本との偶然の出会いをWEB上でも

アメリカでのベストセラーの中から注目の一冊・サスペンスの最新作に注目-ブックレビュー from NY【第6回】

NY在住ジャーナリスト・佐藤則男がお届けするアメリカのベストセラーランキング!

本コラム筆者が選んだ1冊は、米国で《サスペンスの女王》として知られるメアリー・ヒギンズ・クラークの最新作“As Time Goes By” だ。これは今週のベストセラーリスト4位、先週ベストセラー初登場で堂々1位だった作品である。

クラークは1975年に出版した初のサスペンス小説“Where are the Children?”の大ヒット以来、主にサスペンスを執筆してきた。多作の小説家ではないが、2015年の時点で彼女の出版したすべての本(共著も含め51冊)がいまだ出版中で、デビュー・サスペンス小説“Where are the Children?”はすでに75版を重ねている。

彼女は1927年にニューヨーク市ブロンクスのアイリッシュ・パブ経営者の娘として生まれた。パブの経営状態が悪くなり、父親が早く亡くなってから家庭は貧しく、奨学金で高校を卒業後、秘書養成学校へ通った。秘書として働いた後、パンアメリカン航空のスチュワーデスになり、1年後に結婚退職した。結婚してからニューヨーク大学でライティングを学び、短編小説を書いて家計の足しにした。結婚10年目に夫のウォーレンが病気で亡くなってからは、ラジオの放送作家として生計を立てながら、子供5人を育てた。その間も婦人雑誌向けに短編小説を書いていたが、60年代の終わりにはそれも次第に需要がなくなってきていた。

1968年に出版した最初の長編小説“Aspire to the Heavens”は、ジョージ・ワシントンと妻のマーサの家族愛の物語だったが、売れなかった(なお、この作品は2000年に“Mount Vernon Love Story”とタイトルを変えて再出版され、今日まで版を重ねている)。

1975年、初めてのサスペンス小説“Where are the Children?”を出版すると、たちまちベストセラーとなった。2年後には2冊目のサスペンス小説”A Stranger is Watching” を出版、以後、メアリー・ヒギンズ・クラークは《サスペンスの女王》への道をまっしぐらに進んでいくことになる。

先週1位でベストセラー入りを果たし、今週4位の“As Time Goes By” は、ニューヨークのテレビ局の若い報道記者、デラニー・ライトが主人公だ。デラニーは抜擢され、ニュージャージーの金持ち医師、エドワード(テッド)・グラント殺人事件の公判を取材することになった。殺された医者の16歳年下の妻、ベッツィーが殺人犯として起訴されているセンセーショナルな事件だった。デラニーは取材に奔走し、公判の様子をテレビニュースで報道した。そして次第に、容疑者のベッツィー・グラントが真犯人ではないという確信を持つようになった。

裕福な家庭で、両親や3人の兄に可愛がられて育ったデラニーではあるが、心に屈折したものがあった。それは、彼女の両親は育ての親であり、生母や実の父親に関して何もわからないことだった。若いデラニーの年上の友人として登場するのが、アルビラ・ミーハン(“Alvirah Meehan”)とその夫のウィリーだ。この夫婦は、クラークの小説ファンであればすぐピンとくるのだが、1994年出版の“The Lottery Winner” の主人公とその夫である。ウィリーは水道修理工、アルビラは家政婦として働いていたが、ある日、《宝くじ》(”Lottery”)に当たって一夜にして大金持ちになり、今やセントラルパークを見下ろす高級マンションに住んでいる。アルビラは生来好奇心が強く、金持ちになってからは、素人探偵として数々の事件を解決してきた。デラニーから出生の疑問について聞いたアルビラは、デラニーの生母探しを引き受けたのだった。

物語は、《医師殺人事件公判》に関するデラニーの取材・報道活動と、アルビラの《デラニーの生母探し》が並行して進んでいく。そしてアルビラはデラニーの出生の秘密を探るうちに、《医師殺人事件》にたどり着き、驚愕の事実を知ることとなった!

 

心地よいマンネリズム

出版すればベストセラーになり、絶版作品がいまだゼロというメアリー・ヒギンズ・クラークの魅力は、一口に言えば《心地よいマンネリズム》だろう。

 

マンネリズム 1:作品のタイトル

クラークは自身の作品のタイトルに古い歌や曲のタイトルを使うことが多い。2006年に”Two Little Girls in Blue”を出版した時のインタビューで、「私は歌のタイトルや一節を自分の本のタイトルに使うのが好きです」と答えている。最新作 “As Time Goes By” のタイトルも古い曲名からとったものだ。1931年にブロードウェイ・ショーのために作られた曲で、後に映画[カサブランカ]の中でサム (Dooley Wilson)が歌って有名になった。

 

マンネリズム 2:主人公の人物像 

クラーク作品のマンネリズムは主人公に関しても言える。多くの作品で同じような主人公が描かれている。犯罪に巻き込まれた若い教養ある美しい白人女性であり、トラウマや封印された過去に苦しみながら、犯罪の解決とともに精神的な困難も克服していくというパターンが多い。今回の作品も典型と言える。個々の作品の設定を頭に入れようと苦労しなくても、ファンは安心してメアリー・ヒギンズ・クラークの世界に浸ることができる。

 

マンネリズム 3:脇役のアルビラとウィリー

クラークの作品には特定の探偵や主人公のシリーズものは特にない。しかし、最新作を含め、“宝くじ探偵”のアルビラとウィリーの夫婦は、これまで9作品に脇役として登場し、事件を解決している。好奇心が強く、おせっかいなアルビラは素人探偵としていろいろな事件に首を突っ込み、夫のウィリーはそんなアルビラの良きサポート役として事件解決に手を貸してきた。おなじみのアルビラとウィリーの登場で、ホッとくつろぐ読者も多いことだろう。

 

マンネリズム 4:なじみのレストラン“Neary’s”

ニューヨーク市出身で、ニュージャージーにも家を持つクラークは、土地勘のあるニューヨーク、ニュージャージー近辺を小説の舞台にすることが多い。そして作品には実在のレストランがよく登場する。そのひとつが、マンハッタン、イーストサイド57丁目にあるアイリッシュ・レストラン“Neary’s(ニアリーズ)”だ。本コラム筆者が読んだクラーク作品の大部分にこのレストランの場面があり、オーナーのジミー・ニアリーも、しばしば本名で登場する。

記事一覧
△ アメリカでのベストセラーの中から注目の一冊・サスペンスの最新作に注目-ブックレビュー from NY【第6回】 | P+D MAGAZINE TOPへ