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アメリカ人はどんな本を読んでいるのか?大統領選挙イヤーに売れている本は?-ブックレビュー from NY【第4回】

NY在住のジャーナリスト、佐藤則男が、今のアメリカのベストセラー事情を紹介。今回は、トランプ氏の発言や、注目の話題作について解説します!

大統領選挙に1000億円献金をぶち上げた大富豪

今月のベストセラーで筆者が興味を引かれたのは、コークファミリーの政治献金を論じた“DARK MONEY”だ。彼らが経営している「コーク・インダストリーズ」は、1940年創業で、石油、化学、日用品の総合企業である。非上場では全米第2位の規模を誇る。

2013年の売り上げがグループ全体で1150億ドル(約13兆8000億円)あり、従業員数は約10万人。チャールズとデイヴィッドの兄弟の資産は、それぞれ約220億ドル(約2兆6000億円)といわれている。

コーク兄弟は自分たちの豊富な資金に加え、考えを同じくする保守的な大口献金者たちを集め、政治献金ネットワークを作り上げている。チャールズ・コークは、2016年のアメリカ大統領選挙では「8億8900万ドル(約1000億円)を選挙資金として投入する用意がある」と言っている。

2014 年 4 月2日、個人の政治献金の総額規制の合憲性が問われた訴訟で米連邦最高裁は言論の自由を謳った憲法修正第1条に違反するとして、総額規制は無効との判決を下した。裁判官のうち違憲の判断が5人、合憲が4人で、多数を占める保守派の考えが僅差で通った結果だった。

それまでの政治資金規正法では、個人は2年ごとの選挙サイクルの間、連邦議員選挙への立候補者に対する献金額を12万3200ドル(約1281万円)に制限されていた。多数意見のロバーツ最高裁長官は、こうした規制は言論の自由に違反し、それは政治の腐敗との闘いという公共の利益によって正当化されるものではないとの見解を示した。

この判決で、政治献金は増えるばかりとなった。特に大統領選挙のように期間も規模も大きな選挙では、コークファミリーのような富豪が政治を左右する力が大きくなった。もっとも、この政治献金に関する新しい判決がきっかけとなって、現在行われている大統領選挙では、社会主義的政策を掲げ、「政治とカネ」の問題を厳しく批判する民主党のサンダース候補が予想外の善戦を見せている。共和党のトランプ候補も、自分は大富豪でありながら、巨額の選挙資金について強く批判して喝采を受けている。それほどアメリカ人の政治不信は根強く、ワシントンの主流派に対する反乱となって大統領選挙をかき回している。
 

世界がおののく風雲児・トランプという男

ベストセラーには入らなかったが、米国大統領選挙の共和党予備選挙で快進撃を続けているドナルド・トランプが昨年秋に出版した本『機能不全のアメリカ:いかにしてアメリカを再び偉大な国にするか』が引き続き話題だ。

出版直後の2015年11月から今年2月の初めまで、12週続けてニューヨークタイムズ・ベストセラートップ10に入った。3月6日の週も含め最近はベストセラー落ちをしていたが、翌週の3月13日の週には(10位以内には入らなかったものの)15位で再びベストセラー・リスト入りを果たした。

トランプは極端な政策や挑発的な言動で多くのアメリカ人の顰蹙を買ったり、反対に多くの選挙民を魅了したりしている。そして共和党内部で、伝統的な保守本流の幹部を怒らせ、トランプに勝たせない方法を懸命に探させている。

この本では、彼の国内政治や外交政策に対する意見が簡潔に小気味よくまとめられている。トランプがテレビ討論や予備選挙でセンセーショナルに言っているのと基本的には同じ内容だが、本では論理的に語られているので、テレビで彼の演説や討論を聞いて反感を持ったとしても、この本を読めば共感する読者も多いのではないかと思う。

トランプはアメリカに対し怒っているし、失望もしている。

しゃべるばかりで何も成し遂げることのできない政治家、対立するばかりで行き詰まって何も決定できなくなってしまった議会、そして《無能な》大統領。そのためにアメリカの持っていた《世界のリーダーとしての偉大さ》は消えてしまった。中東でのかつての指導的な立場はプーチンに奪われ、国内的には不法移民の増加やそれに伴う治安の悪化に苦しみ、中産階級や低所得者層の収入は下降線をたどり、生産業の空洞化は失業を増加させ、オバマ大統領による医療保険制度改革(オバマ・ケア)や教育制度の破綻など、問題山積のアメリカをどうすれば再び《偉大な国》にすることができるのか? トランプは本のなかで自分の考えを次のように展開している。

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