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アメリカでのベストセラーランキングとともに注目のヒット作「大統領伝記もの」を紹介-ブックレビュー from NY【第5回】

NY在住ジャーナリスト・佐藤則男が、アメリカの「今」のベストセラーを紹介します。アメリカの外交の基本を知ることができる一冊を解説します。

以上ベストセラー・リストを見て目を引くのは、先月の当コラムで取り上げたジェーン・メイヤーの「Dark Money」だ。先月以来ずっとベストセラー入りしていて、じりじりと順位を上げている。自分たちが政治家になるのではなく、ふんだんな資金を政治に投入することで政治的野心を達成しようとする大金持ちのコーク兄弟について書かれている。2010年のアメリカ中間選挙での共和党の勝利は、コーク兄弟とその一派の財閥による政治的野望の勝利だった。それから5年間メイヤーはリサーチを続け、今年1月に本作の出版にこぎつけた。大統領候補者選びで迷走するアメリカ政治の混乱のなか、コーク兄弟とその一派の財閥がアメリカの民主主義をハイジャックしているとする警鐘が、多くのアメリカの読者の関心を呼んだものと思われる。

19世紀の戦争を描いた歴史物語

今月の選者の1冊、「トーマス・ジェファーソンとトリポリの海賊」は昨年11月の発売以来、3月半ばまで17週続けてニューヨークタイムズ・ベストセラー入りを果たした。最近アメリカで人気の“大統領伝記もの”ではあるが、19世紀はじめの戦争活劇のような作りで、文芸や歴史書を好む層にも支持されている。もし翻訳されれば、日本でも歴史小説などの愛好家に喜ばれるだろう作品だ。

アメリカ合衆国第3代大統領トーマス・ジェファーソンは1801年の大統領就任直後、バーバリ沿岸(北アフリカの地中海沿岸“the Barbary Coast”)のトリポリ(オスマン帝国支配下の自治国)の海賊からアメリカ商船を守るため、アメリカ海軍の艦隊をバーバリ沿岸海域に送る決断をした。本書は、アメリカ合衆国とトリポリの第一次バーバリ戦争(1801年-1805年)を軸に、ジェファーソンのバーバリ諸国との関わりについて、当時の資料に基づいて再現している。

著者ブライアン・キルミードはフォックスニュース・チャンネルの朝番組“Fox & Friends”の共同司会者(co-host)であり、彼自身のラジオ番組「Kilmeade &Friends」のホストでもある。共著者のDon Yaegerとともに、2013年にもベストセラー本「Washingtons Secret Six」」を出版している。

アメリカ合衆国とバーバリの海賊

18世紀の終わり、アメリカ合衆国は新興独立国として問題が山積していた。特に独立戦争の膨大な出費は深刻な財政難をもたらし、赤字解消のためには貿易促進が急務であった。アメリカ東海岸から出発した商船は大西洋を横断し、ジブラルタル海峡からヨーロッパに向かった。当時ジブラルタルを中心とした大西洋、地中海を含む一帯は海賊が横行し、アメリカ商船が海賊に襲撃され船舶や積み荷が奪われるだけでなく、船員が捕えられ奴隷とされる事件が多発していた。

このころ北アフリカの地中海沿岸地方(バーバリ沿岸地方“the Barbary Coast”)はオスマン帝国の支配下だった3つの自治国(アルジェ、チュニス、トリポリ)に、独立国であるモロッコを含めたバーバリ諸国(Barbary States)から成り立っていた。バーバリ諸国が事実上海賊たちを支配し、《海賊業》はバーバリ諸国にとっての重要な収入源であった。ヨーロッパ諸国は、バーバリ諸国と協定を結び、上納金(tribute)を納めることで、バーバリ沿岸を航行する自国の商船が海賊に襲われないようにしていた。またヨーロッパ諸国は戦艦をバーバリ沿岸に送り、自国の商船の警備もしていた。

アメリカ合衆国は独立後英国からの外交上の保護がなくなり、18世紀の終わりから19世紀の初頭、国際的に孤立していた。アメリカ商船が海賊に襲われたとしても、他のヨーロッパ諸国の海軍による保護は期待できなかった。独立後、財政難を理由にアメリカ海軍は廃止されたので、自国の戦艦に守ってもらうことも不可能だった。財政難で上納金を払えなかったアメリカの商船は海賊の格好の餌食だった。

1785年、2隻のアメリカ商船がアルジェの海賊に襲われ、船舶や積み荷すべてを奪われ、船長以下船員全員が奴隷にされた事件から物語は始まる。当時ワシントン大統領の下、フランス公使としてパリに駐在していたジェファーソンは、英国大使だったジョン・アダムスとともに、奴隷にされたアメリカ人船員の解放のため困難な交渉をアルジェの太守と行っていた。同時に他のヨーロッパ諸国と同じように上納金を納めることでアメリカ商船を海賊から守るための交渉をバーバリ諸国と行った。

交渉は難航し、次第にジェファーソンとアダムスの考え方に隔たりが目立ってくる。アダムスは、《平和を買う》(buy a peace)方向で、上納金の額の交渉を続けたが、ジェファーソンは海上の自由のためにバーバリ諸国に強い態度で臨むことを提案し始めた。ジェファーソンは、身代金や上納金、海賊に略奪された損失より、強い海軍を作ってバーバリの海賊に対抗したほうが安上がりではないかと考えるようになっていた。

交渉途中でジェファーソンは本国に戻り、初代大統領ジョージ・ワシントンの下、1789年に国務長官に任命された。ジェファーソンは大統領にアメリカ合衆国海軍の設立を進言、議会では賛否両論だったが、バーバリ諸国との交渉が難航している状況下、もしバーバリ諸国との平和が達成されれば即、戦艦の建造中止という条件で、海軍設立のための法律が1794年議会で可決された。

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