか男性器のアップは映像が滲んでいたが、まぎれもないペニスの映像であることは判別できた。手術用の手袋をはめたドクターが片手でペニスを固定し、もう片手で糸のついた金属針をペニスに刺す。そのままぐいぐいと針を通し、亀頭に赤い点が見えたかと思うと、そこから銀色の針の先が貫通して出てきた。おぞましい映像に息を呑みながらも、目が離せなくなった。その一番残酷な場面でリーダーがマイクに口を被せた状態で、

「ぎゃーっ!」

と音が歪むほどの叫び声を上げる。苦痛の映像と轟音と低周波と危険なカルト儀式と。ぼくはこれまでにないほどの感動を覚えた。これだ。これこそが本物なんだ。おぞましい魔術と音楽を融合させたアートを目指そう。

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